「努力のアイドルと努力のトレーナー?」





――レッスンスタジオ――
高森藍子「〜〜〜っ、はっ」
工藤忍「よっ、っと、たっ!」
北条加蓮「忍、ワンテンポ早い! 藍子はもうちょっと、こう……手足を伸ばして!」
藍子「はいっ!」
忍「ととっ、えと、こうっ!」
加蓮「忍、もうちょい音楽を聴く! 藍子は顔を上げて、忍の動きにちょっとだけ合わせてみて!」
藍子「は、はいっ。ここから、えいっ」
忍「ワン、ツー、スリーの、ターンっ!」
加蓮「リカバリー! 次の音を意識する感じで! 忍!」
忍「う、うんっ」
藍子「ふうっ……たん、たん、たたんっ」
加蓮「藍子、えと、止まる時はちゃんと止まる!」
藍子「はは、はいっ」

……。

…………。

忍「ふーっ。やっぱり藍子ちゃんはすごいな♪」
藍子「そんな。私なんて、まだまだ……ダンスは、周りについていくだけでやっとで」
忍「アタシなんて周りも見えてないもん。もっと動きを見なきゃなー」
加蓮「2人とも謙遜しすぎ。あれこれ言ったけど、十分に動けてるじゃん」
忍「まだまだこんなんじゃないよ。ダンスが得意なアイドルはいっぱいいるから!」
藍子「私も、加蓮ちゃんの足を引っ張りたくありません!」
加蓮「そ、そう。前向きならいっかな……」
忍「よーし、もう1回っ!」
藍子「今度はボーカルレッスンもやりませんかっ?」
加蓮「そうだね、ここまでダンスレッスン続けてるから――」

パチパチパチ……

加蓮「ん」
ベテラントレーナー「さすがだな。高森も工藤も、こちらが思っていたよりずっと動けているようだ」
忍「そ、そう?」
ベテ「それと北条。アイドルがプロデューサーの真似事をやると聞いた時には、何を考えているんだと思っていたのだが」
加蓮「真似事じゃないもん」
ベテ「悪かった。Pの言うことも一理どころか十理くらいありそうだな。指示はまだぎこちないが、随分と的確だった」
加蓮「……ぎこちないのは自覚してまーす」
ベテ「もっと前向きに、レッスンスケジュールに組み込んでいこうか」
加蓮「お願いね」
ベテ「ふむ。ではレッスンの企画を作り直すとしよう。今日は北条に任せてもよさそうだな」
加蓮「元々、短い時間のレッスンでしょ? それくらいなら大丈夫だよ」
ベテ「分かった。あとで報告だけはして来るように。では」スタスタ
藍子「加蓮ちゃんの指示、すごく分かりやすくて本当にトレーナーさんみたいでした!」
忍「すごくアタシ達のこと見えてるって感じだよね。加蓮だからかな……」
加蓮「そ、そう?」
忍「ダンスしてても耳に入ってくるんだよね、加蓮の声」
藍子「加蓮ちゃんは歌がすごいですから、それと関係しているのかもしれません」
忍「あ、それあるかも!」
加蓮「はいはいっ、そこまで。今日は私の話じゃないでしょ」
忍「そうだった。その、藍子ちゃん、ありがとう。合同レッスンの話、受けてくれて」
藍子「いえ。私も、すごく刺激になりますから」
忍「でも……やっぱりアタシ、まだまだだな」
藍子「え?」
忍「ここのところアタシ、ダンスレッスンばっかりやっててさ。ちょっとだけ自信があったんだよね。前のダンスフェスティバルでも、小さい大会だったけど優勝できちゃったし」
加蓮「見てたよ。いい笑顔だったね」
忍「そ、そう?」
加蓮「実はちょっと浮かれてたり?」
忍「……あ、あはは……でも今日レッスンしてみて思った。やっぱりアタシなんてまだまだだって」
藍子「そんな……。忍ちゃんのダンス、すごく魅力的ですよ。迫力があるっていうか、一緒にやってても引きこまれそうになって」
忍「……すごい偉そうに聞こえるかもしれないけど、ダンスだったら藍子ちゃんにも張り合えるって思ってて」
加蓮「あー……気持ちは分かるかな」
藍子「あうぅ」
忍「でも一緒にやって思ったよ。やっぱりCDデビューしてる人は違うね。アタシ、もっともっと頑張るよ!」
藍子「頑張ってくださいね、忍ちゃん♪」
加蓮「うん。私も応援してる」
忍「うんっ! よーし、努力のアイドル工藤忍、がんばるぞーっ!」オーッ!
加蓮「……そこで凹んだりしないのが、忍のいいところだね」
忍「え?」
加蓮「つらくない? 努力が報われない時とか、失敗した時とか」
忍「それは……ちょっと落ち込んだりするけど、やっぱり次は頑張ろうって思うから辛くはないよ。それでもアタシはアイドルをやりたいから」
藍子「わぁ……!」
加蓮「強いなぁ……。こっちこそ偉そうになるかもしれないけど……忍がここまで来るの、待ってるよ」
忍「……! うんっ、絶対にたどり着いてみせるからね! Pさんとも約束したんだ、もっともっと上を目指そうって!」
藍子「その意気ですっ!」
加蓮「じゃあ、それまでは先輩として教えてあげようか」
忍「よろしくね、加蓮っ♪」
加蓮「そうと決まれば、もっともっとダメだししちゃおうかな」
藍子「あ、あれで遠慮していたんですか……?」
加蓮「加蓮ちゃんを本気にさせたらスゴイよ? 藍子なんて10秒で泣かせられるね」
藍子「ええっ!」
忍「そ、それはコワイね……あ、でも逆に聞いてみたい……?」
藍子「やめておいた方がいいかもしれません。だってそれをやっちゃったら、後で加蓮ちゃんがすっごく落ち込みそうだから」
加蓮「こら藍子。余計なこと言わない」グイ
藍子「ひゃいっ、ごめんなふぁいかれんひゃん」アウゥ
加蓮「ったく」
忍「加蓮って言い方とかけっこうキツイよね」
加蓮「そういう人生だからなぁ」
忍「アタシはいつも助かってるけどね♪」
加蓮「ならいいんだけど、私もうまく説明できない時とかあるからな……。今回とか、あと忍がどこを目指してるのかも分からなかったし」
藍子「CDデビュー……」
加蓮「で、いいの?」
忍「高すぎる目標だってことは分かってるけど、目標は高い方が燃えるから!」
加蓮「そっか……自分が通った道だからね、何を要求されてるかなんとなく分かるんだ。忍に来てほしいっていうのは本音だから」
忍「加蓮……」
加蓮「……あ、でもごめん。もしドラマパートとかカバーソングとか一緒にやれって言われても無理かも」
藍子「ええっ!? せっかくいい話みたいだったのに、もう、加蓮ちゃん!」
加蓮「あはは。だってさー……ねえ?」チラッ
忍「あー……そうかもね」アハハ
藍子「えっ? えっ? どうしてそんな、当たり前みたいに……?」
忍「アタシと加蓮じゃ、どうやっても合わないよ」
加蓮「藍子みたいに出来た人間なら良かったけどね。駄目な相手とはとことん駄目なんだ、私」
藍子「そんな……それに、加蓮ちゃんだって、出来た人っていうか、ううん、とにかくすごい人ですから……」
加蓮「…………もう。困った子」
忍「それよりレッスン続けようよ。あんまり時間もないんだから。アタシ、もっともっと教えてもらうことあるんだ!」
加蓮「そだね。せっかく時間も確保したんだし。ね、藍子。今は目の前のことをやろ?」
藍子「……はいっ。あの、加蓮ちゃん」
加蓮「ん」
藍子「もし私が加蓮ちゃんにとって、合わない相手になっちゃっても……ぐすっ、できれば、隣にいて欲しいです……!」
加蓮「は? ……え、あ、そういう話?」
忍「あー、加蓮が泣かせたー」
加蓮「う、うっさいっ」
藍子「……!」ウルウル
加蓮「ったく……いなくなる訳ないでしょ。馬鹿じゃないの?」
忍「加蓮と藍子ちゃんって、なんだか当たり前のように一緒にいるよね」
加蓮「私と藍子だし。ありえない想像なんてしてないで、ほら、やるよ藍子」
藍子「は、はいっ」
加蓮「…………忍を見ていると、もっとまっすぐ生きるべきなのかなって思うよ」
忍「アタシは逆に、加蓮を見ているとこういう人もいるんだなって思っちゃうよ?」
加蓮「やっぱり合わないね」
忍「みたい」
2人「「ふふっ♪」」


掲載日:2015年7月6日

 

第51話「あなたの知る、知らない私」へ 第53話(七夕)へ

二次創作ページトップへ戻る

サイトトップに戻る

inserted by FC2 system