「相席」

悠々荘の閑話:藤堂真一・平坂彩音、生徒会波乱物語:神野和樹・親和有希




まだ、白石さんが喫茶店で働いていた頃の、週末。

白石さんが喫茶店の方で晩飯を食べるから今日はいいと伝えてきた。
それと同時に、秋のインターハイを間近に迎えた天沢が、今日は強化合宿という事で、悠々荘に帰ってこない。
月神楽は最初から放っておいても何ら問題ない。

という事で残ったのは彩音。
面倒ながら、誰かがこいつの飯の世話をするのは絶対に必要なので、放ってはおけない。
だが今日は学校のホームルームが長引き、帰宅して冷蔵庫を見たら空に近かった。時間帯的に近くのスーパーは混む頃であり、買いに行くのも面倒極まりない。
よって、俺と彩音は、ファミレスで飯をすませる事にした。

だが彩音が空腹になるのを待ってから出発した時には、ファミレスも混み合っていた。

「8人待ちか・・・・・・どうする、彩音」
「うーん・・・・・・どうしよっか、真一お兄ちゃん」

困り果て、とりあえず別の店をあたろうと決めた時、彩音が、あっ、と小さく声をあげた。
そして、俺の手を引いて歩いていく。
不審がったのか店員が「どうされました?」と聞いてきた。彩音は「知り合いがいたの!」と元気よく答える。
・・・・・・知り合い?

やがて彩音が、4人がけの席に座る、俺達と同い年の男女の所で止まった。

「有希さんっ!」
「え? あーっ、彩音ちゃん!

女の方―――彩音が有希と呼んだ方が、彩音に負けず劣らずといった元気な声で答える。

「彩音、知り合いか?」
「うん! 前に杏奈お姉ちゃんとプールに行った時、一緒に遊んだんだよ」
「プールか」

そういえば以前誘われた事があったな。面倒なので誘いは蹴ったが。

向こうの2人も、同じような会話をしている。
男の方が意外そうな顔をしていた。

「そうか・・・・・・そりゃ全然気付かなかったぜ」
「ほら、あの話をした後、和樹が紅葉に誘われた後だよ」
「ああ、スライダーにリベンジとか言われた時か・・・・・・あの時は大変だったなあ」

何やら・・・・・・プールの思い出でも語っていたらしき男―――和樹と呼ばれた方が、こっちを向いた。

「それで、その有希の知り合いがどうしたんだ?」
「あのね、人がたくさんいて、晩ご飯を食べられないの。だから、一緒に食べていい?」
「いいよっ!」

和樹の代わりに有希が答える。わーい! と彩音が、有希の隣に座った。
悪いな邪魔する、と一言断り、俺も和樹の隣に。 すぐに店員を捕まえて注文をした。
どうやら先客の2人は既に注文を済ませ、運ばれて来るのを待っている状態らしい。

「神野和樹だ」
「親和有希だよ」
「藤堂真一」
「平坂彩音ですっ」

その間に俺達は自己紹介を済ませ、適当に駄弁りだした。

「2人は恋人さん?」
「一応な」
「わっ、すごいっ!」
「彩音ちゃんは・・・・・・藤堂さんの妹か? 名字、違うみてーだが」
「仮の兄妹ってところだ」

そんな風にしていると、先に神野の料理が運ばれてきた。

「和樹、先に食べてていいよ」
「いいって。いつも待ってるだろうが」
「本人がそう言っているからいいのではないか? 俺達にも遠慮はいらん」
「うん、わたしもいいよ!」
「・・・・・・そっか。じゃ、たまには言葉に甘えるよ。お先に。・・・・・・あ、いただきます」
「うんっ♪」

神野がご丁寧に手を合わせると、親和がにっこり微笑んだ。
何だか面白い関係みたいだ。

それから間もなくして、俺達や親和の料理も運ばれてくる。

全員が食べ終わり、さて帰ろうとなった時。ふと気になって、俺は尋ねた。

「飯代どうするんだ」
「ああ、それなら俺達が―――」
「ううん、わたしたちが払うよ」
「・・・・・・何?」

神野が伝票を手にしようとした時、彩音がそれを制した。

「真一お兄ちゃん、わたしたちが後から来たんだから、わたしたちで払ってあげようよ」
「・・・・・・、・・・・・・そうだな」

拒否しようとしたが、よく考えれば今月は金に余裕がある。
神野と親和の邪魔をしたのも事実だし、たまにはそういうのもいいか。

「神野、ここは俺達が払おう」
「いや別に俺達は―――」
「いいから。世話になったな」

伝票を引ったくるように取り、俺達はレジへと向かった。

「そか。悪い、サンキューな」
「2人ともありがとう! 次は私たちが払うね」

後ろから感謝の言葉が聞こえた。・・・・・・こういうのも、いいかもしれないな。




ちなみに本日の彩音の所持金は、総計235円。
・・・・・・お約束すぎて溜息も出なかった。



執筆年月:2010/03/28

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