「キスの日」
(事務所廊下……) 菜々(みなさんこんにちは、ウサミン星人17歳、安部菜々ですっ! キャハっ☆ いやあ職業病って怖いですねぇ。オフの日なのにやることがなくて気付いたら事務所に来ちゃってましたよ。 自主練でもしようと思ったらレッスン場は空いていないし、誰か探してぶらぶらしてたんです。 そうしたら、向こうから走ってくる影が2つ――) 加蓮「ちょ、待って、ホントに待って……あ! 菜々さん助けてヘルプミーっ!」 藍子「待ってくださいよ加蓮ちゃん! どうして逃げるんですかぁ!」 菜々「……ナニコレ?」 加蓮「ふーっ、ふーっ、がるるるる……」 藍子「もう。そんなに威嚇してこないでくださいっ。ほら、怖くないですよ、いつもの私ですよ〜」 加蓮「がるるるる……!」 菜々「あ、あの、ちょっ、状況説明を、っていうかナナを挟んで睨み合わないでくださいよ!」 藍子「先にやろうって言ったの加蓮ちゃんじゃないですか!」 加蓮「冗談だって何度も言ったでしょ!」 菜々「ほ、ほら二人とも、仲良く、仲良くね? せーのっ、ウッサミーン☆」 藍子「あんな中途半端にされちゃったら私だって気になります!」 加蓮「無理! 無理無理! ホント、ね? こればっかりは冗談じゃないから、ね?」 藍子「加蓮ちゃんにはもう騙されませんっ!」 加蓮「ホントだってば! ホントにホント!」 菜々「……ナナしょぼーん」 藍子「加蓮ちゃん、オオカミ少年の話を知っていますか?」 加蓮「……私の自業自得って言いたい訳!?」 藍子「はい!」 加蓮「それなら私が今マジで言ってるってこと分かってるでしょ!」 藍子「分かりません! 私、パッションなので!」 加蓮「本当に便利だねぇその言い訳!」 菜々「ああもうっ! 加蓮ちゃんも藍子ちゃんも、何を言い争っているんですか! ナナにも教えてくださいよぅ!」 加蓮「あ、いたんだ菜々さん」 菜々「加蓮ちゃん今まで何を盾にしていたつもりですか!?」 加蓮「ハタチオーバーのウサミン星人」 菜々「……ナナ、加蓮ちゃんがあまりにも必死だから助けてあげようと思いましたけど、やめました」 加蓮「ああっ、ごめん、ごめんって! 今のはほら、つい、いつもの癖で! 困ってるのはマジっていうかそこの藍子をどうにかして!」 菜々「……それで、何のお話なんですか?」 藍子「最初は加蓮ちゃんが誘ってきたんです」 加蓮「だからあれは冗談だって」 藍子「今日は何の日? って。私は分からなかったので、加蓮ちゃんに教えてもらおうとしました」 加蓮「違う、いやホント、ちょっとからかっただけで」 菜々「加蓮ちゃんはちょっとお口にチャックです! で、藍子ちゃん。加蓮ちゃんは何って言ったんですか?」 藍子「それが――加蓮ちゃん、いつものイタズラっぽい笑顔で」 菜々「うんうん」 藍子「今日は5月23日でキスの日だから、ちょっとやってみよう――って」 菜々「アホかあああああああああっ!!」 加蓮「ぎゅえっ!」 菜々「アンタ何やってるんですかね! ちょっとやるって、しかも藍子ちゃんは女の子なんですよ!?」 加蓮「い、いやあ、ちょっとからかっただけで……アハハ」 菜々「アハハじゃなぁい! ……あれ? でも加蓮ちゃんが藍子ちゃんから逃げてたってことは」 藍子「私だって、最初は何度も断っていたんですが、加蓮ちゃんがあまりにも熱心すぎて」 加蓮「やー、ついエンジンが」 藍子「熱弁されているうちに……その、私もちょっとだけ、興味が湧いてきて」 菜々「うっわ……」 藍子「そうしたら加蓮ちゃんが急に部屋を飛び出していったので、なんだか悔しくなっちゃって」 菜々「で、あの追いかけっこを?」 藍子「はい」 菜々「……。ナナちょっと頭痛が痛いです」 加蓮「変な日本語」 藍子「ってことで、加蓮ちゃん! 菜々さんの後ろにいつまでも隠れていないで、こっちに来てくださいっ♪」 加蓮「うっわあいい笑顔……」 菜々「……いや、いやいや、おかしいでしょ。おかしいですよね。女の子同士ですよ? 相手がPさんならともかく……いやそれも問題ですけどね!」 加蓮「いやいや菜々さん、今時の若い子はちょっと挨拶がわりでチューくらい普通だって」 菜々「……じゃあやってくればいいじゃないですか」 加蓮「はっ、ついいつもの癖が! 違う違う菜々さん、今の嘘、嘘だからね!?」 藍子「加蓮ちゃん。オオカミ少年、って、知ってますか?」 加蓮「ひっ。し、知らないかなぁ〜〜〜?」 菜々「藍子ちゃん、ちょっとアイドルがやっちゃいけない笑顔になってますよ……」 加蓮「と、とりあえず冷静になろうよ藍子? ほっぺにチューくらいならいいけど今の藍子に近づいたらガッツリ口にやられそうで」 藍子「え? でも加蓮ちゃん、せっかくだから口でちゅーしてみようって」 菜々「加蓮ちゃんってあれですよね。アホですよね」 加蓮「う、うっさい」 菜々「まあナナ的には加蓮ちゃんの自業自得です。たまには罰を受けてもいいんじゃないですかね?」 加蓮「う、ううう……やだ、ファーストキスはPさんって決めてるんだから……!」 藍子「女の子同士ならノーカンです! って茜ちゃんが言ってました」 菜々「……わぉ」 加蓮「あの暴走機関車め余計なことを!」 藍子「ねっ?」 菜々「藍子ちゃんはいいんですか? そういう話は苦手ってイメージが」 藍子「うーん……ちょっぴりお恥ずかしいですけど、今はワクワクの方が強いかなっ」 菜々「……」 加蓮「……」 菜々「……あの笑顔を曇らせるのも輝かせるのも、加蓮ちゃん次第です」ポン 加蓮「やめて、そんな世界を救う勇者みたいな責任を私に押し付けないで」 菜々「もうここまできたらやっちゃいましょう! 女は度胸です!」 加蓮「い、いやその、ちょっと心の準備が」 藍子「わくわく」 菜々「あっちは準備完了みたいですけど?」 加蓮「……う、うううううう、やだ、やだ」 藍子「――分かりました。加蓮ちゃんが肝心な時に尻込みしちゃうっていうのは知っていますから」 菜々「……あの藍子ちゃん、目が据わっててナナ怖い」 藍子「なので、そういう時はパッションタイプの私が背中を押すって決めてるんです」 加蓮「へ? え、ちょ、藍子、待って、そんな真剣な顔でじりじり寄られたら私……!」 藍子「菜々さん」 菜々「ハイ」 藍子「ちょっと、横にずれてください」 菜々「ハイ」 加蓮「菜々さん!? ちょ、待って、ね? 藍子、絶対に後悔するから、ね? ちょっとだけ待とう? ちょっとだけ――」 藍子「えいっ!」 〜〜〜〜〜〜〜っ!! ……。 …………。 ――翌日―― 加蓮「…………〜〜〜〜っ!」 菜々「ミミン!? い、いきなり跳ねないでくださいよ加蓮ちゃんびっくりするじゃないですか」 加蓮「…………(ウルウル)」 菜々「はいはい。今回は自業自得ですよ、加蓮ちゃん」 加蓮「…………うん」 菜々「反省しましたか? じゃあもうこのお話は終わりです! 今日のことは今日のことですから! ねっ、加蓮ちゃん♪」 加蓮「……そうだね……いつまでもやってたら、私らしくないよね」 菜々「うんうん! 前を向いてこそ、加蓮ちゃんですよ! さあ一緒に、せーのっ、ウッサ」 加蓮「あ、ごめんそれはいい」 菜々「……ナナしょぼーん」 加蓮「はぁ……うん、いつまでもクヨクヨしててもしょうがないよね。よしっ(頬を叩く)じゃあ今日もレッスン――」 藍子「あ、おはようございます、加蓮ちゃんっ、菜々さんっ♪」 加蓮「〜〜〜〜〜!!! ごめん私先に行ってるからっ!」ビューッ 藍子「わ!?」 菜々「あーあ……あ、おはようございます、藍子ちゃん♪」 藍子「は、はい。あの、加蓮ちゃんはいったい……?」 菜々「……若いっていいですねぇ……いやいやナナも17歳ですけどね!」 藍子「???」 菜々「まあ、これくらいお灸をすえるのがちょうどいいんですよ、きっと」 |
掲載日:2015年5月23日