ベテラントレーナー（以下「ベテトレ」）「ワンツースリーフォー、ワンツースリーフォー！」
加蓮「よっ」
藍子「やっ」
菜々「ミンっ！」
ベテ「ワンツースリーフォー、そこでターン！」
加蓮「はっ」
藍子「えいっ」
菜々「ミミンっ！」
ベテ「そこまで！　……ふむ、まだミスはあるが、思っていたよりも完成度は高いな」
加蓮「ふふっ、自主練の成果かな」
菜々「加蓮ちゃんがよくやろうって言うからナナ大変ですよ」
ベテ「なるほど感心だ。だが、体はしっかり労るようにな」
加蓮「はーい、わかってまーす」
藍子「私が見張っていますので大丈夫ですっ」
ベテ「それなら一安心だな。……ところで」
加蓮「……うん」
菜々「……キャハッ」

Ｐ「ぜー、ぜー、はー、ぜー、お、お前ら、いつも、こんな、キツイの、やってた、のか」

ベテ「仮にもアイドルを指揮する立場としてそれはどうなんだプロデューサー」
加蓮「かっこわるーい」
藍子「Ｐさん、大丈夫ですか……？」
Ｐ「お、お前らな、俺はいつも、デスク、ワークで」
菜々「加蓮ちゃんよりずっと早くダウンしちゃいましたよね……」
加蓮「む。どうしてそこで私の名前を出すのかな？」
菜々「おおっとナナ失言です☆」
加蓮「あのね、体力体力って言うけど私だって最初に比べたら……あれ？」ｽﾄﾝ
藍子「わ、加蓮ちゃん、大丈夫ですか！？」
ベテ「膝に疲労が溜まっているようだな。レッスン後にマッサージを手配しておこうか。大丈夫かなプロデューサー」
Ｐ「ぜー、ぜー、え、ええ、大丈夫、お願いします」
ベテ「ふむ。では手配とレッスン内容の見直しを兼ねて席を外そうか。３人……とプロデューサーは休憩でも取っていてくれ」
菜々「お任せくださいっ！」
加蓮「だ、大丈夫だって。ちょっと疲れちゃっただけで」

藍子「どうしてそうやって無茶ばっかりを……ううんっ、ここで加蓮ちゃんを横にさせることが私の役割ですから」
加蓮「そんなのいらない……」
菜々「加蓮ちゃんは頭が回るのにどうして無茶ばっかりするんですかねぇ」
加蓮「仕方ないでしょ、ちょっとエンジン点いちゃったんだから」
Ｐ「はー……おし」
藍子「あ、Ｐさん。もう大丈夫なんですか？」
Ｐ「これしき徹夜の日々に比べたら何でもないさ」
藍子「……見張っておかないといけない人が１人増えた気がします」
菜々「Ｐさんも大概ですねぇ……なんでこの事務所には無茶する人ばっかりなんでしょうか」
加蓮「それ、２Ｘ歳には言われたくないんだけど」
菜々「ギャー！？　なんてことを！　具体的な数字を言うことないじゃないですか！」
加蓮「いやスゴイことじゃん。２Ｘ歳からアイドルに挑戦するとかさ、少なくとも私には無理」
菜々「また！　また言ったぁ！　Ｐさあん、藍子ちゃあん、加蓮ちゃんがいじめますぅぅぅ……」
藍子「よ、よしよし」
Ｐ「あー、あんまり言ってやるなって、な？」
加蓮「誰も言わないから私が言ってるだけなんだけどな」
菜々「むむ……！　ならナナも言わせてもらいますけど！　さっきのダンスのことですけど！」
加蓮「お？」
菜々「サビ前の動作を合わせるところ！」
加蓮「そこミスったの菜々さんじゃん」
菜々「ナナ失敗しましたごめんなさい！　でも加蓮ちゃんがそれに合わせてどうするんですか、間に挟まれた藍子ちゃんがわたわたしてて気の毒でしたよ！？」
藍子「あ、あれは加蓮ちゃんとベテトレさんが一緒に見えちゃって、ちょっと混乱して」
加蓮「菜々さんのミスって極端すぎるんだよね。だからつい」
菜々「いーえ、ナナはあのまますぐに立てなおしてました！　放っておいても大丈夫なんですぅ！」
加蓮「……なにそれ。ユニットなんだから各々が勝手にやって良い訳ないじゃん」
藍子「ま、まあまあお二人とも……。でも初めてこのユニットでやった時、加蓮ちゃんも菜々さんも、そんなに気にしないでやっていたような」
加蓮「あれはほとんど即興で組んでたからでしょ」
菜々「夢中でしたからねぇ」
藍子「私、そんなお二人の方が、いいなって思いますよっ。楽しそうにやってるなぁ、って」
加蓮「……この際だからついてに言っとこっか」
菜々「ナナも賛成です」
加蓮「藍子。あんたいつまで後ろの方で遠慮してるつもりよ」
藍子「え、え？」
菜々「藍子ちゃんがなかなか前に出てこないからついナナがはしゃいじゃうんですよねぇ。年甲斐もなく……ハッ！」
藍子「え、ええと」
加蓮「普段はあんなに自分はパッションパッション言っておいてさ、肝心なところで尻込みするのって、見ててなんとも言えないんだけど」
菜々「ナナ達に遠慮することなんてないんですよ？」
藍子「でも、私は……ううんっ、これでも頑張って目立っているつもりなんですっ」
加蓮「ふーん……Ｐさん、次のライブの時は藍子がセンターで」
Ｐ「え？　あ、ああ」
藍子「ええっ！？」
菜々「あ、それ面白そうですね！」
加蓮「菜々さんは藍子のソロの舞台って見たことある？」
菜々「あー、ないですねぇ」
加蓮「是非とも見てみるといいよ。まるで別人っていうか、誰これってなるから」
菜々「じゃあレッスンが終わってから見てみましょうかっ！」
藍子「え、そんなに違いますか、私……？」
加蓮「うん」
Ｐ「そうだな」
藍子「お、お恥ずかしい」
菜々「藍子ちゃんはもっとこう、どーんっ！　ってぶつかってきていいと思いますよ！」
加蓮「そーそー。やり過ぎたところでどうせウサミン星人が食っていくんだし」
菜々「その言い方じゃまるでナナが前に出過ぎみたいじゃないですか！」
加蓮「え？　自覚なかったの？」
菜々「ナナこれでも控えめにしているつもりですよ！？」
藍子「あ、私は菜々さんのライブ見たことあります。すごい盛り上がっていましたよね」
菜々「ファンの皆さんにはいつも助けられてますねっ！」
加蓮「あれに比べたら控えてるんだろうけどね……。いっそ菜々さんも藍子もはっちゃけたらどうなるんだろ」
菜々「一度やってみますか？」
加蓮「観客に死人が出そうだね」
藍子「……加蓮ちゃんまで倒れちゃいそうですね」
加蓮「そうならないように頑張る」
藍子「もうっ。またそうやって無理ばっかり……」
菜々「いいでしょう！　ナナ、本領発揮しちゃいますよ！」
加蓮「ふふっ。食われないように頑張らないとね」
藍子「私も、頑張ってついていってみます」

――そして手始めにとばかりに続くレッスンで安部菜々がはっちゃけ、北条加蓮が半ば争うように立ち回り、高森藍子が必死についていくも天然が故に方向がズレ、そしてベテトレは怒鳴った。
――「お前ら少しは周りを見て動け！」
――ちなみにＰは開始１０分でリタイアした。

（レッスン後……）
加蓮「ふーっ。なんだか体が軽くなったみたい」
Ｐ「ああ、お帰り加蓮。マッサージはもういいのか？」
加蓮「入念にしてくれたからね。これでまた頑張れるよ」
Ｐ「そうか」
加蓮「まさか言ってから２日でレッスンを見に来るとは思わなかったな」
Ｐ「できることは早めにってな。でもマジで驚いたよ、あんなにハードだとは」
加蓮「トレーナーさん任せだったもんね、Ｐさん。ふふっ、他に感想はないの？」
Ｐ「あー、はは、加蓮はよく頑張ってるな」ﾜｼｬﾜｼｬ
加蓮「えへへぇ」
Ｐ「……なんか、いいなって思ったよ」
加蓮「ん、何が？」
Ｐ「加蓮と、藍子と、菜々」
加蓮「そう？」
Ｐ「なんかな」
加蓮「あはは、Ｐさんは口下手だね」
Ｐ「……加蓮が帰ってくるまでずっと言葉を探してたんだがな、いい言葉が見つからなかった」
加蓮「もう、なにそれ。そんなに暇なの？」
Ｐ「ばっ、ちげーよ。俺はいつでもアイドルの為にだな」
加蓮「うん、知ってる。そっかー、いいんだ、私たち」
Ｐ「なんかな」
加蓮「そっかー」
Ｐ「ははっ」