「ショートケーキ」

生徒会波乱物語:神野和樹・親和有希






親和有希が甘いもの好き、というのは今に始まった話ではない。
というか俺と出会う前から始まっていたことだ。彼女の中学時代からの友人である日下部曰く、初対面からケーキバイキングに誘われたらしい。

そんなスイーツラヴァーガールだからこそ、うちに来た時、あまったショートケーキを差し出してみた。
ものすごく喜ばれた。
具体的には、その場で飛び跳ね駆け始めた挙句その辺で転び、膝をさすりながらも笑顔というくらいには。
どこの踊り民族か。

「ん〜♪」

かくして、現在リビングにいる俺達。
ソファを挟んで対面に座り、互いの前には小皿に乗っかった白いケーキ。
プラス、この前我が家の同居人その1が買ってきた、割とおしゃれなカップ(紅茶入り)。
なお、その同居人2名はどっかに遊びに行った。その間に有希が来たことに関しては、ただ単なる偶然である。

「おいし〜♪」

……それにしても、えらく幸せに食べる奴である。
ケーキなんて今まで飽きるくらいに食べているだろうに。それでもなお、こんなに幸せな気分になれるものか。

「……あれっ? 和樹、食べないの?」

フォークを持ったまま有希を凝視していたら、きょとんと首を傾げられた。

「いや、まあ……あれだ。有希、俺の分も食うか?」
「ええっ!? あ、いやそれはさすがに悪いよ!」
「でもな……なんつーか。俺はこれを食うより、楽しげにお前が食ってるお前を見てる方が楽しいっつーか」
「ふぇ!?」
「てか面白い。その方が面白いと俺は思う」

有希、びっくり顔で目をまん丸にする。
慌ててもぐもぐと口を動かし、端についたクリームをごしごしと拭っていた。
……有希が着ている服は白いから、汚れは目立たないけど……行儀悪いぜ。

「どどどういうこと!?」
「どういうって、言葉通りだよ。いや、出しておいてなんだけど、俺って甘い物そんなに好きじゃねえからさ。俺が食うよりは、お前が食った方がいいんじゃねえかなって」
「え、ええと、こういう時は遠慮しない方がいい?」
「遠慮がいる間柄だと思うか?」
「じゃあ、ありがたく頂くんだよっ」

そして俺の皿を手前まで寄せる有希。
いつもに比べて躊躇が少ないのは、甘い物が絡んでいるからだろうか。
もっとも、勧めたのは俺なので、文句なんて言わないのだが。

手をつけていなかった紅茶を、一口。
なおもハッピーな顔でもぐもぐと好物を頬張る少女の前では、少しだけ味が違っていた気がした。



執筆年月:2010/10/29

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