「女装」

死神姫:鋭利快翔・刈麻葵、生徒会波乱物語:親和有希、悠々荘の閑話:白石美穂子
(一応、悠々荘の閑話:藤堂真一・月神楽瑞華)





ある日、快翔がヘヴンスカイを訪れると、満面の笑みと共に葵が彼を迎えた。
その手には、可愛いらしい花がプリントされたシャツと、ピンクのフリルつきスカート。

快翔は、即座にくるりと回れ右した。

「ストップです!」

しかし まわれこまれてしまった!

「嫌だよ! もう僕は絶対に二度とそんな服は着ないよ!?」
「そう言わないでくださいよ快翔さんっ。それに、これはある人からのプレゼントです」
「へ? プレゼント?」

明らかに嫌がる快翔だったが、葵のその一言で、ピタリと止まった。
葵が、ニタリと笑って少し右に移動する。
そこにいたのは、

「こんにちは、鋭利君・・・・・・だったよね? 久しぶりだよ。私の事、覚えてる?」
「うちははじめましてだね〜」

二人の、とりあえずこの場にはいないはずの人。

片方、快翔から見て左の、身軽そうな服装の少女は、快翔も知っている。
以前、ある生徒会とパーティーをしたが、その際にいたはずだ。

だが、快翔から見て右の人。ふにゃりとした、柔和な笑みを見せる女性は、快翔にとって面識がなかった。

「あ、この人は白石・・・・・・なにさんでしたっけ?」
「白石美穂子だよ〜」
「そうでしたっ! たまに来る月神楽瑞華さんと、同じアパートに住む人らしいですっ!」

葵が嬉しそうに言う。快翔は、以前に来た愛想に欠けた男女の客を思い出していた。

「それで今日はね〜、有希ちゃんと服を買いに行ったんだよ〜」
「うんっ。美穂子さんは彩音ちゃんと同じアパートでもあるって聞いたから、すぐに仲良くなっちゃった」
「それで〜、どうせだからここにも来てみようってことになって〜」
「今、葵ちゃんが持っている服を、お土産にしてみたんだよ」

代わる代わる喋る二人に、ようやく快翔は、自らの危機を思い出した。

「それなら空さんか、葵ちゃんに渡してよ!」
「私じゃぶかぶかです。もっと大きくならないと着れないみたいです。空さんは今ここにいません」
「じゃあ来た時に渡せばいいんじゃないかな!?」
「有希さんも美穂子さんも、あまり時間があるわけじゃないみたいです。だから、快翔さんが着るべきなんです」

いやその理屈はおかしい、と快翔が思ったと同時、有希がまあまあと笑った。

「鋭利君、私は似合うと思うよ」
「似合わないよ! それに、似合っても絶対着たくないっ!」
「鋭利君〜、何事も経験だよ〜」
「だからそんな経験いらないってば!」

有希や白石さんに諭され、だんだんと快翔がやけになっていく。
それとは逆にずっと冷静な有希が、そんな彼に優しく語りかける。

「女の子もね、可愛いって言われるために、たくさん努力してるんだよ。でもそんなに簡単にはいかない。みんな、大変なんだよ」
「いや、だから何・・・・・・?」
「鋭利君は、元から可愛いって言われるくらいなんだから、それは大切にするべきなんだよ、きっと」
「あの、僕は男だから、そんな事言われても」
「あ、そうだ〜」

不意に、白石さんが、ぱちん、と手を合わせた。

「あのね〜鋭利君。人助けと考えたらいいんだよ〜」
「人助け?」
「前に鋭利君、管理人さんや瑞華ちゃんに会ってるよね〜。あの二人、あんまり笑ったりしないんだ〜。色々苦労しているみたいだから」

管理人―――すなわち真一からすれば、白石さんもその苦労の一因なのだか、誰もそんなことは知らない。
だから、誰もツッコミを入れず、白石さんの話ほ続く。

「だからね〜、あの二人もきっと、鋭利君の面白い画像を見たら、笑ってくれるよ〜」
「・・・・・・」

なにかがおかしい、と気付きつつも・・・・・・何も言えないでいる快翔。
それほどまでに、白石さんの様子は真剣だった。
(でもふにゃりとはしているけど)

「だから〜、協力してくれる〜?」
「・・・・・・」

きっと快翔も、冷静に考えていれば、冷静におかしい点を指摘できただろう。
しかし快翔は、自分よりも何歳も年上で、かつ彼の知り合いの年上とは違うタイプの白石さんの話に、すっかり聴き入っていた。

「・・・・・・え、えっと、なにかおかしい気がするんだよ・・・・・・?」

白石さんの隣の有希は、苦笑いでそんな事を呟いてたが。

やがて、彼は―――





「やっぱり快翔さんは可愛いです! 実は女の子とか、違うですか?」
「だから僕は男だからね。・・・・・・ホント、なんでこんなことしてるんだろ、僕・・・・・・」

結果、快翔は白石さんを論破できなかった。
見る人が見れば明らかに演技と分かるような白石さんの真剣っぽい表情に快翔はすっかり騙され、泣く泣く有希らが持ってきたフリルスカートを履く事になった。
葵はもちろん、有希や白石さんも「やっぱりすごく可愛いよ!」「似合ってるね〜。女の子みたいだよ〜」と絶賛だった。

どれくらい可愛いかというと・・・・・・細かい描写は本人の名誉の為に避けるが―――言うならば、和樹が初対面で「すごい美少女」と言い表した有希と並べても、何の違和感もなく見えるくらいだ。

「じゃあ〜、約束通り写真を〜。ぱしゃ」
「私も撮るです!」

いつしか場は撮影会みたいになり・・・・・・快翔は、本当に今回で終わりにする、と強く誓うのだった。





なお、白石さんが真一と瑞華に写メを送った時、偶然二人は一緒にいたのだが。

「・・・・・・前に会った事があるが、そういう趣味があったとはな」
「意外です。大人しい性格だと思っていましたが、人は見た目によりませんね」

当然ながら、全然笑う事などなかった。
それどころか、彼らの中での鋭利快翔という人物像が、哀れなものに変わったに過ぎなかった。



執筆年月:2010/04/07
更新年月:2010/04/22(冒頭説明分の修正)

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