「アンバランス」 死神姫:鋭利快翔・草斬空 草斬空が白いシャツを着てサンドイッチを頬張っていた。 「……え?」 鋭利快翔はその光景を見て――失礼であることを承知の上で、顔を強張らせた。 目が点、とはまさに今の彼を指すのだろう。 それに対し、日頃から他人の視線に敏感――ただし興味がないので気にしない――空は、あからさまに眉を寄せた。 「ひゃによ」 咳ばらい一つ。 「何よ」 「あ、いや……め、珍しいなあって思って。ほら、白い服、空さんってあんまり着ないから」 「悪い?」 悪くはないよ、と慌てて首を横に振る。空が目を細めるだけでこの裏リビングに険悪な空気が漂うのだから、さすが歴戦の猛者だ。 「でも今日はどうしたの? あ、もしかして気分転換とか」 「葵」 「……ああ」 なんとなく想像がついた。 あの怖い物しらずな葵が、シャツ片手に押して押して押したのだろう。きっと今頃は、頭にたくさんのたんこぶができているに違いない。 しかし不思議だ、と快翔は思う。白の服を着ているだけなのに、それだけで空のイメージは随分と異なっていた。 いつもの刺々しい、他人を寄せつけない雰囲気が少し和らいでいる。かといって話しかけやすい空気というほどでもなく、言うならば教室の隅で静かに佇む少女、といったところか。 「……そんなに珍しい訳?」 あまりにもじろじろ見ていたからか。空の鋭い声が快翔の耳に突き刺さる。 「いや、まあ……うん」 「自覚はしてるけどね。けど、黙れ」 「理不尽だよ」 「没個性の人間には言われたくないわ」 「ひどい……」 この辺はいつもの空だった。 結局、黒が灰色になったところで、口元を拭う彼女が尖っているのは何ら変わりがない。 服一つで緩和されても妙な話だけどね、と快翔は苦笑い。 「殴るわよ」 「なんでさ」 「腹立つから」 「あはは……ごめん」 「殴る」 「暴力はよくないよ、空さん」 |