「夜の電車」

生徒会波乱物語:神野和樹と神里奈々




「すっかり遅くなってしまいましたね」
「俺も、こんなにかかるとは思ってませんでしたよ」

流れていく景色は、もうすっかり闇の中。
無数に見える街灯と、この時間だから映えるネオンライトが、逆に車内の閉塞感を助長させる。

誰も―――俺達以外に誰もいない、ローカル線の先頭車両。
その窓際、4人がけの席に、俺と神里さんは、向かい合うように座っていた。

窓際の小さなスペースに、頬杖をついて、何かを憂いでいる表情の神里さんは、そのまま絵として切り取れば高値になりそうなくらい、綺麗だった。
もっとも―――もしそんなことができても、俺はきっとその絵を、誰にも譲らないだろうけど。

「・・・・・・何すか」
「今和樹君が考えてること、当ててみましょうか?」
「いや結構です」

そんなことを考えていると、案の定だった。
そんな神里さんの表情が、いつもの悪戯っ子の顔で、それを見たらなんかほっとしたのは・・・・・・俺も、さすがに疲れたかなあ。

「相変わらず和樹君は、回りくどい表現が好きですよね。言いたい事は、はっきりと伝えるべきです」
「いや別に、言いたい事って訳でもないし・・・・・・なんとなく好きなんすよ、こういうの」
「なるほど、和樹君は将来、作家にでもなったらいいんじゃないでしょうか」
「そこまでじゃないですって」

年相応・・・・・・いや、それより幼い顔で、神里さんは笑う。
俺もつられて、静かに笑った。
なんとなく、声をあげて笑う気分じゃなかったので、結果、変な笑みになってしまったのだが。

「変じゃないですよ。確かに、いつもの和樹君じゃないみたいでしたけど、そんなのもいいと思います」
「そんな、ってどんなですか」
「言葉に例えるなら・・・・・・」

そこで神里さんは1度区切って、俺の目をまっすぐ見ながら、心底楽しそうに言った。

「電車の吊り革広告を見てにやけるおじさんみたいな」
「・・・・・・なんすかそのツッコミどころ満載の例えは」
「冗談です。じゃあ、商談がうまくいきそうな経営の人みたいな顔」
「その例えもどうかと思いますけどね」
「ちなみにこの場合、和樹君は詐欺士の設定です」
「何故に・・・・・・」

思わずぐったりとなった。
また、楽しそうに神里さんが笑う。
静かに、笑う。

「まあそんな訳で、警察に行きましょうか」
「いや神里さん、さっきのは例え話ですから」
「それか私の所か、どちらかを選択してください。私の所にいれば、警察から隠し通せますよ。・・・・・・代わりに、ずっと一緒ですが」
「結局あんたはそれが目当てかいっ」



執筆年月:2010/02/06

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