「眠りを誘う音楽」 悠々荘の閑話:藤堂真一・天沢杏奈 「・・・・・・」 ・・・・・・この状態を、どう言葉にすればいいのだろうか。それが分からず、俺は途方に暮れていた。 いつもと変わらぬ1日だった。 面倒な学校へ行き、退屈な授業を受け、帰宅してからは食事のための買い物へ行く。 それを終えてからは料理、そして彩音や杏奈を交えての夕食。 残り物を白石さんへ届け、帰りに姿を見せた月神楽と軽く会話をした。 そこまでは、変わらなかった。 だが。 空の皿を部屋に持ち帰った俺は、しばし思考を奪われた。 目の前、薄汚いベッドに、杏奈がよりかかっている。 目は軽く閉じられ、時折肩が小さく動く。 両手は力無く伸ばされ、足はだらりと投げ出されていた。 「・・・・・・何をやっているんだ、この馬鹿は」 頭が再起動を果たすと同時に、俺はそう呟く。 ふと回りを見渡すと、彩音の姿もない。先程まで晩飯を食べていたはずなのだが。 ひとまず馬鹿を起こそうと俺は手を伸ばし・・・・・・ふと、奴の両耳にイヤホンがはまっているのが見えた。 短時間で寝れる曲でも流れているのか。 らしくないと思いつつ、奴のジーンズのポケットを探る。 案の定、そこには小型音楽プレイヤーが入っていた。 イヤホンを引っこ抜く。 流れてきた、音量小さめの音楽は、 「・・・・・・」 つい、息を呑む程に綺麗だった。 そしてどこかで聞いた事がある。 確か・・・・・・先日、杏奈が映画を見に行こうと言い出した時だったか。その映画の公式サイトを見た時に、バックで流れていた物に似ている。 いや、それそのものだ。やけにゆったりしたリズムで、印象的だったから間違いない。 それにしても・・・・・・。 普段は休む事も知らない奴でも、こうして緩やかな時間を過ごしたりするのか。 あるいは、それほどまでにこの部屋が心地よいのかもしれない。 前に出した手を、ゆっくりと引っ込める。 そして、無言でテーブルの上の食器を片付けるのだった。無論、可能な限り音を立てないように。 |
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