「喫茶店」

死神姫:鋭利快翔・刈麻葵、悠々荘の閑話:藤堂真一・月神楽瑞華




ある休日、月神楽がこう言って誘ってきた。

「たまには外出してみませんか?」

正直面倒で、そもそも天沢に何度も週末に連れ出されているから「たまには」ではないのだが、どうせ部屋にいてもやることなどないので、俺はその誘いに乗ることにした。
部屋にいて、天沢に拉致られるよりは被害が小さいだろうし。

月神楽が行った先は、ある喫茶店だった。

「・・・・・・なんで喫茶店に行くのにわざわざ遠い所まで? 喫茶店なら近くにもあろだろ」
「私はこの喫茶店に来たかったのです」
「何かあろのか?」
「面白いらしいです」

全く面白くなさそうに月神楽は言う。

「面白い喫茶店? 何かあるのか?」
「人によっては何もないかもしれませんね」
「・・・・・・訳が分からないぞ」

まあ、行けば分かるか・・・・・・それ以上は尋ねず、俺達は喫茶店に入った。

「いらっしゃいませー!」

途端、やけに大きく明るい声が響いた。少し驚いたが、まあそんなものかと思い、近くの席に座る。
特に腹が減っていろわけでもないので、俺はコーヒーだけを頼んだ。
月神楽は同じくコーヒーと、チーズケーキを。なんとも、おすすめとかなんとか。

先程の元気なウエイトレスに注文する。
頼んだ物が到着するまでは、俺は月神楽の話を聞くに徹していた。
元々月神楽もあまり喋る方ではないので、そこまで会話は弾まなかったが。

やがて、コーヒーが2つ運ばれてくる。運んできたのは、先程とは違う、

「・・・・・・ウエイトレス、か?」
「お待たせしました、コーヒー2つです。・・・・・・あと」
「後?」
「僕は男です・・・・・・」

その女に見える男は、がっくりとうなだれる。
確かによく見れば男だが・・・・・・

「快翔さんは可愛いから可愛い姿をしなきゃいけないんです」

さっき「いらっしゃいませー!」と元気に言ったウエイトレスが、近づいてきて説明した。
そして次に、月神楽の方を見る。

「瑞華さん、こんにちはです」
「こんにちは。今日も元気そうですね」
「葵ちゃんは元気が取り柄だからね」
「快翔さん、その言い方だと、私が他はダメな人みたいに聞こえちゃいます」
「ごめんごめん」

ウエイトレスは葵で、よく分からない男女は快翔というらしい。
月神楽とは知り合いみたいだな。月神楽はここの常連か?

「そしてチーズケーキですっ! 今日もおいしく頂いちゃってください」
「そうします」

相も変わらず無表情で、月神楽はチーズケーキを受け取った。

―――確かに、どこか面白い喫茶店だな。 俺は素直にそう思った。



執筆年月:2010/03/25

←8話「コインロッカー」へ 10話「欠伸」へ→

 
inserted by FC2 system