「くま」

生徒会波乱物語:神野和樹・西山桜




「あ」
「?」
「くまのぬいぐるみ」

学校帰り。桜がふと、そう言って立ち止まった。
その視線の先には、磨かれたショーケース。
そして、抱きしめたら気持ちよさそうな、熊の人形が置いてある。

「ほしいのか?」
「ううん・・・・・・そうじゃない。けど、なんだか、不思議だなって」
「何がだ?」

何か疑問に思う事があるだろうか。俺から見たら、おかしな所なんてないのだが。

「くまがぬいぐるみって、不思議だよね」
「いやだから何がだよ」
「本物のくまって、とっても怖いのに。でも、ぬいぐるみならかわいい」
「あー、確かに」
「へん」
「・・・・・・いや、追求したらキリがないだろ」

桜の眠そうな顔が、ちょこんと傾く。なんで? っていう意志表示だろう。

「ほら、某国民的黒キャラだって、元はネズミだぜ」
「うん。それも、おかしいな、って思う」
「だからいちいち考えるもんじゃない、って事だよ。他には、こんにちはな猫とか」
「猫さんはかわいいよ」
「そりゃそうだけどな」

ま、そういう事だ。そう締めると、桜は小さく頷いた。納得してくれたらしい。

「で、結局それ、欲しいのか?」
「私はいいよ・・・・・・紅葉に買ってあげる?」
「いやそれ死ぬ程似合わんだろ」
「紅葉、かわいそう。・・・・・・私も、そう思うけど」
「思ってるんかい」

って事で、ショーケースの前を通り過ぎる俺達。
どうでもいいが、カバの可愛い人形なら欲しいかもな、と俺はちらりと思った。



執筆年月:2010/04/27

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