「ナイアガラの滝」 生徒会波乱物語:神野和樹・親和有希 大地を蹴る。 体全体で風を裂きながら、相手との距離を一気に詰めた。 多面的に能力を考えると、俺は近距離でも遠距離でもいけるが、向こうにとっては近寄られると辛いはず。 「っ!」 「わっ」 糸を吐くように息を調え、俺は鋭い一撃を放った。 その拳は柔らかい肌を掠め、空気をえぐる。攻撃が半分しか成功しなかった事を知った俺は、すぐさま身を引いた。 思い切ったバックステップで一旦距離を置き、間髪入れずにその場で飛翔。 そこへ、眼下の対戦相手―――有希が発光する。 来る、と感じたのと同時、俺は身を翻していた。 身動きが取りにくい空中の回避。相変わらず慣れない。頭では分かっていても体が動かないのと同じように、どうしてもぎこちなくなってしまう。 それでも、有希の一撃をかわすには充分だった。 見るからに強烈だと分かる光の柱を横目に、内心でビビりながら俺は走る。 「―――遠隔操作」 だが、今度は目の前までは行かない。ピタリ、と距離を置いて止まる。驚く顔を見てニヤリと笑い、両手を広げた。 「[重力変化(グラビティホール)]!」 刹那、エネルギーの集合が有希へと直進する。 俺でも数え切れない闇色の弾。いくら多少は手加減しているとはいえ、これで決まる。避けれるような数ではない。 ―――はず、だったのに。 そう。 回避できない有希は、もう1つの手段を取った。 俺と同じように両手を広げて。 俺よりも綺麗に笑って。 その可憐な花の蕾みたいな口が、小さく動いた。 「・・・・・・<スペルオブ>、」 マズイ、と本能が察した。慌てて何かしようとするが、攻撃の最中だった俺は何をすることもできなかった。 結果、手遅れだという事が分かり、 「<ナイアガラ>!」 滝のような光が、放たれる。 圧倒的なそれは、小さな闇を包み込んでなお、勢いを衰えなかった。 巨大な粒子が目前に迫り、思わず俺は目をつぶる。 無論、それで何かが解決する訳もなく――― 「・・・・・・ありえねえ、絶対ありえねえ・・・・・・」 「あ、あの、和樹、大丈夫?」 「・・・・・・なんで俺、有希に負けてんだ・・・・・・」 試合終了後。あのナイアガラの滝みたいな攻撃に吹き飛ばされた俺は、全身を壁にたたき付け、かなりの大怪我を負った。 具体的には、背中強打による出血と打撲、それから腕の切り傷(光エネルギーの半端ない速度が殺傷能力を持ったらしい)。 あと、内出血も起こしているらしい。 何にせよ、落ち着いたら病院に行く必要がありそうだ。 しかし俺にとっては、精神へのダメージがきつかった。 いくら能力指数が高いとはいえ、喧嘩に全く慣れていないあの有希に負けたんだぞ? ・・・・・・なかった事にしたい。いやもう、ホント。 「あ、えっと、和樹」 「・・・・・・んあ?」 「怪我の手当するから、その、上着を脱いでもらえるかな」 「・・・・・・いーよ、ほっときゃ治る」 嘘です。思いきり嘘です。 しかしまあ、どうにも今の俺は有希と会話する気分になれず・・・・・・しばし、その場に沈みこむのだった。 |
執筆年月:2010/05/04
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