「長森紅」

生徒会争乱物語:長森紅
(第2章公開前キャラ紹介小話)






これは、彼女が小学三年生の時の話。





「なんでこんなことしたの?」

長森紅は自宅のリビングで正座していた。
正確には、させられていた、と言うべきか。目の前には仁王立ちの母。
ううっ、と紅は泣きそうになるのをぐっと我慢しつつ、だってぇ、と口を恐る恐る開いた。

「ソージ君がミウちゃんをいじめてたから……」
「いじめてたからいじめていいって、お母さんはそんなこと教えてないでしょ? なんで紅がその宗二君を殴ったりするの」
「うぅ……」
「いつも言ってるでしょ? お友達と勝負するんじゃなくて、仲良くしなさいって。分かってるの?」

分かってるもん、と紅は内心で思う。
内心で、というのは、口に出せば怒鳴られることを体で理解しているからだ。いつも優しく、ある程度のわがままを聞いてくれる母だが、怒ると怖い。本当に怖い。
どれほど怖いかというと、ホラー系のテレビ番組を見ても震えることすらしなくなるくらいに。
それよりも恐ろしい存在を、知っているのだから。

「聞いてるの、紅」
「き、聞いてるよ」
「それで、宗二君にごめんなさいって言ったの?」
「そ、それは、えっと……」
「言ってないのね。はぁ……悪いことをしたら謝りなさいって、学校の先生にも言われたでしょ」

それはそうかもしれないが、紅は自分が悪いことをしたと思っていなかった。
どちらかというと、ミウちゃんをいじめていたソージ君をやっつけた自分は、すごいと言われるべきだと思っているのだが。
だが残念なことに、現実は見ての通り。自分が悪者として叱られている。

それからも母親の説教は二十分ほど続き、最後には「ちゃんと宗二君には謝りなさい。こんなことはしないようにね」と釘を刺されるのだった。





姉妹共同で使っている部屋に戻った紅は、八つ当たりをしていた。

「ね、ね、おねーちゃんもおかしいと思うよね! わたし、悪くないよね!」

相手は長森凛。紅の一つ上の姉で、やんちゃな姉とは正反対の性格。
紅が唾をまき散らしながら力説していても、それを冷ややかな顔で見ているだけ。
小学四年生にしては静かすぎる、ということで、学校でも少し距離をとられている少女だ。

「勝負しちゃいけないっておかーさんは言うけど、勝負するの、何がいけないのか分かんないよっ」
「……」
「おねーちゃんはどう思う?」
「どうも思わない」

凛は即答した。

「お母さんがそう言うなら、そうすればいい」
「もーっ、おねーちゃんはまじめすぎるもんっ。おかーさんの言うことなんて聞かなくていいんだよ!」
「なんで?」
「なんで、って、そんなのつまんない……から?」

紅にもいまいち、理由は分かっていなかった。
それを小さな反抗期だと知るのは、もっと後のこと。今の紅は、“なんとなくつまらないからおかーさんの言うことを聞きたくない”という程度の認識だった。

「お母さんが言うこと、間違ってはないと思う」

子どもにしては低い声で言う凛。
もーいいよっ、と紅はそっぽを向いた。なんか自分の味方は一人もいそうにない。



執筆年月:2011/02/13

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