「不憫」

生徒会波乱物語:神野和樹・西山桜






静かな生徒会室、というフレーズにものすごい違和感がある。
それでも人がいなければ、ここも静かになるのだ。
有希と原松は遊びに、紅葉は特階生の仕事。つまり残ったのは、久々に大あくびできる俺と、

「……あ、クッキー、割れてる」

ぼけっとしている桜だけだった。

「今日はどこで転んだんだ?」
「和樹さん、ひどい」
「悪い悪い」
「……転んだことには、転んだけど」
「オイッ。……怪我とかは」
「なれた」
「悲しいこと言うなよなぁ」

ぱくり、とクッキーを一口。少し色褪せた唇に入りきらなかった欠片が、ぽろぽろとこぼれていく。
あぅ、と目をばってんにしながら掃除しようとかがめば、片手に持っていたクッキーが落っこちた。
乾いたとを立てて、真っ二つ。

「……」
「えぅ……」

不憫だった。
仕方ないので、クッキーの欠片を拾い――どうやらラスト1枚だったらしい。袋は空っぽだった。
桜は、初対面の時から随分と端麗になった顔をいっぱいに歪め、唇をぎゅっと絞る。
ぽん、と俺の手がひとりでに頭へと乗せられた。
ふんわりとした桃髪。触感が、ぶわっと扇なんかが広がるイメージを浮かび上がらせる。

「あー、うん、あれだ。なんか買いに行こう。お菓子」
「……いいの?」
「おう」
「でも、和樹さん、忙しい」
「生徒会長席で大あくびしてる奴を指差して忙しそうとか言うのはアレか。嫌がらせか」
「えへへ」
「否定しろっ!」

ぐしゃぐしゃ、と髪を掻き混ぜてやる。あぅぅぅ、と困った声をあげながらも、桜は楽しそうに笑っていた。

「ったく。ま、アンラッキーでヘコんだ分、ぱーっと行こうぜ」
「うん」

不憫を幸運で上塗りし続けて、早1年。



執筆年月:2012/05/07

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