「親子みたい? 夫婦みたい?」





――事務所――
北条加蓮「……言っとくけどね。これは私が譲ったんじゃなくてそう、藍子の勝利記念ってことだからね、私が譲ったんじゃないんだからね、いい?」
高森藍子「……? 私は別に、そんなこと言って――」
加蓮「いいからそういうことにしといて。私がそう言うんだからそうなの!」
藍子「はあ……」
道明寺歌鈴「はわぁ……」(←藍子の膝の上)
加蓮「…………」プニプニ
歌鈴「ひゃわぁ……」
加蓮「ムカつく」
藍子「もうっ。加蓮ちゃんも、後でやってあげますから……」
加蓮「そうじゃなくて膝の上に歌鈴がいるってのがなんかムカつく。どーせ今日だってレッスンやって転んで泣き言とか言ってたんでしょ」
歌鈴「はわぁ……そうですねぇ……」
加蓮「1回成功して終わりって世界じゃないんだからねこっちは。ちょっとPさんに抜擢されたからって調子に乗ってちゃ――」
歌鈴「はわぁ……そうですねぇ……」
加蓮「駄目だこの子、蕩けきってる」
藍子「昨日まで、大変でしたから……今日はゆっくりしましょう。みんなで」
加蓮「そこにコイツがいる必要はないよね」
藍子「加蓮ちゃん。その、ごめんなさい、私、喉が乾いちゃって……私は動けないので、今日はお願いしてもいいですか?」
加蓮「……ちぇ」スタスタ

加蓮「はい」カタン
藍子「ありがとうございますっ。お茶とカルピス、どっちにしようかなぁ……♪」
藍子「あれ?」
藍子「……あはっ♪」
加蓮「……言っとくけどね。私はただ歌鈴の情熱っていうかアイドルに賭ける何かっていうかそこに惹かれただけであって、Pさんを渡す気も藍子を譲る気も毛頭ないしそもそもムカつくのよ転んでばっかりってのが」
歌鈴「すぅ……」zzz
加蓮「……もぅ」
藍子「加蓮ちゃんはやっぱり厳しいんですね」
加蓮「ほっとくとどこかの誰かさんが甘やかすからね」
藍子「私は、ゆるくやる方が好きなので……」
加蓮「厳しくする役割もいるでしょ?」
藍子「歌鈴ちゃんなら知っているのかな、って思います。世の中の、その、厳しいところとか……」
加蓮「じゃ私も世の中の一部だ。歌鈴の世界の一部だ。"こっち側"に来た以上はね」
藍子「じゃあ、加蓮ちゃんはこれからも、歌鈴ちゃんを見ていてくれるんですか?」
加蓮「目を離すとムカつく弱音を吐きそうだからね。どついてやらないと」
藍子「ふふっ……♪」ゴクゴク
加蓮「……Pさんも藍子も甘すぎるのよ。だから歌鈴から依存されるの」
藍子「そうですね……私の方が、年下なのに」
加蓮「17歳にもなって年下にベタベタするなんて恥ずかしい」
藍子「ひとりだち、ってことですか?」
加蓮「ましてアイドルなんだからね。立派なアイドル。いつまでもひっつくだけじゃおこぼれをもらえるだけで終わりでしょ」
藍子「加蓮ちゃんは、本当に歌鈴ちゃんのことを考えてくれているんですね」
加蓮「人の気持ちをぜんぶ好意に変換するの止めない? そんなんだから天然って呼ばれるのよ」
藍子「じゃあ、私が騙されそうになったら、加蓮ちゃんが助けてください♪」
加蓮「うざい……」
藍子「ふふっ。私もそのうち、加蓮ちゃんから離れないといけないのかな?」
加蓮「……」
藍子「えへっ」
加蓮「…………前言撤回。アンタどう見ても天然じゃないわ」
藍子「それならきっと、加蓮ちゃんにつられちゃったんですね」
加蓮「じゃーやめときなさいよ、こんなのと付き合うの」
藍子「そうしたら、加蓮ちゃんは笑顔になってくれますか?」
加蓮「………………ごめん、今のは自分でだいぶ後悔した。はぁ、こんなんだから歌鈴の素直さから目が離せなくなるんだろうなぁ……」
藍子「素直さ……?」
加蓮「だってこの子、Pさんの役に立つんだ〜って、それしか見えてないでしょ。真っ直ぐ前しかさ」
加蓮「右を見れば、左を見れば、もっと世の中って広くていっぱいあるのに」
加蓮「……広い世界に出られたからって見過ぎたら、こんなんができあがるけどね」
藍子「じゃあ、私たちが左右を見る目にならないといけないですねっ」
加蓮「藍子は左と右、どっちがいい? 私は後ろがいいな」
藍子「またそういうことを言うんですから……」
加蓮「いいんじゃない? 藍子も歌鈴と一緒に、真っ直ぐ前を向け――そうなったら歌鈴の隣に藍子がいることになるのか。やっぱ藍子も私と一緒に後ろを向こう。後ろ向きの人生でいこう」
藍子「嫌ですよそんなの」
加蓮「じゃあ、私が向いている方が前……それだと歌鈴が後ろ向きってことになるのか。そうしたらどつきたくなるからやだ」
藍子「みんなで仲良く横に並んで、じゃ嫌なんですか?」
加蓮「えー、藍子だってあのLIVEバトルを通じて、戦うってこんなに楽しいんだ! って目覚めたと思うんだけど」
藍子「私はやっぱり、競わない方が好きですから」
加蓮「だよねー」

安部菜々「おはうっさみーん♪ おっと、歌鈴ちゃんが寝ちゃってますね」

加蓮「うっさみーん」
藍子「うっさみーん♪」
菜々「いやあ……盗み聞きじゃないんですよ?」
加蓮「そういえばずっと入り口の方にいたね。入りにくかった? 私が出ようか?」
藍子「そういう風に自分を厄介者にしないでください……もうっ」
菜々「いえいえ。まあ横槍というか野暮ったいというかですね。加蓮ちゃんと藍子ちゃんを見ていると、なんだか夫婦の会話みたいで」
藍子「ふうふ?」
菜々「ほら、歌鈴ちゃんの育て方を〜的な?」
加蓮「ふうん……私はよく分かんないな。結婚の話ならちょっとは知ってるけど」
菜々「一応聞いてみますけどそれはまたなぜ」
加蓮「花嫁の撮影をした時にちょっと調べた。こういう結婚式をやりたいって10パターンくらい言えるよ」
菜々「それはアイドルの看板を降ろした時に聞くことにしますね」
藍子「夫婦、ですか……。それなら、私が奥さんで、加蓮ちゃんが旦那さんですね♪」
加蓮「あ、それ想像できる! 私が働いて藍子が家事して。うわ、すごい理想的じゃん」
菜々「……冗談ですよ?」
加蓮「……うん、冗談だよ? なんで真顔で引くの?」
菜々「や、あながち冗談に聞こえないんですよ2人の場合」
加蓮「ウサミン星に移住したら同性の結婚とかできる?」
菜々「できません!」
加蓮「や、私が探すべきは多重結婚できるところかな」
菜々「それもできませんからね! あと探してどうするんですかね、いえ答えは結構ですけど!」
加蓮「ふふっ」
藍子「……あ。加蓮ちゃんだと、ぜんぜん家事をしてくれそうにないです」ジトッ
加蓮「……勉強するし」
菜々「あー、あれですね、結婚の直後から3年目くらいですれ違いが起きて浮気トラブルが発生するような、ナナもよくその手の話を友達から聞い」
加蓮「おい17歳」
菜々「テレビでですけどねー! テレビで聞いたんですけどねー!」
加蓮「……ま、自覚はあるよ。結婚はともかく嫁としては最悪の部類だって」
藍子「もうっ、またそういうことを……だったら、今から家事の練習をしたらいいじゃないですか。私、手伝いますっ」
加蓮「それこそアイドルの看板を降ろした時の話だね。むこう10年は辞める気ないけど」
菜々「家事が一切できない26歳……そ、想像しただけで身震いが」
加蓮「自分がそうなりそうだから?」
菜々「こう見えても料理はお手の物なんですよ! 長年メイドカフェで培われた技術が――ほ、ほらっちっちゃい頃からお世話になっててその」
加蓮「ウサミン星の出身だって設定はどこへ行ったのやら」
藍子「あ、あはは……」
加蓮「まあ、結婚とか花嫁とか、そういうのは当分いいや……。歌鈴の話も、子供とかじゃなくて先輩アイドルとしてってことで。まだまだアイドルを続けていきたいからね」
菜々「そうですね。ナナもとことん付き合っちゃいますよ!」

歌鈴「……zzz……かれんちゃんには、まけませんからぁ……」


掲載日:2015年7月26日

 

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