「常識は投げ捨てるもの」

生徒会波乱物語(※完結記念後):神野和樹・親和有希・御堂愛






「有希ちゃん有希ちゃん」
「なに?」
「ちゅーしよう!」

時が止まった。

笑顔で振り向いたまま、固まる有希。
満面の笑顔で、言い切ったぜ、と胸を張る御堂。
……うん。

「とりあえずマリア様はテメエを見てねえ」

ごすん!

「うぎゃ!」

どさっ。

「よし有希行くぞ」
「え、ええと、でも愛ちゃんが」
「妄言を吐く馬鹿はこの世に最初から存在しなかったおめでとうさあ行こう」
「あ、ちょ――」

ぽかんと口を開ける有希の手を引き、俺は踵を返した。

「ちょい待ったー!」

しかしその前に、荒い息を吐く御堂が立ち塞がる。

ここは路上、商店街の入口。
あの祭りの後、どうしてもと有希が何度も誘うので、仕方なく出てきたのだが……どうにもアホな事になった。

「おい変態そこをどけ」
「誰が変態か! ボクは純粋に、有希ちゃんとちゅーしたいだけなのさ!」
「それを変態って言うんだよ!」
「失礼な! ピュアで有名なボクを何だと思っているのさ!?」
「変態。てかテメエの腹の中は常に黒いだろうが!」

人前にも関わらず、ギャーギャー騒ぐ俺たち。
結果、

「す、ストーップ!」

有希がキレた。
至近距離で睨み合う俺たちを引き離し、頬を膨らませる。

「喧嘩しちゃ駄目だよっ! 2人はいっつもいっつも――」
「じゃあ有希ちゃん、ちゅーしてくれる?」
「つまんないことでってふぇっ!?」

しかし御堂とは正反対の、正真正銘の純白少女は顔を真っ赤にした。

「なな、なんでそうなるの!?」
「有希ちゃんが大好きだから!」

人前で何を喚くかこの馬鹿は。

「テメエはそろそろ黙ろうか」
「フラれて傷ついた有希ちゃんを慰める役、それがボク!」
「さらりとキツイこと言うな!」
「つまりキミが悪い!」
「ムチャクチャだなおい!」
「常識を捨ててでも、ボクはやってみせる!」
「捨てる所を間違えてるんだよテメエはいつも!」
「いや、四股してたキミに言われてもねー……」

決めた。コイツ沈める。

「だめーっ!」

拳を握った瞬間、有希が叫んだ。

「いつまでもそんなこと言っちゃ駄目だよ! 和樹、そうやって頭ごなしに否定するの駄目っ!」
「あ、じゃあ有希ちゃんちゅーして――」
「愛ちゃんも! 冗談もほどほどにしないと、和樹だって怒っちゃうよ!」
「えー」

珍しく、有希が愛にも怒鳴ってる。

「あのね」

俺たちが黙るのを見て、小さく可憐な、だけど芯の強い口が開かれた。

「喧嘩しちゃ駄目とは言わないけど、少しは仲良くしよ? せっかく友達になれたんだから」

柔らかい口調。幼く、それでいてお姉さんみたいだった。

……まあ、それはやっぱり難しいけど。
けれど。

「……だな。少しは努力してみるか」
「ボクはいつでも歓迎だけどね」
「よし、その一言でやる気失せた」
「なぬー」

少しは……悪く、ねえのかな。
まだちょっと分からない、難しい今日この頃。



執筆年月:わすれた

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