「日常があるから藍子は冒険する」





加蓮「お疲れ〜」
藍子「あ、おかえりなさいっ」
菜々「お疲れさまです、加蓮ちゃん!」
加蓮「……うわぉ珍しい、藍子がパソコンの前に座ってるなんて」
藍子「あ、はい。実は、雑誌のコラムを頼まれちゃったんです」カタカタ
加蓮「コラム?」
菜々「『散歩ますたー』って雑誌らしいですよ!」
加蓮「あ、なんかそれ見たことある。藍子にピッタリだなぁって思って」
藍子「ふふっ、実は私もたまに読んでいて……オファーをもらった時は、すごく嬉しかったです」カタカタ
加蓮「良かったじゃん、藍子……そういえば眼鏡つけてるんだ」
藍子「はい。なんだかこれがあると、ちょっとやる気になるので」
加蓮「どこかのメガキチが喜びそうだなぁ」
藍子「あ、春菜ちゃん、私がコラムのオファーを受けた時にたまたまいたんですけれど」
加蓮「うん」
藍子「『パソコンを使うなら眼鏡がいりますね!』っていって、色々とオススメしてくれました」
加蓮「既に動いた後だったかー」
菜々「そうだ。藍子ちゃん藍子ちゃん。加蓮ちゃんにも聞いてみたらどうですかっ?」
藍子「そうですね。ちょっといいですか、加蓮ちゃん」
加蓮「ん、どしたー?」
藍子「んっと……説明するのが難しいんですけど、この……こう、いい写真、って何かありませんか?」
加蓮「写真?」
菜々「散歩のコラムだから散歩の写真がいるらしいんですよね。ナナも1枚、とっておきのを提供しちゃいましたよ!」
加蓮「散歩の写真かー……いや、ないこともないけど、藍子のには負けるって」
藍子「それが、できればアイドル仲間の写真もあるといいって」
菜々「ナナも見てみたいですねぇ。加蓮ちゃんがどんな写真を撮っているか」
加蓮「そ、そんな期待されても。最近のだと……この辺?」
藍子「わぁ……! 綺麗な木漏れ日……!」
菜々「ナナちょっと加蓮ちゃんを見る目が変わりそうですよ」
加蓮「こんなんでいい?」
藍子「はいっ! 加蓮ちゃんらしくてステキですっ♪」
菜々「写真提供者の名前も載るらしいですよー。これは加蓮ちゃんがギャップ萌えって言われること間違いナシですね!」
加蓮「……ごめんやっぱなし、もうちょっと他の写真を選ぶから」
菜々「まあまあそう言わず!」
加蓮「ちょ、コラ! 私のスマホ勝手に接続しようとしないでぇ!」
藍子「ふふっ、もっとステキなコラムになるといいな……♪」カタカタ

……。

…………。

藍子「うーん……」カタカタ
菜々「むむっ! 藍子ちゃん、誤字ハッケンですよ!」
藍子「わわっ」カタカタ
菜々「『星が綺麗でした』が『押しが綺麗でした』ってなってます! パソコンあるあるですね」
藍子「ありがとうございます、菜々さん。ええと、星、っと」カタカタ
加蓮「パソコンあるあるって、菜々さんパソコンとか使えるの?」
菜々「はいっ♪ もうお茶の子さいさいですよ!」
加蓮「うわ、すっごい意外」
菜々「ふふん。加蓮ちゃん、ナナが何の考えもなしに永遠の17歳をやっていると思っているんですか?」
加蓮「うん」
菜々「ふっふっふ、ナナこれでもスマホもパソコンもバッチリなんですよね〜」ドヤァ
加蓮「マジ?」
菜々「17歳たるもの、若者の流行には常についていけるようにしないと!」
加蓮「もしかして菜々さん、LINEとかしてる?」
菜々「もうイケイケですよ! 加蓮ちゃんにはIDを聞いてませんでしたね、よければ教えてください♪」
加蓮「ん。(カチカチ)はいこれ、メールで送っといたよ」
菜々「これで加蓮ちゃんとも女子会ができそうですね!」
加蓮「女子」
菜々「女子!」
加蓮「……深くは突っ込まないことにしとこ」
菜々「ところで加蓮ちゃんはパソコンも得意そうですね」
加蓮「いや……うん、実はあんまり」
菜々「あれ?」
加蓮「スマホはさすがに自信あるし、前にオススメアプリのコラムとか参加したけどさ。パソコンは苦手かな」
菜々「ほほう! ではいい機会ですしナナが教えてあげましょうか!?」
加蓮「……すっごい嬉しそうだね」
菜々「それはもう、こういう若者らしいことを教えられることが嬉しくて嬉しくて。なんたってナナは、1・7・歳、ですからね!」
加蓮「うっわぁすごいドヤ顔。まあでも、たまには菜々さんに教えられるのもいいかな」
菜々「そうこなくちゃ! じゃあまずは最近よく聞くクラウドについてですけど――」
加蓮「ふんふん」
菜々「これがこうで……ああで……こうなって……」
加蓮「つまり……ってこと? それで……ふうん……へえ……」
菜々「ですからPさんもよく使ってて……だからアイドルのスケジュール伝達にも使うってウワサが……」
加蓮「面白そうだけど……なるほどそうやって苦手な人にもサポート……」
藍子「…………あはっ♪」カタカタパシャ

――それから2週間後――
加蓮「あ、いた! ちょっとそこの高森藍子ォ!」
藍子「ひゃいっ。お、おはよございます加蓮ちゃん」
加蓮「あ、うん、おはよ。って、ちょっとこれについて説明してよっ!」バンッ
菜々「ナナも説明を要求します!」
藍子「な、菜々さんまで。いったいどうしたんですか?」
加蓮「最新号の『散歩ますたー』! これでしょ、藍子が書いたコラムって奴!」
藍子「は、はい。あのあと、編集の方に次もお願いしますって、えへへ」
菜々「もうすっかりレギュラーですね! さすが藍子ちゃん!」
藍子「おふたりの写真もとってもステキって褒められちゃいました♪」
加蓮「……って丸く収めようとすな! ここ! これ!」
藍子「あ。……ええっと、それは、その」
加蓮「なんでお散歩の特集コラムで私らが出てくるのかなぁ!?」
菜々「それもこれ、ナナが加蓮ちゃんにパソコンのことを教えていた時ですよね! いつの間に写真を!」
藍子「そ、その、それは、おふたりを見ていたら手が勝手に動いてて」
加蓮「散歩とこれっぽっちも関係ないじゃん!」
藍子「私もダメ元でしたけど、散歩の魅力がよく分かってるって、逆に褒められちゃって……ただ歩くだけが散歩じゃなくて、こういう日常があってより際立つ物だって」
菜々「な、なるほど」
藍子「その……ご、ゴメンナサイ」
加蓮「はぁ……。まあ、ここまで言われちゃ文句も言えないなぁ……」
菜々「あれっ、珍しいですね加蓮ちゃん。いつもならもっと藍子ちゃんを困らせるのに」
加蓮「菜々さん、このコラム読んだ?」
菜々「あー、ナナは加蓮ちゃんに聞いただけなのでまだ」
加蓮「……じゃあ読んでみるといいよ。毒も抜かれるから」
菜々「じゃあちょっと失礼しますね」
藍子「うう、か、加蓮ちゃん、その」
加蓮「いいっていいって。ごめん、さっきのホントにノリみたいなものなんだ」
藍子「……えへ」
加蓮「こら、調子に乗るな」グイグイ
藍子「ひゃい、ご、ごへんなはい、ほっぺつねらまいふぇ……」
菜々「――うううっ! ナナ、感動しちゃいました!」
加蓮「お、早い」
菜々「まさかこんなに藍子ちゃんに想われてたなんて……! ナナ、やる気が湧いてきましたよぉ!」
加蓮「ふふっ。じゃあ今日もレッスン行こっか」
菜々「はい! それではまたです、藍子ちゃん!」
藍子「はいっ。行ってらっしゃい、加蓮ちゃん、菜々さん」

――高森藍子のコラムから一部抜粋

私にとって、お散歩が"見つけられる幸せ"なら、おふたりは"手のひらの上の幸せ"なのかもしれません。
ううん、私には大きすぎて、手のひらからこぼれちゃいそうかも?
散歩から帰ってきた時、おふたりに「おかえり」って言ってもらえるだけで、足の疲れも吹っ飛んじゃいます。
その笑顔が欲しくて、また歩いて来よっかなって思っちゃうくらいに!


掲載日:2015年5月24日

 

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