「G」

悠々荘の閑話:藤堂真一・白石美穂子・平坂彩音





「管理人さん、へるぷ〜」
「・・・・・・」

ある夏の休日。うるさいのがいない、という事で休日を満喫していたのだが、突如、白石さんがそういって駆け込んできた。

「なんですか」
「わ〜、涼しいよ〜」
「クーラーかけていますから。・・・・・・クーラーでも壊れたんですか?」
「そ〜じゃないんだよ〜。へるぷ、ぷり〜ず」
「何があったんですか・・・・・・」

何事か知らんがただそれだけを繰り返す白石さんに、俺はうんざりしながら尋ねた。
白石さんは、いつも呑気そうにふやけている顔に少しだけ涙を浮かべ、言った。

「あの〜、台所の悪魔が〜黒光りするアレが〜」
「・・・・・・なんだと?」





白石さんの部屋に行ってみた。

相変わらずごちゃごちゃしており、菓子袋は散乱し、夏だというのにこたつが出ている。
色々と救われないそんな部屋の隅に・・・・・・奴がいた。

「うわ・・・・・・」
「なんとかして〜」

かさかさと音を立て、辺りを這いずる、最悪の害虫。
頭文字Gが、偉そうにそこに鎮座していた。

「・・・・・・殺虫剤とかないんですか」
「ちょうどきらしてて、今度買ってきてもらおうと思ったんだよ〜」
「自分で買いに行ってください」

だが、ないものは仕方がない。俺はその辺に散乱している、なるべく綺麗な紙をつまみあげた。
いや、1枚では足りないか・・・・・・さらに2枚3枚と重ねる。
そして、刺激しないように慎重に近づいた。

「潰すの〜?」
「それが1番早いですから」
「え〜、部屋が汚れる〜」
「これだけ汚しておいて何が部屋が汚れるですか。それくらい我慢してください」
「う〜」

不満げに唸っているぐうたらニートは無視し、俺は頭文字Gの元まで向かった。
そして奴が動き出す前に、勢いよく紙を被せる。
・・・・・・しかし、少なからず躊躇してしまったのか。紙には僅かの隙間が生まれ、奴はその間をくぐり抜けて逃走した。
それも間の悪いことに、白石さんの方へ。

「わ〜、こっち来た〜!

文字だけ見ると馬鹿みたいだが白石さんは必死だった。
慌てて白石さんは立ち往生し、その間に奴はそこをもくぐり抜ける。
そして奴は、部屋の外へ―――

「わああああっ! ご、ご、ごき―――!!」

・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

「・・・・・・白石さん」
「え、うちのせい〜・・・・・・?」

下からの彩音の悲鳴に・・・・・・俺はもうどうでもいいやと思って、溜息をついた。



執筆年月:2010/04/09

←18話「トンネル」へ 20話「エスカレーター」へ→

 
inserted by FC2 system