「巫女だからできる仕事ぶり」





――奈良県 某神社――

北条加蓮「…………ん、お待たせ……」(巫女装束を着用)

道明寺歌鈴「わぁ…………!」(いつもの軽装巫女服を着用)
加蓮「……………………似合う?」
歌鈴「すっごく似合います! あの時、参拝した姿を見た時から巫女さんが似合うかなってずっと思っていましたけど……加蓮ちゃん、ホントに綺麗……! じっ、実は20歳以上とかってことじゃないですよね!?」
加蓮「そんなのウサミン星人だけで十分だよ。……和服のことを知ってたから覚悟はしてたけど、なんで巫女装束ってこんなに面倒くさいのよ……」
歌鈴「だからこそ日本の良き伝統、ってことですっ。髪飾りは葵の花にしたんですね」
加蓮「これが一番似合うだろうって推されて……これ、挿頭? って言うんだっけ? ちょっと動くだけで外れそうだよ」
歌鈴「ゆっくりと動けば大丈夫ですよ」
加蓮「……まあ、そもそも動きづらいんだけどね、これ……。いつもLIVEで動きまわってるから、巫女服ってもっと動きやすいのかと思ってた」
歌鈴「あれは動きやすいよう、衣装さんに改造してもらってますから。本来の巫女服はこうなんですよ」
加蓮「へえ……」
歌鈴「ホントはLIVEでも本来の巫女服を着たいんです。そうしたら、もっとシャキッとできそうだから」
歌鈴「さて、加蓮ちゃん! わたっ、私の神社にようこそ! です」
加蓮「歌鈴のLIVEついでに寄ってみたけど、静かでいい場所だね……」
歌鈴「ここに来ると心が落ち着けるんです。ゆっくりやろう、大丈夫だから、って」
歌鈴「加蓮ちゃんにも、それを知って欲しくて……」
加蓮「……うん、たまにはいいかな」
歌鈴「そっ、それに! 加蓮ちゃんの態度はいつも失礼過ぎますから! 巫女体験を通じて、礼儀について知ってもらいますっ!」
加蓮「ふふっ、お手並み拝見かな」
歌鈴「巫女にしかできないお仕事、ご覧あれ!」

――和室――
加蓮「よいしょ……っと」
歌鈴「そうじゃなくて! 立ち上がる時にはこう、まずつま先を立ててから右足から……」
加蓮「え、えと、こう?」スッ
歌鈴「もっと背筋を伸ばしてください! いつものLIVEみたいに!」
加蓮「せ、背筋を伸ばして……右足から……立ち上がって……あたっ」ズテッ
歌鈴「あ。……大丈夫ですか?」
加蓮「足が痺れ……ち、ちょっと休憩させてっ」
歌鈴「分かりました。ゆっくり、まったりやっていきましょう」スッスッ
加蓮「……何その、座る前の動作も指定されてる訳?」
歌鈴「もちろんですよ? 1つ1つの動きに礼儀がありますから。また後で教えますねっ」
加蓮「あ、頭が痛くなりそう……」
歌鈴「加蓮ちゃんには巫女さん体験ってことで、基礎の基礎だけお教えしますね。これだけできっと、もっと立派な女性になれますよっ」
加蓮「立派な女性、か……。ねえ、神社ってこういう巫女さん体験とかよくやってんの?」
歌鈴「はいっ。今の時代でも、大和撫子に憧れる女の子はいっぱいいますから……わ、私も、もうちょっとしっかりできればいいんですけど」
加蓮「巫女の作法を完全マスターしてるじゃん。それだけじゃ足りないの?」
歌鈴「巫女だけならいいんですけどね。その、アイドルの方をもっと……」
加蓮「そっか」
歌鈴「これでも昔はしっかり躾けられたんですよ。巫女の作法」
加蓮「だろうね。すごくしっかりしてるもん」
歌鈴「歌鈴はやればできる子ですから! …………きっと」
加蓮「だね。ん……もう足も大丈夫。続けてよ」
歌鈴「はいっ。じゃあもう1度、立ち上がる時の動作を――」

――神社の境内――
加蓮「…………」テクテク
歌鈴「ストップです加蓮ちゃん! 神社の正面は神様が通るところだから、こう、少し腰をかがめて……」スタスタ
加蓮「……私、神様とか信じてな――」
歌鈴「巫女は神様に仕える人でじゅ!? ……ですっ。あっ、歩き出す前には左手を前にして、軽く会釈をしてから……」」
加蓮「…………」スッ
歌鈴「もう少し、歩く速度は遅くていいかもしれませんっ。下駄だから歩きにくいでしょうし」
加蓮「ん…………」テクテク
加蓮「神社の正面は、少し屈んで……」スッ
歌鈴「そうですそうです! 加蓮ちゃんってこう、1つ1つの動きがしっかりしてますよね。そういう作法とか、もしかして勉強してたり!?」
加蓮「してないよ。話を聞いてやってるだけ……あっ」コロン
歌鈴「挿頭が……つけてあげますね。加蓮ちゃん、ちょっと頭を下げてくださいっ」
加蓮「お願い」スッ
歌鈴「よいしょ、っと……。はい、これでばっちりです!」
加蓮「頭を振りすぎると不安定になるのかな。もっと真っ直ぐ見て……」
歌鈴「やってるだけでできるなんて、ちょっと羨ましいな……」ボソッ
加蓮「やろうと思えば誰だってできるって。歌鈴でもね」フフッ
歌鈴「きっ、聞いてましたかっ!?」

――神社の境内――
加蓮「…………」(掃除中)
歌鈴「〜〜〜♪」(掃除中)
歌鈴「あっ、こんなところにも落ち葉が……。ここの木、そろそろ寿命なのかなぁ……」
加蓮「…………ねえ」
歌鈴「は、はいっ」
加蓮「…………何が面白いのこれ?」
歌鈴「何が、って言われても……。お掃除していたら、こう、頭がすうっとして気持ちいいんです。普段は、いろいろと考えちゃうから……」
加蓮「掃除してるとなおさら考えちゃうんだけど」
歌鈴「無の心ですっ。ほうきを持って、目の前の葉っぱを集める。それだけを繰り返していたら、いつか頭の中のぐちゃぐちゃが、こう、すーっ、って溶けていくんですよ! 加蓮ちゃんにはオススメです!」
加蓮「頭の中の、ねえ……」サッサッ
加蓮「…………」
加蓮「…………飽きた」
歌鈴「まだ10分も経ってませんっ。レッスンの時は倒れるまでやるのにっ」
加蓮「それとこれとは別でしょ……。しかも暑いし……」フキフキ
歌鈴「暑くても寒くても、これだけやる、って決めてやるんです。ほらっ、朝に何時に起きる! っていうのと同じなんですっ!」
加蓮「……巫女さんってホントに凄いんだね。私には真似できないや」
歌鈴「今日だけっ、体験だけでも。加蓮ちゃんにも、巫女の素晴らしさを知って欲しいですし」
加蓮「はぁい……」サッサッ
歌鈴「〜〜♪ 〜〜〜♪」サッサッ
加蓮「…………ねえ、歌鈴」
歌鈴「はいっ」
加蓮「私って、そんなにドタバタやってるように見える?」
歌鈴「えっと……わ、私よりはマシだと……」アハハ
加蓮「そうじゃなくて」
歌鈴「そうですね……たまにはゆっくりすればいいのに、って思うことは……」
歌鈴「あ! でも、藍子ちゃんの膝の上はたまには譲ってくださいっ!」
加蓮「じゃあ私にLIVEで勝つことだね」
歌鈴「またそんな無理なことを〜〜〜!」
加蓮「仮にもアイドルでしょ。……そっか、藍子といない時の私って、いつも焦ってばっかりなのかな」
歌鈴「私にはそう見えますっ。そ、そのっ、加蓮ちゃんの事情は聞いてますけどっ」
加蓮「Pさんから?」
歌鈴「Pさんから!」
加蓮「またか……」
歌鈴「でもそのっ、時々でいいですからっ……お茶を飲んだり、お掃除をしても、罰は当たらないですよ! 巫女のお墨付きですっ」
加蓮「そっか」
歌鈴「〜〜〜♪」
加蓮「…………」
加蓮「……ね、歌鈴」
加蓮「歌鈴が東京でお世話になってる神社でも、巫女さん体験とかやってる?」
歌鈴「……! はいっ! いつでもお待ちしてますっ。私が、びしっ、ばしっ、って教えちゃうんですからね!」
加蓮「じゃあ歌鈴が仕事の時を見計らって」
歌鈴「またそういうことを!」
加蓮「せめて軽めの、歌鈴が着てるような巫女服にさせてよ。身長が同じなんだから私でも着られるでしょ?」
歌鈴「せっかくの体験ですから、本格的にやらなきゃ!」
加蓮「えぇー……」


――東京都 事務所の談話室――
加蓮「ってことで、歌鈴のLIVEは無事成功。ミスもしてなかったよ」
高森藍子「そうなんですか……よかった。ずっと心配してたんですよ」
歌鈴「地元でのLIVEは、ゆっくりできますから……こっちでも、同じようにできればいいのにっ」
藍子「頑張ってくださいね、歌鈴ちゃん♪」
歌鈴「はいっ! また落ち着いてできるよう教えてください、藍子ちゃん先生!」
藍子「も、もう。私の方が年下なのに……あ、私、お飲み物を持ってきますね」スタッ
加蓮「さて、お弁当お弁当……あ、そうだ。せっかく歌鈴がいるんだし」
歌鈴「あっ、はい、"アレ"ですね! 加蓮ちゃん、ちゃんと覚えてますか?」
加蓮「大丈夫……かな? 歌鈴みたいに噛まないといいんだけど」クスッ
歌鈴「む〜〜〜!」
加蓮「じゃあ、」スッ
歌鈴「せーのっ」パン

『味つ者 百の木草も 天照 日の大神の 恵み得てこそ』

加蓮・歌鈴「「いただきます」」
加蓮「…………」モグモグ
歌鈴「…………」モグモグ
藍子「ただいまっ。お茶でよかったですか?」
加蓮「…………」モグモグ
歌鈴「…………」モグモグ
藍子「……え? あ、あの、おふたりとも?」
加蓮「…………」モグモグ
歌鈴「…………」モグモグ
藍子「…………???」



掲載日:2015年8月8日

 

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