「コインロッカー」

悠々荘の閑話:藤堂真一・平坂彩音・天沢杏奈



もはやいつもの事なので説明も面倒だが。土曜日、天沢が唐突に買い物に行こうと言い始めた。
どうせ荷物持ちにさせる気だろう。即答で断ると、「じゃあ連れてく」と拉致られた。意味が分からない。

ただ今回は彩音も同伴するらしい。
何か買い物があると言い出し、天沢は快諾。
よって俺達は、3人で大手デパートへと向かう事に。

その途中、駅にたどり着いた時、彩音が足を止めた。

「ねえ、真一お兄ちゃん」
「・・・・・・どした」
「荷物、預けてもいいかなあ」
「荷物?」
「うん、この鞄」

そう言って彩音は、手に持った鞄を持ち上げて示す。

「・・・・・・預けるも何も、その鞄に金とか入れてるんじゃないのか?」
「ううん、今日はこっちのポーチに入れてるの」

彩音はその場で跳びはねた。確かに、ウエストポーチから、じゃら、という音がする。

「? じゃあ彩音、なんでその鞄を持ってきたの?」
「いるかなって思っちゃって。でも、今日はそんなに買い物はしないから・・・・・・それに、今日は杏奈お姉ちゃん、たくさんお買い物行くんだよね? だったら、持ち物は少ない方が楽かなあって」
「そりゃそうだけど、いいの? 鍵とか入れてるんじゃ」
「大丈夫だよ。あれに預けたら大丈夫なんだよね?」

その視線の先には、大きな駅なら必ずはあるだろうと思われる、コインロッカーが。

「まあ、そりゃそうだけど・・・・・・お金取られるよ? それなら、一旦戻った方がよくない?」
「えっとね杏奈お姉ちゃん、時は金なりなんだよ。それに、そろそろ電車が来ちゃうみたい」
「嘘、マジ!?」

慌てて天沢が腕時計を確認する。

「うわ、あと5分もないじゃん! しょーがない、彩音、さっさと預けちゃって」
「はーい」

天沢に急かされ、彩音は小走りでコインロッカーへと向かう。
そしてすぐに、戻ってきた。
さっきまで持っていた鞄はもうない。特にトラブルもなく預けられたようだ。
そのかわり、手にはコインロッカーの鍵が、

―――なぜか、俺に向けられていた。

「はいっ、真一お兄ちゃん」
「・・・・・・俺か?」
「だって、わたしじゃ落としちゃいそうで・・・・・・」
「・・・・・・」

だからって何故俺なんだ、と顔をしかめていると、隣からやや焦った声が。

「預かってあげなよ真一。それより時間! さっさと走るよ!」
「ちょっと待てお前・・・・・・分かったよ、彩音、その鍵貸せ!」
「う、うん。ありがとう真一お兄―――」
「礼は後だ! とにかくあの馬鹿を追うぞ!」
「うんっ!」

そして俺達は駆け出した。掌の冷たい感覚がなくなるまでは、割とすぐだった。



執筆年月:2010/03/25

←7話「漫画」へ 9話「喫茶店」へ→

 
inserted by FC2 system