「川上玲二」

生徒会争乱物語:柏崎澪音・川上玲二
(第2章公開前キャラ紹介小話)






基本的に、柏崎澪音は昼食を学食でとっている。
忙しい時などは生徒会室で済ませるのだが、できる限り閉塞的にならず、一般生徒と接したいという考えである。
それに加え、騒がしいところが好きということもあり、澪音を昼休みに見たという話はあちらこちらで聞かれる。

しかし、それが災いしてか――今日は、遭遇したくない人間と遭遇してしまった。

「……なあ、玲二」
「なんだ。全く、昼食を静かに済ませることもできないのかい?」
「別にいいじゃねえかよ、騒がしく飯を食っても。てか、例えばみんなが静かに飯を食ってみろ。学食に人がいっぱいなのにサイレントって、ホラーだぞそれ」
「そういうことを言ってるんじゃない。全く、君はどうしてそう下品なことしか考えられないかね」

めんどくせえ、と吐き捨てたくなるのを抑え、手元の焼きそばへと手を伸ばす。
ソースが制服に少しかかってしまった。すぐにテーブルでごしごしと拭きながら、改めて正面に座る男子を睨む。
川上玲二。
クラスメイトであり、生徒会会計。高校一年生からの縁だが、澪音としては“一番相手にしたくない友人”という位置づけになっている。

「それにしても、こんな騒がしいところで食事をする輩の気持ちが僕には分からないな」
「ならくんなどっか行け」
「君にどうこう言われる筋合いはないよ。全く、人の顔を見たら文句を言うというその癖はやめた方がいい。少なくとも好意的に捉えられることはないだろう」
「テメエの顔だから文句を言ってんだよ俺は。他の奴にそんなことなんか言わねえ」

停止。
会話どころか時間さえも止まった気がした。違和感に気づき、あん? と澪音が顔を上げると、玲二はなにやら唖然とした顔で固まっていた。
訳分かんねえ、と焼きそばを口へと動かす。

「……全く、僕は特別扱いということかい? 気持ち悪いことこの上ないね」

吹き出しかけた。
むしろ吹き出してしまえばよかったと、澪音はつい思ってしまった。

「テメエの言ってることの方が気持ち悪ぃよ……」
「そうさせたのは君だろう? 責任転嫁はどうかと思うけどね」
「……ごちそうさん。じゃ俺もう行くわ」
「うん? まだ料理は残っているようだが。僕に食べろと?」
「違ぇよテメエと会話したくねえんだよ同じ場所にいたくねえんだよ察せバカ!」

本当に気持ち悪い、と嫌悪感を隠そうともしない澪音。
なぜ自分はこんな奴と一緒に生徒会なんてやれているのかと、半ば本気で思う。
澪音としては一応、公私は分けることができるタイプ――仕事となればどんな相手とでも組めるという性格だと自覚しているが、玲二だけは駄目だった。

(ほんっとに……こんなのといると、イライラする……っ!)

だからこそ。
だからこそ、前の異見戦争の前に――あの気弱で聞き役として適している、有害とは程遠い少年が欲しくなる。
ああいうタイプの人が周りに一人でもいれば、ストレスは随分と軽減されるだろうに。

(……いや、待てよ)

しかし――それは。それは叶わない夢なんかではなく、なんとかすれば実現できる望みではないだろうか。
チャーハンを食べながら難しい顔をしている玲二が、こんな性格ながら生徒会として活動できているのは、それなりに玲二が有能だからだ。
戦闘面ではからっきし(参加しようともしない)だが、頭脳面では澪音でも認めなければならない能力を持つ。
ならば。

「おや、食事はやめたんじゃなかったのか?」
「いや。ちょっとな。考え事みてえなもんだ」
「ふん。全く、君みたいな単細胞が何を考えても無駄だろう」
「……蕎花さんといいテメエといい、オメーらは俺を苛立たせる称号しかつけられねえんだな。それより玲二、」
「ごちそうさま。では僕は行くとしよう」
「ってコラ待て! 俺が話そうとした瞬間に立ち去ろうとすなや!」
「何を言っている。僕は食事を終えたから去ろうとしただけだ」

そして玲二は立ち去っていった。

(……クソッ! あーもうめんどくせえ……次に生徒会室に来た時でいいや……)

やるせない気持ち、ぶつけることのできない怒り。
仕方なく、澪音は手元に残った焼きそばをかきこみ、食器を返却。新たに食券を買いに行くのだった。



執筆年月:2011/02/13

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