「冷気」 死神姫:鋭利快翔と刈麻葵 電車のドアが開いた途端、肌を裂くような冷気が一気になだれこんできた。 開いたドアの一番近くにいた快翔はたまらず、びくりと震え上がり、たまらず両手で自らを抱きしめるようにする。 そのポーズのまま電車から降りる。そして、ダッフルコートを着込んでぶかぶかのもこもこになっている葵がついてきているのを確認して、歯をガチガチさせながら歩いていく。 ごったがえす程ではないもののそれなりに人で溢れているホームを抜け、切符を改札に通した時には、彼の手はしもやけを起こしたんじゃないかというほどに、赤くなっていた。 葵も快翔と同じように改札を通ったのを見て、快翔は立ち止まる。 「次の乗り換えは10分後だね」 「また乗り換えるのですか? 私もう疲れたです」 「僕もだよ。でも、もう後ちょっとだから、頑張ろう」 「はいです・・・・・・」 そう言う葵の声には、やはり元気がない。 普段三人でいる時などは何をやっても疲れる素振りを見せはしないのだが、やはり慣れない事は辛いのだろう。 ぐったりしている葵も珍しいな、と快翔は暖かい笑みを浮かべ、直後、建物の中にまで吹き込んできた冷気に、体を震わせた。 「寒いですか?」 「・・・・・・うん」 もこもこ効果か、さほど寒そうにはしていない葵が、快翔を見上げながら言う。 快翔は素直に頷いた。 「寒いね」 「寒いです」 「でも葵ちゃんは寒くなさそうだよね」 「実はあまり寒くないんです」 「もこもこだから?」 「もこもこだからです」 歯をガチガチと震わせながら、それでも快翔は、笑顔でいつものやりとりをする。 電車が来るまで、あと5分。 仲良しな兄妹じゃない兄妹は、今日も日常を繰り広げる。 |
執筆年月:2010/02/06
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