「ふたつめが覗く」







――事務所の談話室――
北条加蓮「柚、いる?」
喜多見柚「あ、加蓮サンだ! やっほ〜!」
工藤忍「……」モクモク
加蓮「ん、やっほー。……後ろのぱっつんは何してんの? 読書?」
柚「忍チャンは遠い世界に行っちゃったんだ……もう会えないんだ……」
加蓮「そっか……いい子だったのにね……」
柚「うん……」
加蓮「……」
柚「……」
忍「……いや、アタシ死んだ訳じゃないからね?」
加蓮「あ、帰ってきた」
柚「おかえり忍チャン!」
忍「加蓮、柚ちゃんに用? だったらどこかに連れ出してよ。さっきからうるさいんだ」
柚「なにおう!」
加蓮「用っていう程じゃないんだけどさ」
柚「えーっ。せっかく来たんだから遊んでいこうよ加蓮サン! トランプでもチェスでもいいよっ?」
加蓮「チェスできるんだ……。あ、そっか、前にLIVEの衣装モチーフにしてたんだっけ」
忍「……」パタン
柚「あれ、忍チャン、どっか行くの?」
忍「んー……先にレッスンスタジオで待ってるね」
柚「え〜! 忍チャンも一緒に遊ぼうよ! ほらほら加蓮サンもいるよ!」
加蓮「私はオマケか」
忍「おまけ……」ジー
加蓮「……え? 何?」
柚「加蓮サンのフィギュアが今ならなんと1万8000円! これはもう買い占めるしかないねっ」
加蓮「それオマケじゃなくない?」
忍「……いいや。じゃあね加蓮。またレッスンしてくれると嬉しいな♪」バタン
加蓮「はいはい」
柚「ぶすーっ。すたこら出て行くことないジャン」
加蓮「レッスンなの?」
柚「うんー。あと20分くらいで。トレーナーサンが遅れるって言ってた!」
加蓮「渋滞でもあったのかな……」
柚「そしたら忍チャンが本を読み始めちゃって、もー柚の話なんてぜんぜん聞いてくれないんだよ! ひどいっ」
加蓮「あはは。柚といたら退屈しそうにないね」
柚「そう? そう? あっ、柚に用事だよね! なになにっ?」
加蓮「これ。ド◯キで見つけたから買ってきたんだ。柚にあげる」
柚「ありが……あの、加蓮サン? コレナニ?」
加蓮「強いられているんだ集中線シャツ。ぷぷっ、気合入るよ、ぷくくっ」
柚「ダサいよ! ダサダサだよ! っていうか加蓮サン笑ってる!」
加蓮「これを着てバラエティ番組に出たら、それだけで視聴率が3%は増えるね」
柚「代わりに柚の心が減っちゃいそう!」
加蓮「え、減る心なんてあったの?」
柚「ひどっ。これでも傷つくんだよ、柚もう超ナイーブだよ。叩いたらふにゃってなっちゃうよ」
加蓮「(笑)」
柚「もーっ。加蓮サンのイジワル!」
加蓮「このシャツだって、私なりのお返しなんだけどな」
柚「これ、お返しって言うんじゃなくて仕返しって言うんだよね! 柚何かしたっけ!?」
加蓮「え?」
柚「……両手で数えきれない! どうしよう加蓮サン!」
加蓮「これを着て、しっかりと反省しなさい」
柚「何を!?」
加蓮「んー、何にしよっかなー」
柚「考えてないの!? さ、さすがにアタシでもこれ着るのは恥ずかしいよ……」
加蓮「そう?」
柚「なんか、ババーン! って変なアピールしてるみたいな感じでヤダ! 柚もっと可愛いのがいいよ! こうっ、フリフリのとか!」
加蓮「そっ。じゃあ次からそうするね」
柚「うぅ……アタシが何をしたー!」
加蓮「ダサいシャツを持ってきた」
柚「…………いつだっけ?」
加蓮「さあ?」
柚「加蓮サン意外とねちっこかった! こっ、これはきっと、10年後くらいに出会ったら『そうだ柚、あの時のお昼代、返してもらってないよね?』『え、いつのー?』『出会った日の』みたいになるタイプだ!」
加蓮「モノマネ上手いね……」
柚「似てた似てた? 柚、加蓮サンになれる!?」
加蓮「なれない」
柚「へ」
加蓮「……柚が私になったら、3日で私のキャラが全崩壊だね。だからやめて」
柚「面白そう!」
加蓮「面白くないよ!」
柚「アタシが加蓮サンをやればいいんだよね! えっと……まずはどうしたらいいんだろ。藍子サンにちょっかい出せばいいのかな? それとも加蓮サンのプロデューサーサンをゆーわくすればいいのかな? きゃっ、柚ったら悪女♪」
加蓮「んー? なんでそれが最初のイメージなのかなー?」
柚「いひゃいいひゃい」
加蓮「じゃあ私は、3日間、柚を演じるよ。一人称は『わたくし』で挨拶は『ごきげんよう』、口癖は『わたくしにお任せくださいませ』で。そんで撮影のオファーいっぱいもぎとって来よう。高級レストランのレビューとか高級旅館のインタビューとか」
柚「やめてぇ! 戻った後の柚に大ダメージが!」
加蓮「お互い様だよ」
柚「お嬢様の柚、見てみたい?」
加蓮「うーん。見てみたくないって言ったら嘘になる……? あ、でも柚がお嬢様ごっことか、何か言う度に吹き出しそうだからやめとく、ぷぷっ」
柚「なにおー!」
加蓮「ダメだ、想像しただけで、うくくっ」
柚「ぐぬぬぬぬ。ゆ、柚だってお嬢様な加蓮サンを想像してやるっ。……思ってたより似合いそう!」
加蓮「演技ならお任せだよ。だいたいのことはできる自信あるからね」
柚「じゃあナイト様とか!」
加蓮「ナイト?」
柚「それで、どっちのナイトがかっこいいか、柚と勝負だ!」
加蓮「そっか、LIVEロワイヤルの時にやったんだっけ。あの柚はカッコ良かったよ」
柚「カッコ良かった!?」
加蓮「うん」
柚「見ててときめいた!?」
加蓮「うんうん、ときめいた。側にPさんがいなかったらヤバかったね」
柚「へへっ♪ しゅたっ、柚ナイト参上! ささっお姫様、手を……加蓮サンってお姫様かな?」
加蓮「んー? 男らしいとでもいいたいのかなー?」グニグニ
柚「やめへやめへ、ごめんなひゃい」
加蓮「そのぱっつんもすごい似合ってたね」
柚「ホントホント? 実はあんまりいじくってないんだ。ナチュラルスタイル!」
加蓮「まさに騎士になるために生まれてきたって感じだね」
柚「えへへー、やだなー照れるなー。でも柚はお姫様もいいかも! ナイトはPサンにバトンタッチで!」
加蓮「柚のプロデューサーは女の人でしょ」
柚「だいじょうぶだいじょうぶ!」
加蓮「ナイトとプリンセスか〜……」
柚「ややっ。なになに加蓮サン、わー、あんまりじっくり見ないで。きゃー!」キャー
加蓮「あはは、美男美女ってなりそうだなって思って」
柚「い、いちおー聞いてみるけど、男の人はどっちかな?」
加蓮「柚」
柚「ひどいっ」

柚「じゃあアタシはレッスンいかないと。シャツありがと加蓮サン! でも次はもっと可愛いのがいいな!」
加蓮「はいはい。ま、やってらっしゃい」
柚「あいあいさー!」バタン
加蓮「あいあいさー。もう、なにそれ。ふふっ」
加蓮「……」
加蓮「……」

加蓮「…………どうしたの忍。邪魔なら出て行くよ?」

忍「あ、やっぱりバレてた?」バタン
加蓮「気付かない柚の方がどうかしてるね。あれでも女の子なのにさ」
忍「……」
加蓮「……」
忍「……」
加蓮「……」
忍「……柚ちゃんの言ってたこと、ホントだったんだ」
加蓮「何が?」
忍「ちょっと意外だったな。加蓮ってそういうタイプだったんだね」
加蓮「がっかりした?」
忍「……わかんない。ただ……明後日のレッスンって、加蓮がトレーナーだよね」
加蓮「そうだね。どうする? 仮病でも使う? トレーナーさんには病欠って伝えとくけど」
忍「ううん……あの加蓮は、嘘じゃないんだよね」
加蓮「私はいつだって嘘を言わないよ。冗談は言うけど」
忍「じゃあ、えと、よろしくお願いします」ペコッ
加蓮「え、あ、こちらこそ」ペコッ
忍「……その、アタシ、レッスンいくね」
加蓮「行ってらっしゃい」

(バタン……)

加蓮「……」
加蓮「そういうタイプ、か……」


掲載日:2015年7月4日

 

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