「薬」

死神姫:鋭利快翔・浅菜風梨・木野稜子




たまには本でも借りてみよう、と思い、ついでだからということで空のリクエストも聞き、快翔はメモを片手に図書館へと向かった。
もちろん、図書館とはスマイルハットの事である。
空から頼まれた本を見つけ、快翔自身も借りたい本を手に取り、カウンターへ。
そこには、いつものように稜子―――ではなく、風梨がいた。

「あれ、風梨さん」
「そういう君は快翔くん。本の貸し出し?」
「うん、これお願い」

はいよー、と風梨は気さくな返事で本を受け取り、すぐに口を三日月型にした。

「ははあ、片方は空さんね」
「うん。ここに行くって言ったら、ついでにって事で頼まれちゃって」
「お疲れ。はいこれ、処理終了。言うまでもないかもしれないけど、貸し出し期間は2週間ね」
「ありがとう」

風梨から本を受け取った快翔は、ふと疑問に思った事を口にした。

「ねえ風梨さん。今日は稜子さんはいないの?」
「ん? いやいる事にはいるけど、稜子さんに用でもあるの?」
「そうじゃないけど、いつもカウンターは稜子さんがやってる気がして・・・・・・今日は風梨さんがやってるから珍しいなって」
「あー確かに、私はあんまり何もしないからねー」

何もしないんだ・・・・・・と快翔は少しだけ呆れた。
彼は、稜子が以前に言っていた事を思い出した。・・・・・・そういえば、なんだかすっごく苦労してるみたいだったっけ。

「稜子さんね、なんか体の調子がおかしいんだって。珍しいよね」
「それ、風梨さん達が原因なんじゃ・・・・・・」
「? なんで?」
「あ、いやなんでもないよ。そっか、風邪とか?」
「多分ね。で、きっと大丈夫だとは思う―――」
「随分勝手な事を言ってくれますね・・・・・・」

あ、稜子さんだ、と風梨が振り向いた。快翔も、カウンターの奥の方へと視線を向ける。

「こんにちは、快翔さん」
「うん、こんにちは、稜子さん。あの、風邪引いちゃったの?」
「どうやらそうみたいです。熱も少しありますから・・・・・・うつしてもいけませんし、今日は休ませてもらってるんです」
「そうなんだ・・・・・・えっと、お大事に」
「ありがとうございます」

ぺこ、と稜子は頭を下げた。

「稜子さん、薬は飲んだ?」
「一応飲んだわよ。だから、今も少し眠いの」
「そういえば、薬って催眠作用があるとかよく聞くっけ。じゃあ横になってたらいいのに。今日は私に任せて」
「でも、快翔さんが来たのに姿を見せないわけにもいかないでしょ?」
「・・・・・・え、僕?」

おもわぬ所で名前が出され、快翔は驚く。

「そんな、なんか悪いよ。稜子さん、僕も寝てた方がいいと思うよ」
「それもそうですけど、1人でいたら退屈ですから」
「そういう事じゃないと思う・・・・・・」

それでもなお大丈夫と(眠たそうに)言い張る稜子に、快翔と風梨があの手この手で説得し・・・・・・稜子が「じゃあお言葉に甘えて、休んでますね」と奥へ引っ込んだのは、丸々十分後だった。
完全に稜子がいなくなったのを見て、快翔と風梨は揃って溜息をはいた。

「あはは・・・・・・じゃあ僕はこれで。あと、稜子さんにお大事にって」
「ん、伝えとく。またね快翔くん」

それでも、図書館を出る快翔の足取りは、決して重くはなかった。



執筆年月:2010/03/30

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