「寝不足」 死神姫:鋭利快翔・草斬空 「あれ? 空さん、昨日遅くまで起きてたの?」 「・・・・・・」 朝の教室。席に荷物を置き、隣を見た快翔は、挨拶もそこそこに不安げな顔になった。 読んでいた本から視線を上げた空が、煩わしそうにする。 「・・・・・・悪い?」 「わ、悪いとまでは言わないけど」 いつもの事ながら冷徹な視線を向けられ、慌てる快翔。 それでも、好奇の視線は逸れる事はなかった。 それを感じとり、はぁ、と空は溜息をつく。 「・・・・・・昨日、遅くまで本を読んでただけよ」 「本?」 「気になる物があったから。そのままで寝た方が、体に悪かったわ」 「空さんでもそう思う事があるんだ・・・・・・」 好奇心という言葉を心のごみ箱にでも投げ捨てたような空から、まさかそんな事が聞けるとは。 快翔が驚いている間に、話は進む。 「魔術と霊術の相互性について、かなり言及できる本があったのよ。ページは二百程度だから一時間もかからないけど、考察しながら読むとそれなりに―――って快翔、何、その呆れた顔は」 「いや、うん。まあ・・・・・・呆れてはないけど・・・・・・」 やっぱりか、と思ってはいたが。あと、霊術とかそういう話は小声でして欲しい、と快翔は頭を抱えていた。 もっとも、そこについて追究してくるクラスメイトはいなかったが。 「じゃあ何」 「いや・・・・・・本に夢中になるのもいいけど、早く寝た方がいいよ、空さん」 「別にいいわよ。支障をきたらさない程度だから」 神妙な顔で注意する快翔だが、空のむべにもない一言で沈む。 だが諦めない。彼としては、空に健康な生活を送ってほしいのだ。 たとえ、それにより自分が睨まれる羽目になっても。 だから彼は、こう言う。 「そんな生活してたら、みんなが心配しちゃうよ」 「・・・・・・別に、関係な」 「くないよね。空さんは、みんなにとって大切な人なんだから」 反論を封じるように言った。 案の定、後半の言葉で、空はぐっと詰まる。 人に必要とされる事が慣れてない空は、こういった言葉に弱い。 しばし二人の間に沈黙が流れ・・・・・・教室が賑やかになってきた頃、本へと視線を戻しながら、空は短く言った。 「・・・・・・善処するわ」 やった、と快翔は小さくガッツポーズをした。 |
執筆年月:2010/05/01
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