「今は口を開いてくれるだけで」





――北条加蓮の部屋(夜)――
喜多見柚「加蓮サン、まだ死んじゃいそう?」
工藤忍「死なないとは思うけど……辛そうだよね」
北条加蓮「…………」

額には水で濡らしたタオル。頭の下には氷枕。
枕元には氷水入りの桶があって、それから、ベッドの側に心配そうな女の子が2人。

柚「おかゆ、まだかな」
忍「加蓮のお母さんが作ってくれてるんだよね」
柚「ママ、アタシがパニクって報告した時も優しく頷いてた」
忍「手馴れてるって感じだったな。加蓮のこと、よく分かってるんだね」

病院に行って点滴を打ってもらって、一晩寝たらだいぶ回復はした。まだ、動くのは辛いけど……。
もう放っておけば治るんだから看病もお見舞いもいらないのに、それを言ったところで引いてくれる2人ではない。
風邪が伝染ると、私も嫌なんだけどな……。

忍「ん? ママ? 柚ちゃん、アンタはいつからここの子になった?」
柚「加蓮サンいいって言ってくれた! ママも!」
忍「……どゆこと??」
柚「えっとね、加蓮サンのママがアタシの――」
忍「それは分かったって、いや分からないんだけど」
加蓮「柚の話なんだから……ゲホッ……なんとなくそういうこと、でいいんじゃない?」
忍「……あー、そっか」
柚「それどーゆー意味!?」
加蓮「柚、うっさい……頭に響くんだから叫ぶな……」
柚「あ、ごめんなさい……」シュン

――3分後――
柚「…………」ウズウズ
柚「ママにおかゆまだかって聞いてくる!」シュタッ
忍「あ、柚ちゃん! ……ハァ」
忍「ごめんね加蓮。柚ちゃんがうるさくて」
加蓮「いいって……エホッ……うるさくない柚なんて柚らしくないじゃん……」
忍「それもそうだけど……」
加蓮「柚ね……最初の頃は、話しかけても反応ぜんぜんなかったんだ」
加蓮「……でも、元気になってからは、どーでもいいことで私を呼んでばっかりで。それが、だんだん楽しくなってきてさ」
加蓮「柚がフリルドスクエアの……ゲホッ……みんなのところに戻るって言った時さ……今だから正直に話すね。行ってほしくないって思っちゃったんだ……」
加蓮「もっと、私の側にいてほしいって……家のことが解決してないから、結局、ここにいてくれるんだけどね……」
忍「…………」
加蓮「ふふ。ごめんね、忍。柚をずっと独り占めしてて」
忍「ホントだよ。まったく……柚ちゃんがいなくてどれだけ寂しかったか。穂乃香ちゃんなんてずっと落ち込んでたし、あずきちゃんも遊び相手がいなくて寂しそうだったし」
加蓮「ん……そっか……」
忍「……穂乃香ちゃんとあずきちゃんがいい子でよかったね。じゃなかったら、加蓮が恨まれてるところだったよ?」
加蓮「あはっ……。忍は? 忍は、私のこと恨んだ?」
忍「恨んだ。っていうか……どうして、って思った。なんで加蓮なんだろう。アタシ達じゃなくて」
忍「……すぐに、アタシ達の頑張りが足りなかったから、って思ったけどね」
加蓮「忍はすぐにそれだね……頑張る頑張るって。もっと楽に考えればいいのに……」
忍「加蓮にだけは言われたくないよそれ。それに加蓮、アタシ忘れてないからね? 頑張る楽しさを教えてほしいって言ったこと」
加蓮「げ、忘れてなかったか」
忍「忘れてない。だからさっさと、元気になって、藍子ちゃん達と仲直りしてよ。アタシ嬉しくてPさんに話までしちゃったんだからね」
加蓮「はーい……ゲホッ」
忍「……って言ったけど……やっぱり辛い?」
加蓮「ん……ふふっ……慣れたことだよ。だからお見舞いなんていらないのに……」ゲホゴホ
忍「こういう時くらい素直になってよ。アイドルやってる時みたいにさ。その方が柚ちゃんだって喜ぶよ、きっと」
加蓮「はーい……じゃあ忍……ごめん、タオル替えてぇ。冷たくなくなっちゃってる」
忍「うん。ちょっと待っててね」スッ

忍がタオルを絞って、また乗っけてくれた。
昨日のりんごといい、なんか忍がいつもより年上に見える。
ちょっと頼りになるかも?

加蓮「…………」ボー
忍「…………どしたの?」
加蓮「なんにも……ちょっとぼーっとしてただけ。あ、忍が深刻そうな顔してるなー、って思ってた」
忍「そりゃ深刻な顔にだってなるよ……。ねえ、ホントに大丈夫なんだよね加蓮?」
加蓮「大丈夫だいじょーぶ、もうあとは放っとけば治、」

柚「ただいまっ! おかゆできてた! アタシがあーんってしてあげるね!」バンッ!

加蓮「」グフッ
忍「…………柚ちゃん。病人の前なんだから静かにしようよ……」
柚「ぎゃっ。ごご、ごめんなさい加蓮サン――ぎゃー! 加蓮サンが白目剥いてるー!」
忍「え!? うわひどい顔! 加蓮、加蓮、大丈夫!?」
加蓮「……頼むから、少し静かにして……」グタッ


――15分後――
柚「はい、加蓮サン。あーんっ」スッ
加蓮「ん……」アーン
柚「と見せかけて柚が食べるっ! んー、さすがママのおかゆっ。あったかくておいし――」

<ごちんっ!

忍「あーん。熱くない?」
加蓮「へーき……。ふふっ、お母さん、あったかめに作ってくれたんだ……」
忍「気遣ってくれたんだね。はい、あーん」
加蓮「あーん……」
柚「」チーン
柚「うう、ずるい、忍チャンばっかりずるいっ。柚にもあーんってさせて!」
忍「……あのね柚ちゃん。いくらなんでもさっきのはない。ありえない」
柚「ごめんなさい! もうしませんっ! だから忍様、なにとぞ柚にあーんをさせてください!」
忍「そんなにしたいの……? 変な柚ちゃん。じゃあ、はい」
柚「やったー! 加蓮サン、柚のおかゆを食べるのだ〜」
加蓮「……ごめん……もういらない……食欲ない……」
柚「ええー!? なんで、なんで!? 忍チャンばっかり!」
忍「柚ちゃん。加蓮は病人なんだから、柚ちゃんがワガママを言ったら駄目だよ」
加蓮「ふふっ……ごめんね、柚。また健康になったらいっぱいやってよ。それじゃダメ?」
柚「……許すっ。その代わり、アタシにもあーんっ、いっぱいやってね!」
加蓮「はいはい……」
忍「ホントに一緒に生活してるんだね。柚ちゃんが迷惑かけてない?」
柚「なんですと!? かけてないよ! だよねっ加蓮サン!」
加蓮「苦労しちゃうよ。いっつも疲れたところに遠慮なく来るし、加蓮サン加蓮サンうるさいし……」
柚「!?」ガーン
忍「アハハ……」
加蓮「でも、今は嬉しいよ……私1人じゃ、心細いもん」
柚「あ、アタシいらない子じゃないよね!?」
加蓮「当たり前でしょ……ゲホッ。柚が退屈させてこないから、変なこと考えなくて済むもん……」
柚「じゃあ、これからも加蓮サンって呼んでいい!?」
加蓮「うん……」
忍「よかったね、柚ちゃん」
柚「よかった!」
加蓮「あははっ……」
忍「……加蓮」
加蓮「んー?」
忍「藍子ちゃんと菜々さんのこと……その、どうにかなりそう?」
柚「…………」
忍「アタシ達でできることあったら……ほら、柚ちゃんのこともあるし、手伝うけど……」
忍「アタシにできることは少ないけど、穂乃香ちゃんやあずきちゃんなら……いや、加蓮だって柚のことで一生懸命になってくれたんだから、アタシも頑張るから!」
加蓮「……ん、ありがと…………」
柚「アタシもっ、えとっ、なんにもないけどやってみるっ。なんでも言って!」
加蓮「柚もありがとね。……今は……じゃあ、いっぱいお話してよ。退屈しないくらいに……」
柚「あいあいさー! それならアタシの得意分野っ」
忍「柚ちゃん、静かにって言ってもぜんぜん静かにしないもんね……」
加蓮「ホント。ぜんぜん退屈しないよ……柚は、すごいね…………」
柚「加蓮サンに褒められた! やたっ」
加蓮「……ふふっ…………」


掲載日:2015年9月29日

 

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