「夏の音と石段の上」





――神社――
道明寺歌鈴「〜〜〜♪ 〜〜〜〜♪」ソウジチュウ
歌鈴「〜〜♪ ……ん?」
北条加蓮「あ、歌鈴だ。やっほー、歌鈴」
歌鈴「加蓮ちゃん!?」
加蓮「…………」
歌鈴「……あれ?」
加蓮「あ、ごめん、今日はそういうのナシで」
歌鈴「え、あ、はぁ」
加蓮「……」
歌鈴「……」
加蓮「……いや、そこどいてよ。お参りできないじゃん」
歌鈴「ええっ!? あ、はいっ、どきますっ」
加蓮「ん、ありがと」スタスタ
歌鈴「(え? え? 何が起こっているの? あの加蓮ちゃんが参拝!?)」
加蓮「えいっ」サイセンナゲル
歌鈴「(落ち着いて、落ち着くのよ歌鈴 そう、これはきっと暑くて幻覚を見ているの!)」
加蓮「――」スッスッ
歌鈴「(わぁ、お参りしている加蓮ちゃん、キレイ……! じゃなくて! そう、これは幻覚、幻覚なのよ)」
加蓮「……」パンパン
歌鈴「(水を被れば解決するのよ! そうと決まれば――)」
加蓮「――――ますように……――、」
歌鈴「え? ……加蓮ちゃん、今、なんて」
加蓮「わっ! おおっとっと」スッ
加蓮「ちょ……ちょっと! 人の願い事は聞かないのがマナーでしょ!?」
歌鈴「加蓮ちゃん、今『もっと活躍できますように』って言いましたよね! もういっぱいかちゅっ! ……活躍してるじゃないですか!」
加蓮「へ? ……あー、うん、今いるところに満足してたら終わりじゃん。歌鈴こそ、ちょっと満足しちゃってない?」
歌鈴「そんなことないでふっ! ……ごほん、ないです! Pさんからいつ任されてもいいようにって、今日もこうして」
加蓮「……こうして掃除を?」
歌鈴「お、お休みすることも、大切なお仕事です。加蓮ちゃんみたいに倒れたくはありませんからねっ」
加蓮「あははっ、切り返しうまいなぁ。どっかのウサミン星人にも見習わせたいよ」
歌鈴「そそ、それよりっ! お参りすんだなら帰ってください! しっしっ」
加蓮「えー。ちょっと休ませてよ、もう暑くて暑くて。歌鈴も休めば? 汗、すごいことになってるよ?」
歌鈴「私は好きで掃除してますからっ」
加蓮「いーからいーから。よいしょ(石段に座る)ほら、ここ座りなよ」
歌鈴「……ちょっとだけですからね」

加蓮「はー……風が涼しいなぁ」
歌鈴「ふわぁー……いい天気ですねぇ」
加蓮「セミが鳴いてるねー」
歌鈴「雲がきれいですねー」
加蓮「あ、そうだ。そこで買ってきた缶のお茶。飲む?」
歌鈴「ありがとうございます」
加蓮「私もっと。ごくごく……」
歌鈴「ごくごく……」
加蓮「はー」
歌鈴「はふぅー」
加蓮「……」
歌鈴「……加蓮ちゃん」
加蓮「何」
歌鈴「藍子ちゃんって、ホント、素敵な人ですよねぇ」
加蓮「藍子? うん、そうだね。いい子だね」
歌鈴「いつもおしゃれで、森の妖精さんみたいで、落ち着いていて。私も、あんなアイドルになれたらなぁ……」
加蓮「……んん? あれ、藍子の話だよね?」
歌鈴「ふぇ? 他に誰がいるんですか?」
加蓮「あー、そういえば前に藍子が言ってたっけか……。ふふん。ああ見えて藍子はホントは誰よりもパッションなんだよね」
歌鈴「?」
加蓮「いっつも私が振り回されてる方だし、やー、もうついていくだけで精一杯だよ」
歌鈴「……」ハッ
加蓮「鼻で笑われた!?」
歌鈴「加蓮ちゃんは藍子ちゃんのことをなんにも知らないんですね」
加蓮「んなっ、それアンタには言われたくないんだけど!?」
歌鈴「あんな素敵な人の側にいつもいるなんて、加蓮ちゃんが羨ましいなぁ」
加蓮「…………へ」
歌鈴「……あ! 今のナシ、ナシです! 加蓮ちゃんなんて、こう、ギッタギタにしちゃうんですからね!」
加蓮「へー、ふーん、ほー。やれるもんならやってみなさいよ。お? ほらほら」
歌鈴「そして藍子ちゃんとPさんは必ず取り戻すんです! この歌鈴が!」
加蓮「はっはっは、やってみなさいよ槍騎士サマ」
歌鈴「……」
加蓮「……」
歌鈴「……ま、また今度で」
加蓮「うん、私も今はのんびりしたいかなー」
歌鈴「言っときますけどいっつも加蓮ちゃんがズルいって思ってるのはホントべずっ! ……ホントですからね!」
加蓮「相変わらずしまらないなー……羨ましいなら、もっともっと突き進んで来なさいよ」
歌鈴「言われずともっ!」
加蓮「……はーっ」
歌鈴「……ふうっ」
加蓮「夏だなぁ……」
歌鈴「スイカがおいしかったなぁ……」
加蓮「アイスもいいよね……」
歌鈴「そうめんもおいしいですねぇ……」
加蓮「……アンタってさ、ホント藍子のことが好きだよね。Pさんのことも。まあ、私が言うことじゃないけどさ」
歌鈴「だって、藍子ちゃんはすっごく素敵な人ですから。Pさんは、私をアイドルにしてくれた人です」
加蓮「恩返しってこと?」
歌鈴「はいっ。こんな私を選んでくれた人ですから……もっともっと、Pさんの為にお役に立ちます!」
加蓮「うん、それは本人に言ってあげなさい……はー、暑っつう」
歌鈴「私はへっちゃらです」
加蓮「掃除、好きなの?」
歌鈴「はいっ。のんびりとするの、好きですよ。藍子ちゃんみたいな、ゆっくりやっていける人になりたいって」
加蓮「ふーん。私はてっきり、Pさんが登録ミスでキュートグループにしたのかと」
歌鈴「?? どういう意味ですか?」
加蓮「うん、アンタも藍子もイヤミが通じない相手ってことは分かった」
歌鈴「??? ……ん〜〜〜! ぷはっ。暑い日はお茶がおいしいですねー」ゴクゴク
加蓮「うん、おいしいねー」ゴクゴク
歌鈴「はー……」
加蓮「ぼけー」
歌鈴「……」
加蓮「……いつもそういう調子でやったら、ドジも減るんじゃない?」
歌鈴「いつもは周りのペースに合わせちゃうから……。ゆっくりできたらいいんですけど、なかなか難しくて」
加蓮「いや、アンタの方からノリノリで合わせてるでしょ。私とケンカする時なんて特に」
歌鈴「あれは加蓮ちゃんがおかしなことを言うからですよ」
加蓮「アンタだって十分に変なこと言ってるでしょ。あのね、あれ相手が私だからいいものを、他の人に言ったら一発でドカーンだからね? 地雷がドカーン」
歌鈴「加蓮ちゃんだから言ってるんですぅ!」
加蓮「あーそうですかい!」
歌鈴「おっと、ゴホンっ。……周りが盛り上がってると、つい楽しい気分になっちゃって。地元でのLIVEなら、マイペースでうまくいくんですけどね」
加蓮「地元? あれ、ここ歌鈴の住んでるところじゃないの?」
歌鈴「親戚の方に下宿させてもらってるんです。オフの日は、私も神社の手伝いを」
加蓮「ふーん、だから巫女さん姿なんだ」
歌鈴「この格好なら、いつもの自分を出せる気がして」
加蓮「いつもの自分、ねー……」
歌鈴「?」
加蓮「別に。アンタに見せてる私は"どれ"なんだろうな、って」

加蓮「っと、もうこんな時間だ。ごめん、私は戻るね」
歌鈴「また来てくださ――じゃないっ! もう来ないでくださいよ!」
加蓮「えー。しょうがないなぁ、次は歌鈴がいない時を見計らって」
歌鈴「もう来んなー! どろぼうねこー!」
加蓮「私は猫より狐の方が好きかな? ……ふふっ。じゃあね、歌鈴」
歌鈴「べーっ!」

加蓮「あっついなー……ん、ごめんねPさん、待たせて。あとは帰るだけだからいいって? ふふっ、相変わらず優しいね」
加蓮「ん? ちょっとね。歌鈴と話してた。いいよいいよ、ってかやめて。あはは、いつもみたいにじゃれあってきたんだから」
加蓮「意味が分からない? じゃあそのままいいから、ほらほらっ、安全運転で事務所まで戻ってね、Pプロデューサーさんっ♪」



歌鈴が、もっと活躍できますように。…………――おめでとう



掲載日:2015年7月19日
修正:8月6日(最後の1行を修正)

 

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