「黒歴史」 悠々荘の閑話:藤堂真一・天沢杏奈 家に帰ったら、テーブルの上に小さい頃の写真が置いてあった。 「・・・・・・」 ・・・・・・家に帰ったら、隠していたエロ本を公開されている青少年って、こんな気分なのだろうか。まさか、その気分を俺が味わう事になるとは。 ともあれ、俺はすぐにそれを拾い上げた。 これは確か、小学校の頃の写真。まだ俺が素直に笑っていた頃の、貴重な1枚だ。 今の俺からすれば、黒歴史以外の何者でもない。 で。 問題なのは、なぜここにこれがあるか。 よく考えてみれば、かなり不思議な話である。 俺は過去の写真の類を、ここに持っていない。全て、実家に置いている。 母親がここを訪れた形跡はない為、わざわざ持ってきたという可能性は皆無。 他に考えられるのは、俺の荷物のどこかに混じっていた事故。だが、俺が悠々荘に来て1年は経つ。荷物は最初に整理したため、今更そういったものが出てくるのはおかしい。 だとすると。 「やっほー真一、今日の晩御飯なんだけどさ―――」 悩んでいると、玄関のドアがノックもなしに開かれた。 俺は反射的に後ろ蹴りをかましたが、最悪の訪問者はひょいっとそれを回避。 いきなり何!? と驚いている。そのまま玄関を閉めにかかったが、鍛えられた足が邪魔をした。 「ちょ、何よ一体!?」 「帰れ馬鹿」 「なんで私、来て早々拒絶されてるの!?」 ぎぎぎ、とドアを手でこじ開けつつ、疲弊した顔で杏奈が問う。 なんという馬鹿力だろうか。俺はドアを押さえる事でなんとか阻止しようとしたが、力の差が大きすぎる。 仕方なく、こいつを強制撤去させる事は諦め、 ・・・・・・ん? 待て。手に感触がない。あの「物を持っていた感触」が。 そうだ。俺は杏奈を追い出そうとした際に、ドアを両手で押さえた。 よって、その時に手にあった写真は、ひらりと舞い落ちており。 「お? 何これ、写真?」 しかも間の悪い事に、それは杏奈の前に転がっていた。 何の躊躇いもなく拾い上げられる。待て、という間もなく。 「真一が写真持ってるなんて珍し―――って、え?」 そして杏奈は、写真へと視線を落とし・・・・・・固まった。 どう言えばいいか、いやどうやって記憶を飛ばして写真を奪おうか、考えていると。 僅かな足音が。 杏奈が、2歩ほど後ろに下がった。 「・・・・・・ねえ、真一」 と思ったら、なんか深刻そうな顔をして、一言。 「あんた、そっちの趣味?」 「死ね」 とりあえず、どれくらい頭を殴ったら記憶って飛ぶのだろうか。 俺は、割と真剣に考えるのだった。 |