「流水」 悠々荘の閑話:藤堂真一・天沢杏奈 悠々荘の住人が遠方へ行く時、歩いて5分のところにある地下鉄を使う事になる。 そこはあまり大きな駅ではないが、電車で2駅いけば、多くの路線に乗り継ぎもできる、大きめの駅に出られる。 その駅自体もまるで1つのショッピングモールとなっており、日用品ならば大概がここで揃うようになっている。 今日、俺と杏奈がこの駅に来たのも、双方が買い足したいものがあるからだ。 店へ行く途中、杏奈がふと立ち止まり、服の袖を摘んだ。 「ねー真一、あれってあれだよね」 「・・・・・・?」 指差す先は、1つの大きな造形。 水が絶え間無く流れ、控え目な落下音を立てている。 「噴水がどうかしたか?」 「やっぱああいうのも噴水っていうのかな」 「それ以外に何がある」 「よくあるじゃん。意外と別の名前がある、とか」 あれとかね、と言われたが、あれが何を指すのか分からない。 どうでもいいので、俺はそこを通りすぎようとした。 が、杏奈が袖を離さない。 「・・・・・・さっさと行くぞ」 「ちょっと待ってよ。少し見ていかない?」 「そんなに言うような珍しい物か? 大きな駅などにはどこにでもあるだろう」 「でもさ、あんまり真面目に見た事ないじゃん。こうやって見たら、少しは違って見えないかなって」 「・・・・・・」 見えない・・・・・・事も、ないかもしれない。 何も言わないでいると、杏奈がおーっとか言い出した。 「なかなか面白いじゃん」 「・・・・・・結局、あまり真面目に見るような物ではないと思うぞ?」 「それをマジに見たら楽しいんだって。分かってのあ真一は」 そう言い張るので、仕方なく俺も水流造形物へと視線を移す。 その瞬間、水が色を変えた。 「わお」 「暗くもないのに分かりやすいな」 ・・・・・・特に、面白いと感じる程ではないが。 |
執筆年月:2010/04/22
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