「過ぎゆく熱風、去りゆく蜩」





――事務所――

<カナカナカナカナ...

高森藍子「うーん…………」パラパラ
北条加蓮「ふ〜、すっきりしたぁ」(シャワー上がり)
加蓮「ん? 藍子、何してんの」
藍子「あ、加蓮ちゃん」パタン
藍子「レッスン、お疲れ様です。今日は、へとへとじゃないんですね」
加蓮「私だっていっつもへばってる訳じゃないわよ。ちゃんと体力のコントロールできてるっての」
加蓮「それ、日記帳? 事務所に持ってくるなんて珍しいね」
藍子「はい。いつもは寝る前に、ちょこっとだけ書いているんですけれど……」
加蓮「お茶、お茶っと」ガサゴソ
加蓮「あ、隣いい? よいしょ」
加蓮「んぐんぐ。なんかあったの? あっ、もしかしてアイドルの裏側公開とかそういう企画? 藍子にやっても意味あるのかなー」
藍子「そっ、それどういう意味ですかっ」
加蓮「だって裏表がないじゃん。実はこんなんだった! とかないし」
藍子「むぅぅ……だって、隠し事って、あんまり好きじゃなくて」
加蓮「そうじゃないなら何で日記帳なんか?」
藍子「はい。最近、朝とか夜とか、涼しくなってきたじゃないですか」
加蓮「そだね。何もかけないで寝ちゃったら、次の日の朝に身体が冷えきっててびっくりしたよ」
藍子「……風邪、引かないでくださいね?」
加蓮「善処する。あ、お茶いる? はいあげる」スッ
藍子「ありがとうございますっ」ゴクゴク
加蓮「そっか、もう夏も終わりかー」
藍子「近所のスーパーも、すっかり秋モードです。今度、秋刀魚を買ってくるって、お母さんが言っていました」
加蓮「いいなー。私もお邪魔しちゃおうかな」
藍子「ごくごく……ぷはっ。でもまだ、熱中症もちょっと恐いです」
加蓮「……前みたいに、気づいたらやられてたってことはやめてよ?」
藍子「あの時はごめんなさい……。気をつけてみますね。はい、加蓮ちゃん。お茶、ありがとうございます」
加蓮「ん。秋かー。ふふっ、焼き芋が食べたいな」
藍子「みんなでパーティーしたいですねっ。どこか、公園を使って」
加蓮「学校は運動会があるなー。まあ、私には関係ないことだけど」
藍子「応援合戦とかだけでもできないんですか? 加蓮ちゃんの歌はよく聞こえるから、先頭に立ったら映えそうです」
加蓮「えー。チアガールとか私向きじゃないよ」
藍子「えーっ?」
加蓮「もう。食欲の秋、芸術の秋……」
藍子「読書と、あとスポーツっ」
加蓮「うん、私はどうせアイドルの秋だね」
藍子「あはっ、1年中やっているのにですか?」
加蓮「あとは……紅葉狩り、行きたいな」
藍子「……そうですね。今年はどこか、遠くまで見に行っちゃいましょうか」
加蓮「うん。藍子と一緒なら、身体も保つ気がする」
藍子「加蓮ちゃんと一緒なら、体力も大丈夫な気がしちゃいます!」
加蓮「で、そんな秋が日記帳とどう関係してんの?」
藍子「あ、はいっ。秋は秋で楽しみだけど……もう、夏も終わっちゃうなって。そう考えてたら、ちょっぴり寂しくなっちゃったんです」
藍子「でも、時間は過ぎ去ってしまいますから……。それなら、やり残したことがないかなって、それだけでも」
藍子「日記帳を見返したら、何か思いつくかな、なんて思っちゃって」
加蓮「へえ……」
藍子「でも私の日記帳、いつも『今日も幸せでした♪』としか書いていないから、あんまり参考にならなかったです。えへへ」
加蓮「藍子らしいね。夏にやり過ごしたこと、何か見つけた?」
藍子「うーん……頑張って思い出してみたんですけれど、海にも行ったし、プールにも行ったし、LIVEもしました。お墓参りは、加蓮ちゃんがしちゃいましたから」
加蓮「だいだいやった感じかな」
藍子「おばあちゃんの家にも、顔は出しました」
加蓮「私も。こんぺいとうなんて久々に食べちゃったよ、もう甘くて甘くて」
藍子「でも、たまにはいいですよね」
加蓮「だね」
藍子「キャンプは……ポジティブパッションのみんなで行った時、ちょっと大変だったから、もういいかなって……」
加蓮「む、ズルいっ。あとで未央に詰め寄っちゃろ」
藍子「わーっ。駄目です、もう!」
加蓮「冗談冗談。素麺も飽きるほど食べたよね。流し素麺、楽しかったなぁ」
藍子「加蓮ちゃん、大はしゃぎでしたよね♪」
加蓮「だ、だってやったことなかったし……。アイスも、もう見たくないくらいには食べたなぁ」
藍子「加蓮ちゃんも菜々さんも、いっぱいCMをもらいました」
加蓮「炭酸もかな。来年もよろしく頼むだって。気が早いよ」
藍子「……あ、1つありました!」
加蓮「お、なになに」
藍子「スイカ、まだ食べてませんっ」
加蓮「スイカ? ……あー! 忘れてた! 海に行った時にPさんが買い忘れたんだよね! うわ、思い出したらムカついてきた!」
藍子「あの時に、今度また一緒に食べようって約束しました!」
加蓮「したよね約束! よし、Pさんに連絡しちゃろ」
藍子「今日は確か、菜々さんの付き添いでしたっけ?」
加蓮「その筈だよ。……あ、もしもしPさん? 今どこ? 帰ってくる途中? ならさ、スイカ買ってきてよスイカ! え? いきなり何かって? 私たち忘れてないんだからね、今度スイカを買ってくるって約束!」
加蓮「うん。もちろん藍子の分も! お願いね!」ピッ
加蓮「…………あははっ」
藍子「えへへっ……♪」

――しばらく経ってから――
安部菜々「しゃくしゃくしゃくしゃくぷはーっ! 美味しいですねスイカ! ナナもすっかり忘れちゃってましたよぉ!」
P「がつがつがつがつ……くぅ、これぞ夏って奴だな! うめえ!」
加蓮「もー、全力で忘れてた癖に。はむっ……んっ……♪」
藍子「塩を、ちょこっとだけ……甘くておいしい……!」
P「あー、すまなかった。正直、電話があるまで完璧に忘れてたよ」
菜々「でもPさん、加蓮ちゃんからの電話ですぐ思い出して、大慌てでしたよ! 傍から見ててびっくりするくらい!」
藍子「じ、事故には気をつけてくださいね?」
加蓮「ねえねえPさん。藍子とさ、夏に何かやり残したことはないかって話をしてたんだ。Pさんは何かない?」
P「夏かぁ。なんか、過ぎてみりゃ仕事ばっかりしてたからなー……」
加蓮「仕事バカめっ」
P「終わってみりゃ、水着の仕事を持ってこれなかったのは加蓮だけだったなぁ」
菜々「加蓮ちゃんだけズルくありませんかねぇ!?」
加蓮「って言っても、私は別に……菜々さんと違って、何も隠してるものなんてないし」
菜々「ナナが何を隠していると!?」
加蓮「さー?」
P「その辺にしとけ……。秋になったらまた仕事三昧だからな。覚悟しとけよ?」
加蓮「どこまでもついていきまーす」
藍子「よろしくお願いします、Pさんっ」
菜々「スイカおかわり! つい種を飛ばしたくなっちゃいますね!」
P「やめてくれ、パソコンとかあるんだから」
菜々「Pさんもやったことありませんか? こう、種をぺっぺって!」
P「懐かしいなー。全身がベタベタになって帰ってくるなりすっぽんぽんになってだな」
加蓮「ねー藍子、なんか昭和時代の話をしてる人がいるよー」
藍子「種があるスイカって、あんまり見たことがないかも……」
P「なぬ!?」
菜々「誰が昭和ですかね!?」
加蓮「ふふっ。……秋になったら、今度は忘れないようにしないとね。秋にやりたいこと」
藍子「私、今からリストを作っちゃいますっ。えっと……良かったら手伝ってください、加蓮ちゃん。菜々さん。Pさんも!」
P「よし、じゃあ作ってみるか!」
菜々「秋と言えば焼き芋ですね!」
P「秋なら秋刀魚が食いたいな、俺は」
加蓮「残念、それはもう挙げたよ」
菜々「先越されちゃいましたか!」

藍子「……ふふっ♪」


掲載日:2015年8月21日

 

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