「巫女さんは怒ってない」





――神社――
道明寺歌鈴「――はいっ! では、お昼ごはんを食べた後はお掃除について教えますっ! えーっと、お掃除っていってもただ単に葉っぱを取るってだけじゃなくて、そのっ、いろいろあるんです!」
歌鈴「次はそれを教えちゃいますね! ではっ、ご飯にしましょう!」

<はーい!

歌鈴「ふーっ…………ありがとうございます加蓮ちゃん。アイドル歌鈴による巫女体験ツアー、順調です!」
歌鈴「今のところノーミスです! 加蓮ちゃんがいると、シャキッとしないと! ってなって、ミスも減るんですよ!」
北条加蓮「…………」
歌鈴「で、でもっ、加蓮ちゃんと並ぶと加蓮ちゃんがキレイすぎて私の巫女姿が目立ってない気も……! でもお仕事だから加蓮ちゃんも巫女姿になった方が……っ!」
歌鈴「来てくれたみんなも喜んでるみたいだし、ううっ、どうしたらいいの。考えるのよ歌鈴……!」
加蓮「…………ねえ」
歌鈴「あ、はいっ! なんでつか!(噛んだ……!)」
加蓮「アンタさ……」
歌鈴「?」
加蓮「……いいや。私たちもお昼ごはんにしよっか」
歌鈴「はい! 私もうお腹ペコペコでっ……」タタッ
歌鈴「きゃっ」ツルッ
加蓮「うわっと」ダキカカエ
加蓮「……別に、ご飯は逃げやしないんだから落ち着きなさいよ」
歌鈴「は、はい〜〜〜〜……」


――即席のテーブル――
『味つ物 百の木草も 天照 日の大神の 恵み得てこそ』

歌鈴「覚えててくれてたんですね!」
加蓮「巫女用のお祈りみたいなもの、でしょ? 教えてもらったから忘れないよ」
歌鈴「はいっ! では、」
加蓮・歌鈴「「いただきます」」
加蓮「…………」モグモグ
歌鈴「…………」モグモグ
加蓮「…………」モグモグ
歌鈴「…………」モグモグ
加蓮「…………」モグモグ
歌鈴「…………」モグモグ
加蓮「…………ねえ」
歌鈴「あっ、ダメですよ〜加蓮ちゃん! ご飯は黙って食べないと」
加蓮「ごめん。でもさ……ちょっと確認させてよ」
歌鈴「はい?」
加蓮「アンタさ……なんていうか……私に何も思ってないの?」
歌鈴「はい……?」
加蓮「いや、ほら、その、私さ……藍子を……アレ、なんだけど……」
歌鈴「…………」スッ(箸を置く)
歌鈴「私……Pさんに言われてから、いろいろと考えてみたんです。自分って何になりたいのかな? って」
加蓮「……?」
歌鈴「前は、なりたいものなんてなかったんです。ほら、ドジでノロマで、そんな私にできることがない、なんて……。そう言ったら、Pさんに叱られちゃいましたけど」
歌鈴「今は、巫女アイドルとして何かやってみようって! こう見えても私、巫女服を着たら転ばなくなるんですよ! ……それなりに!」
加蓮「そっか」
歌鈴「そういうことでふ! ……です!」
加蓮「…………」
歌鈴「…………」ドヤア
加蓮「…………いや、答えになってなくない?」
歌鈴「あれ?」
歌鈴「えーと、……あれっ?」
加蓮「…………??」
歌鈴「あっ。……そうだ! じゃあ加蓮ちゃん、このお話は知っていますか?」
加蓮「今度は何?」
歌鈴「私、加蓮ちゃんと一緒にLIVEする筈だったのに、加蓮ちゃんがいないから私のソロLIVEになってしまったこと!」
加蓮「え、マジ?」
歌鈴「マジです。Pさん言ってました。加蓮ちゃんはどうしても手が離せないから歌鈴に任せた! って!」
歌鈴「……結果は、散々でした。ミスらないように、加蓮ちゃんの分までやらないと、って、それに、Pさんに任せられたから頑張ろうってずっと唱えてたら、逆にあがっちゃって……5回も転んでしまって」アハハ
歌鈴「ファンの皆さんはそれでも盛り上がってくれて、Pさんは笑って許してくれるんですけど……ううっ、次、次こそはミスらないように頑張ります!」
加蓮「そ…………」
歌鈴「アイドル歌鈴、まだまだこれから……!」
加蓮「……いや、だから答えになってないっていうか何の話よこれ」
歌鈴「あれぇ!?」
加蓮「説明したつもりだったの!?」
歌鈴「え、えーっと、と、とにかく! 私が何が言いたいかと言いますと!」
加蓮「うん」
歌鈴「…………あれ?」
加蓮「ああ、うん、もういいや……。変に肩肘張ってた私が馬鹿だってことだね……」
歌鈴「はぁ……。でも今日の加蓮ちゃん、ときどき冗談を言ってみなさんを笑わせてくれてましたよね」
加蓮「ウケてよかった。巫女体験ツアーっていうからもっと硬い物かと思ってたら、意外とゆるやかでビックリしたよ」
歌鈴「色々な作法はありますけれど、一気にぜんぶ教えちゃったらとっつきにくいですから」
加蓮「……もしかして実体験済み?」
歌鈴「…………」シュン
加蓮「あー、ごめん。でもほら、前に私に教えてくれた時は最初から最後までガッチガチだったじゃん。巫女服だって本格的なのでさ。今日は動きやすい奴で助かるよ」
歌鈴「加蓮ちゃんにはいっぱい教えたかったんです! 巫女の良さと、あと、巫女を見習って欲しいって!」
加蓮「え、巫女を見習わないといけないの?」
歌鈴「神様を敬う心があれば、もうちょっとこう、ぐっ、とまっすぐになるかなって。みーんな言ってますよ、加蓮ちゃんは意地悪だ! って」
加蓮「そんなこと言われてもなー……」
歌鈴「どうですか? また巫女をやってみて、少しは神様を信じて頑張ろーってなりましたか?」
加蓮「神様、神様ねー……」
歌鈴「?」
加蓮「いいや。神様の世話をする役目は歌鈴に任せるよ。私は自分の世話で精一杯だし」
歌鈴「むぅー……」
加蓮「いいじゃん。こうして付き合ってあげてるんだし。だいたい歌鈴の仕事になんで私が組み込まれてんのよ……もー、Pさんも何を考えてんだか……」
歌鈴「…………」
歌鈴「藍子ちゃんのこと」
加蓮「ん?」
歌鈴「ちょっとは思いました。加蓮ちゃんは何をやってるんだーっ! って」
加蓮「……やっぱりそっか」
歌鈴「でも、さっき言ったLIVEの時にPさんから聞いて……加蓮ちゃんが、誰だったっけ、ゆ、柚ちゃん? って子を助けてあげてるって」
加蓮「…………」
歌鈴「加蓮ちゃん、前に私に言ってくれましたよね。嘘はつかない、って。それを思い出して」
歌鈴「加蓮ちゃんは、ドジな私なんかよりずっとすごい人だから……すごいな、って思ったんです!」
加蓮「……そか。歌鈴だって十分すごいよ。前に一緒にLIVEやったこと、もうずっと忘れてないよ」
歌鈴「い、いえいえ、私なんて加蓮ちゃんが抜けちゃうだけでドジっちゃう子ですから……!」
加蓮「もしかして根に持ってる?」
歌鈴「あの、加蓮ちゃん」
加蓮「ん」
歌鈴「藍子ちゃんと、早く仲直りしてあげてくださいね?」
加蓮「……うん」
歌鈴「藍子ちゃん、とっても困ってました。あと加蓮ちゃんを心配してました。……うう、私も頑張って元気づけようとしてみましたけど、困ったように笑っちゃうから……」
歌鈴「そそ、それに! 加蓮ちゃんがぼやぼやしてたら、えっと、えーっと、と、とにかく良くないことが起きるんですからね!」
歌鈴「神様が罰を与えちゃいますよ!」
加蓮「…………ふふっ」
加蓮「うん、分かった。……ごめんね歌鈴。藍子のこと、傷つけちゃって」
歌鈴「謝る相手が違いますっ!」
加蓮「……そうだった。菜々さんに言われたばっかりなのになぁ……」
加蓮「ってか歌鈴。お昼ごはん食べなよ。休憩時間、あと5分しかないよ?」
歌鈴「はわっ! いつの間にこんなに時間が! い、急いで食べます!」モグモグモグモグ
加蓮「私か歌鈴に、藍子のゆるふわオーラが身についちゃったかな……? あーもー歌鈴? そんなに急いで食べると巫女服に飛び散っちゃうよ?」
歌鈴「だ、だいじょーぶれふ…………うぐっ!? み、みふ、水〜〜〜!」ジタバタ
加蓮「あーあー……」



掲載日:2015年9月27日

 

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