「パワースポット(涼)」





――某鍾乳洞――
安部菜々「もー座り込みたい気分ですよ……一昨日のと昨日の疲れが……」
北条加蓮「確かに、急にこんなに涼しくなると座り込みたくもなるね」
高森藍子「ひんやりしてて、気持ちいい……。静かすぎて、水音もはっきり聞こえちゃいますっ」
菜々「女3人で来るとこじゃないですよねぇここ。ああ、ホテルに戻ってぐっすり休みたい」
藍子「……あうぅ。ごめんなさい、私が行きたいなんて言っちゃうから」
加蓮「せっかく全国ツアーなんだからさ、空いた時間で観光地とか行ってみたいじゃん」
藍子「Pさんも、いろいろな物を見てみるといいって……。あの、でも、お疲れなら、」
菜々「なーんてっ☆ ウサミン星人のメルヘンパワーはこんなもんじゃないですよぉ! さあさあガンガン進んじゃいましょう!」スタスタ
藍子「あっ……。は、はいっ」
加蓮「無理しちゃって……。ふふっ」

加蓮「ん、なんか足元が濡れてるね……。気をつけ、」
菜々「おわっとぉ!」ズルッ
加蓮「言った側から」ガシ
藍子「ゆっくり進んでいきましょう。わっ、手すりも濡れちゃってる……」
菜々「岩の壁も……ツルツルっていうより、ぬめぬめ?」
藍子「ここ、階段になっていますね……。足元も暗いから、おふたりとも、気をつけてください」
加蓮「電灯はあるんだけど、さすが洞窟って感じだね」
菜々「1週間くらいここで過ごしたら悟りとか開けちゃうでしょうか」
加蓮「ウサミン星的な電波パワーももらえるかもね」
藍子「そうしたら、お仕事も落ち着いてできるかな……?」
加蓮「既に落ち着きまくってる子に言われても」
菜々「おおっと案内図ですね……って!」
藍子「わ、すごい……天井から大きな柱が、何本も垂れ落ちてきてて……つらら、なのかな?」
加蓮「フローストーンって言うんだって。通称『白銀柱』……へぇ……」
菜々「…………」パンパン
加蓮「菜々さん?」
菜々「ああいえ、こういうの見てるとなんだか手を合わせたくなりません?」
藍子「じゃあ、私も拝んじゃいますっ」ペコッ
加蓮「…………」
藍子「…………」スッ
菜々「加蓮ちゃんはいいんですか?」
加蓮「……今さら拝むことなんてね」
菜々「まあまあ、そう言わずっ。せっかくのパワースポットですし、何か得られるかもしれませんよ!」
加蓮「じゃあ、菜々さんの自爆芸が減りますように」
菜々「ちょっとぉ!」
藍子「…………ふうっ」
加蓮「何を祈ったの?」
藍子「えっと……加蓮ちゃんと菜々さんが、元気に頑張れますように、って……えへへ…………」
加蓮「…………」
菜々「照れるか自分に嫌気が差すかどっちかにしたらどうですか」
藍子「……??」

――某鍾乳洞 奥部――
藍子「あれっ? 水の音が……ぜんぜん、しなくなったような……」
加蓮「それに電灯もほとんどなくなったね。藍子、手を繋ごっか」
藍子「はいっ」ギュ
菜々「天井もところどころ低くなってますねぇ……あたっ」ゴチン
加蓮「菜々さんでぶつかるなら、私たちはもっと気をつけないと」
藍子「そうみたいですね。よいしょ」
菜々「こ、ここまで静かだと逆に不気味というか」
藍子「なんだかまるで、違う世界みたい……」
加蓮「探せばあるかもね、異世界への道。なんてっ」
藍子「もしかしたら、妖精さんもいるかもしれませんね」
菜々「ウサミン星人ならここにいますよ!」
加蓮「はいはい」
藍子「目をつぶったら、もう前も後ろも分からなくなっちゃいます」
菜々「ひゃっ。なっ、何かしましたか加蓮ちゃん!?」
加蓮「何もしてないけど……?」
藍子「あ……。ほら、ここっ。岩から水滴が垂れてるみたいです」クイクイ
加蓮「これがかかったんだね」
菜々「ナナ聞いたことがありますよ。鍾乳洞って、こういう一滴一滴が積み重なってできたって」
加蓮「……気が遠くなる話だよ……藍子ならできそう?」
藍子「む、無理ですっ。何年かかるのでしょうか」
菜々「ナナも、想像するだけで気分が……ち、ちゃちゃっと進んじゃいましょうか!」テクテク
藍子「あっ、菜々さん! そこ滑りそうだから気をつけ――」

<ツルッ ギャー! ポケットの小銭入れがー!

加蓮「自然破壊だ」
藍子「晩ご飯は奢ってあげましょう……菜々さーん? 大丈夫ですかー?」タッタッ
加蓮「あ、ちょっと、走って行ったら――」

<ツルッ わーっ

加蓮「…………アホ」テクテク

菜々「…………」ドヨーン
加蓮「まだ落ち込んでるの?」
菜々「…………あの小銭入れ、お気に入りだったのに……」グスン
藍子「まあまあ……また、どこかで探しましょう」
加蓮「そうそう。せっかくの全国ツアーなんだし」
菜々「うぅぅ……ナナこう見えても好みにはうるさいんですよ、2時間3時間くらい付き合ってくれますかね……?」
加蓮「せめて1時間」
菜々「そんなぁ」
藍子「あ……。ここで、終点みたいですね」
加蓮「だね。帰りは上の道か引き返すか……」
菜々「パワースポットだって聞いてたのに、パワーを得る前に小銭入れがぁ……」
加蓮「……帰りは上の道でタクシーでも拾う?」
藍子「そ、そうしちゃいましょう……」
菜々「…………」シクシク

――入口近くの食堂――
菜々「ごくっごくっごくっプハーッ! あ〜、疲れた体に麦茶が、くぅ〜〜〜!」
加蓮「元気になったみたいだね」
菜々「ええもう吹っ切れましたとも! ウサミン星人たるもの、いつまでも落ち込んでいる訳には!」
加蓮「ふふっ。ウサミンと関係あるんだ」
藍子「ずるずる……。あんまり食べたことなかったですけれど、とろろって美味しいんですね……♪」
菜々「疲れた時には粘っこい物ですよ! 納豆とか山芋もオススメですね!」
加蓮「山芋はともかく、納豆はちょっと……。臭いとか気にならないの?」
菜々「なんのなんの。最近は臭わない納豆がブームですからね!」
藍子「ずるずる……。おうどんも、とっても美味しいですっ」
加蓮「一口もらえる?」
藍子「はいっ」アーン
加蓮「んぐっ……。あ、いいねこれ。疲れた時ってほら、あんまりガッツリ食べたくないし」
菜々「ナナはむしろ、LIVE後なんかはしっかりと行きたいですねぇ」モグモグ
加蓮「それでハンバーグ定食なんて食べてるんだ」
菜々「タレも美味しいですし、お茶も美味しいですし。いやぁ、たまたま見つけた食堂ですけど入ってよかった!」
藍子「お店の中に、鍾乳洞の写真がいっぱい……。観光された方にとっては、有名な場所なのでしょうか」
加蓮「ん、どゆこと?」
藍子「ほらっ、鍾乳洞に行ったら、ここに寄っていけ!」グッ
藍子「……みたいにっ」エヘヘ
加蓮「かもね。そんなこと言われたら、普通のおにぎりも美味しくなっちゃったよ」
菜々「ご飯もいけますね!」パクパク
藍子「でも、一度座っちゃったら、しばらく立ちたくないかも……」アハハ
加蓮「おんぶしよっか?」
菜々「加蓮ちゃんの方が体力ヤバイんじゃないですかねぇ」
加蓮「……言われてみればそうかも」グッタリ
藍子「歩いて帰るくらいは大丈夫ですよ……。ふうっ。ごちそうさまでした」パン
藍子「そうだっ。Pさんにもお土産を買っていっちゃいましょうっ」
加蓮「えー、ただの食堂なのに?」
藍子「たまたま出会えた幸せを、Pさんにもおすそ分けしたくて……」スタッ

<何かいいお土産ありますか? ええと、すぐに食べられるようなのっ

加蓮「……まったく、健気なんだから」フフッ
菜々「か、加蓮ちゃん……ちょっといいですかね……」ヨロヨロ
加蓮「ん?」
菜々「この定食、思ったよりも量が多くて……ナナそろそろ限界…………」
加蓮「あーあ。だから疲れてるのに大丈夫って言ったのに」
菜々「なんならおにぎりは明日用にして……」
加蓮「えー? 私だけホテルの朝ごはんおにぎり? まあいいけど。ほら、箸貸して」スッ
菜々「感謝感激ですよ……!」



掲載日:2015年8月7日

 

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