「自覚」

悠々荘の閑話:藤堂真一・月神楽瑞華・天沢杏奈の話




「珍しいですね。1人ですか?」
「そうだが・・・・・・」

まだ、月神楽が占いの練習をしていた頃の話だ。
昼休み、トイレに行ったついでに図書室へ寄り、興味が湧くものが見つからず。
そのまま教室へ帰ろうとした矢先、月神楽と出会った。

開口1番、挨拶などという今更不要なやりとりもせず、月神楽はそう尋ねる。
俺にとっては、よく理解できない問いを。

「何が珍しいんだ」
「藤堂先輩はいつも、杏奈先輩と一緒にいるイメージがありますから」
「そんな物、今すぐ取っ払え」

あのやかましいのと四六時中一緒にいてたまるか。

「難しい、というか無理です」
「こっちにとっては迷惑だが。思い込みも甚だしいぞ」
「そうですか?」

だが、月神楽はあくまで、何がおかしいのか、と俺を見上げる。

「私からすれば、それは思い込みでもなんでもないと思いますが」
「・・・・・・ならば偏見だな。勝手なイメージが先行しているだけだろう」
「藤堂先輩、自覚はないんですか?」
「・・・・・・自覚?」

思わず単語を復唱する。
俺は何かを自覚していない、という事か?

「ええ。私が見た時、藤堂先輩と杏奈先輩は、いつも一緒にいますよ」
「・・・・・・それは俺の生活のごく一部に過ぎないだろう」
「そうかもしれません。が、私から見たら、それが全てです」
「・・・・・・」

厄介だな、と思う。
それは本当に、勘違いだというのに。

面倒だが、なんとか修正しておく必要があった。
見知らぬ誰かならまだしも、相手は同じアパートに住む月神楽。誤解させたままというのは、色々とまずい。

「俺だって、1人の時・・・・・・天沢といない時だってある。現に今、俺は天沢とではなく、月神楽と話しているだろう」
「・・・・・・まあ、それはそうですが」
「それだけの事だ」
「・・・・・・では、藤堂先輩」

納得させる事ができた・・・・・・と思ったら。月神楽が、どことなく気まずい顔になり、そして、そっと俺の少し右を指差した。
つられて振り返る。
その先には、

「おっ、真一と瑞華ちゃんじゃん。何してんの? 相談?」

・・・・・・。

「・・・・・・月神楽」
「?」
「悪い、前言撤回」

・・・・・・俺は無自覚すぎたらしい。




執筆年月:2010/05/13

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