「タメ口なら呼び捨ても行けますよね!」






――事務所の談話室――
菜々「やっぱり気になるんですよねぇ」
加蓮「(スマホから顔を上げ)ん? どしたの菜々さん」
菜々「加蓮ちゃんのそれ」
加蓮「……??」スマホシマイ
菜々「菜々"さん"って呼び方ですよ! "さん"付け!」
加蓮「……柚を見習って"菜々サン"って呼んだ方がよかった?」
菜々「そういうイマイチ伝わらない話じゃなくて! なんか菜々1人だけ浮いてるみたいじゃないですか!」
加蓮「や、実際に浮いてるし」
菜々「なにをーっ!?」
加蓮「なんて呼ばれたいの?」
菜々「それはやっぱり、呼び捨てとか、ちゃん付けとか……それに聞いてくださいよ! 最近ではPさんまでもがナナのことを"菜々さん"って呼ぶようになったんですよ!」
加蓮「ふうん……」
菜々「もちろん冗談でしょうけど、Pさんは冗談と本気がとても分かりにくいんですよ。なんとかしてくださいよ加蓮ちゃん」
加蓮「私に何とかしろって言われても」
菜々「加蓮ちゃんがナナのことちゃんと呼んでくれたら、Pさんも考えを改めてくれると思うんですよね」
加蓮「そういうものかな……」
菜々「せっかくユニットも組んでいることですし、ナナとしてももっと加蓮ちゃんと親しくなりたいですから!」
加蓮「さん付けだと親しくなれないのかなぁ」
菜々「うっ、そんなマジトーンで言われても」

藍子「こんにちは〜」
加蓮「ん、藍子。お帰り」
菜々「おかえうっさみ〜ん☆」
藍子「うっさみ〜ん☆ おふたりとも、今日は何のお話ですか?」ジトー
加蓮「……って言いながらどうして私をジト目で見るのかなこの子は」
藍子「菜々さんが困っている時は、だいたい加蓮ちゃんのせいですから」
菜々「日頃の行いですねぇ」
加蓮「ひどっ。こんないい子を捕まえてっ」
藍子「……?」
菜々「……?」
加蓮「きょとんとすなっ!」
菜々「加蓮ちゃんがですね、いつまで経ってもナナのことを菜々さんと呼ぶのがちょっと気になって」
藍子「ああ……あれ? でも、私も菜々さんのこと、菜々さんって呼んでますよ?」
菜々「ですので藍子ちゃんもこれを機にっ!」
藍子「ええと……ウサミンさん?」
菜々「ちっがあああう!!」
加蓮「あははっ、それいいかも。ねえウサミンさん」
菜々「余計に距離が空いたんですけど! 今、なんか溝みたいなものが見えましたよ!?」
加蓮「ふふっ。藍子、そうじゃなくてね。ちゃん付けとか呼び捨てとかにしてほしいんだって」
藍子「あ、そっちでしたか」
加蓮「ぷっ、くくっ、普通そっちでしょ、ウサミンさんって、ウサミンさんって……あははっ」
藍子「も、もう、笑わないでくださいよ! 可愛いじゃないですかウサミンさん。ウサギさんみたいで」
加蓮「だってさ、菜々さん」
菜々「せ、せめてナナは菜々と呼んでほしいですねぇ……」
加蓮「試しに呼んでみたら?」
藍子「いいですけど……じゃあ、ごほんっ。えっと、な、菜々……ちゃん」
菜々「キャハッ☆」
藍子「………………ごめんなさい加蓮ちゃん許してください」
加蓮「あははははははははっ!!」
菜々「そんなに!? 顔を真っ青にして口元を押さえるくらいに!?」
加蓮「なんだかんだ言って体は正直だね〜ってヤツ? あははっ、おっかしい、駄目だ今日は駄目だごめん菜々さん私っっっ」
菜々「……もうなんか、ここまで笑われると怒る気力も失いますね」
藍子「加蓮ちゃんの笑顔には、みんなを幸せにする力がありますから♪」
加蓮「あははははっ」
菜々「……この大笑いが?」
藍子「あ、あはは……私、ちょっと喉が乾いたので」スクッ
加蓮「あははっ、ひーっ、ひーっ……あー、落ち着いた、うん。久々に大笑いしちゃったよ、ごめんね菜々さん」
菜々「いーえナナは許しません! 罰としてナナのことを菜々ちゃんって呼んでみてください!」
加蓮「まだ言うんだっっ……! んー、そうだね、"菜々"」
菜々「はい!」
加蓮「菜々」
菜々「キャハッ☆」
加蓮「……あれ、思ったよりしっくりくる」
菜々「でしょでしょ!?」
加蓮「なんか同い年くらいに感じるっていうか」
菜々「だってナナは17歳ですし」
加蓮「菜々さー、宿題やってきた? みたいな……うわ、なんだろ、今なら菜々さ、じゃなかった、菜々と学園ドラマ撮れそう」
菜々「いいですねいいですね!」
加蓮「1話のラストでPさ、じゃなくて1人の男性生徒を取り合って河原で殴りあう私と菜々」
菜々「ってなんでそんな熱血モノに!?」
加蓮「2話の冒頭は体育館の全校集会から。『昨夜、わが校の問題児、安部菜々さんが亡くなってしまいました。やったぜ』」
菜々「ナナ早くも退場ですか!? それに問題児って! しかも校長先生なんか喜んでますよね!?」
加蓮「テレビじゃ『地球に降り立ったメルヘン星人、ついに腰が砕けて死亡か!?』」
菜々「普通の学園生活は!? 同い年のクラスメイトって話はどこに行ったんですかね!?」
加蓮「……あははっ。駄目だ、菜々でも菜々さんでも、クラスメイトでもハタチオーバーでも、ウサミン星人はウサミン星人だ」
菜々「ぐぬぬ……一応、褒め言葉として受け取っておきますね」
加蓮「一応ってひどいな。私は人を貶したりしないよ」
菜々「ナナ、ここ数日だけでも加蓮ちゃんからさんざん馬鹿にされた記憶があるんですが」
加蓮「気のせいだって」
菜々「ナナから頼んでおいてこんなことを言うのもなんですけど」
加蓮「ん?」
菜々「やっぱりさん付けでいいです」
加蓮「あれ」
菜々「いやあ、その……ナナの方が違和感バリバリっていうか。あ、でも、たまにはクラスメイトみたいに気軽に呼んでくださいね!」
加蓮「しょうがないなぁ。ま、菜々さんはやっぱり菜々さんだよね」

藍子「丸く収まりましたか?」
加蓮「結局、菜々さんのワガママってことで終わったよ。ってか藍子、どこ行ってたの?」
藍子「喉が乾いたので給湯室の方へ。ついでにPさんから、おふたりの分の紅茶も淹れてもらいましたっ♪」
菜々「いつもありがとうございます、藍子ちゃん♪」
加蓮「ありがと、藍子」
藍子「いえっ、お礼はPさんに」
菜々「ごくごく……ぷはーっ。そうだ、藍子ちゃんも呼び方を変えてみたらどうですか?」
加蓮「ごくごく……まだ懲りてないんだ」
藍子「ごくごく……うーん、せっかくですけど、私はちょっと難しいから」
菜々「いえいえ、ナナじゃなくてですね。加蓮ちゃんですよ!」
加蓮「私?」
藍子「加蓮ちゃん?」
菜々「いつも"加蓮ちゃん"って呼んでるから、たまには呼び捨てとかどうですか?」
藍子「うーん……?」ゴクゴク
加蓮「いや、ってか藍子が呼び捨てにしてるところ聞いたことないんだけど」
菜々「だからこそですよ!」
加蓮「そんなものなのかな……」ゴクゴk
藍子「分かりました――ね、"加蓮"」
加蓮「ぶほっ!」
菜々「わ、わ、大変です! ハンカチハンカチ!」
藍子「……? どうかしたんですか、加蓮。お茶、熱かったですか?」
加蓮「やめて! 背中ぞわっとする! 菜々さんの気持ちが気持ち悪いくらい分かる!」
菜々「……なんでしょうか。同情よりもざまあみろって気持ちの方が……ハッ、いけないいけない、ナナそういう陰湿キャラは嫌ですからね」
藍子「ほら、拭いてあげますからじっとしててくださいね、加蓮。あっ、もう、じたばたしたら駄目ですよ加蓮」
加蓮「別キャラだこれ! もしくは菜々さんと同じ年齢の藍子だこれ!」
菜々「それ17歳って意味じゃないですよねぇ!?」
藍子「2X歳の私、ですか? 加蓮がそれくらいになったら、きっとすごい美人さんになりますねっ♪」
加蓮「誰!? もうアンタホントに誰!?」
菜々「さらっとその数字を出すなーっ!」
藍子「変なこと言わないでくださいよ、加蓮。私は私ですよ? ねっ、加蓮♪」
加蓮「もうやめてええええーっ!!」


掲載日:2015年5月28日

 

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