「北条加蓮は我が道を往く」
――喫茶店――
北条加蓮「それでね、菜々さんに怒られちゃった。アイドルとしてのことなら応援するけど、そうじゃないなら賛成できないって」 高森藍子「そうだったんですか……」ゴクゴク 加蓮「……ごめん。ちょっと嘘ついた。怒られてはないよ」 藍子「もう。加蓮ちゃんはしれっと嘘をつくから嫌いですっ」 加蓮「うん、私も嫌い。もっと素直に生きればいいのにっていつも思ってる」 藍子「だめですよ、自分のこと、そういう風に言っちゃ」 加蓮「……いや、ついさっき藍子が言ったばっかりじゃん」 藍子「加蓮ちゃんが言ったら加蓮ちゃんが傷ついてしまいます。でも、私が言ったら、加蓮ちゃんは傷つきませんよね?」 加蓮「どうだろうねー。案外、心の奥でグサッと来てるかもよ? うわー藍子に嫌われたー、って」 藍子「グサッと来ている人は、そういう風に楽しそうに笑わないと思いますよ?」 加蓮「はいはい、降参。……ん、レモンティー、美味しいっ」 藍子「はいっ。このお店、よく来るんですけれど、お茶もクッキーも美味しくて♪」 加蓮「1つもらっていい?」 藍子「どうぞ。はい、あーん♪」 加蓮「……あーん。ん、甘い……けど、美味しいね。ふにゃっとした感じが好きかも」 藍子「そうなんです! クッキーと、あとケーキも。食感がすごく不思議で、でもそれがやみつきになっちゃうんです」 加蓮「藍子がハマる気持ちも分かるな。あ、すみませーん! この……ビターチョコケーキっていうのを1つ。藍子は?」 藍子「今日はこのクッキーとラテだけにしておきます」 加蓮「そ。うん、以上でお願いします」 藍子「ふぅ。……ふふ、美味しい♪」 加蓮「抹茶ラテねー。藍子らしいよ」 藍子「こうしていると、ちょっとは大人っぽく見えますか?」 加蓮「見える見える。菜々さんと同い年くらいかな?」 藍子「……それって褒めてます?」 加蓮「あははっ」 藍子「もう」 藍子「それで、加蓮ちゃん。トレーナーさんの代理は、まだやるんですか?」 加蓮「んー」 藍子「菜々さんに怒られちゃったって言うから……あれ、怒られてないんでしたっけ? あれ?」 加蓮「怒られてはないよ。釘すら刺されてない。ああ見えて菜々さん、自分の考えとかぜんぜん押し付けてこないからね」 藍子「言われてみれば、いつも私の方から押し付けちゃってる気がしますね」 加蓮「ウサミン星については別だけど」 藍子「あはっ。私、ウサミン星の法律を暗記しちゃったかもしれません」 加蓮「布教してあげなよ。ちょっとずつ内容を変えて」 藍子「だめですよ。菜々さんも頑張って考えているんですから、私が邪魔をしちゃ」 加蓮「……藍子でも"考えてる"って思うんだ」 藍子「う、それはその……」 加蓮「でもさー、菜々さんって実際どこまでがホントなんだろうね」 藍子「どういうことですか?」 加蓮「17歳は……まあそれにしても、ウサミン星の方はさ。ほら、機密事項にしては自分からべらべら喋るけど、それで墓穴を掘ったってことほとんどなくない?」 藍子「そういえば……そうかもしれませんね」 加蓮「たまにどうしよーみたいになってる時はあるけど、そういう時だってさ……ウサミン星に招待する約束をしたとか、ウサミン星からゲストがいっぱい来るって言っちゃった時とかでさ」 藍子「うんうん」 加蓮「前に菜々さん言ってたじゃん。ウサミン星は地球人が簡単に行くことはできないって」 藍子「言っていました」 加蓮「もしそれが……もしもよ? 笑わないでよ? もしそれがホントだったら、ウサミン星から来たって部分だけは辻褄が合ってるような気がして――」 藍子「……くすっ」 加蓮「あ、こら、笑うなって言ってるでしょうが!」 藍子「ご、ごめんなさいっ」 加蓮「どうせ似合わないって思ってるでしょ、私がメルヘンチックなこと言うのを」 藍子「そうじゃなくっ。ほら、チョコケーキ、来ましたよ」 加蓮「ん、ありがとー」 藍子「だって、加蓮ちゃんの顔が、探偵さんみたいで。見てて、ちょっとおかしくなっちゃいました」 加蓮「……」 藍子「ごめんなさい〜、ぶすっとしないでください、ね? ほら、チョコケーキですよ? あーんっ♪」 加蓮「……あーん。あ、これ美味しい……甘くないけど体に染みるっていうのかな」 藍子「そうなんですよ。ちょっと違う味で、すっごくいい感じなんですっ」 加蓮「んぐんぐ。今度、レッスン帰りに通ってみよっかな」 藍子「その時は、ぜひ誘ってくださいね♪」 加蓮「……さて。まあ菜々さんが地球外生命体だろうと侵略生物だろうと何でもいいけど」 藍子「もう少し可愛い言い方をしてあげましょうよ……」 加蓮「別に。何だって、菜々さんは菜々さん。ウサミン星人でしょ?」 藍子「……あはっ。そうですね♪」 加蓮「そんな太陽系生物かも怪しいウサミミ付き2X歳から、まあ言われたことではあるけどさ」 藍子「プロデューサーさんでしたっけ。それともトレーナーさん?」 加蓮「最近はトレーナーっぽいかな? 私はやめないよ。菜々さんに言われたからやめる、なんて癪だし」 藍子「加蓮ちゃんはいつも負けず嫌いですね」 加蓮「周りから否定されてる人生には慣れてるからね」 藍子「…………もう。そんなこと言っちゃったら、言いにくくなっちゃうじゃないですか。そんなこと言わないであげて、って」 加蓮「どうしても言わせたくなかったら、タイムスリップでもしてちいさい北条加蓮ちゃんに会ってくるといいよ」 藍子「……!」 加蓮「あー、うん、その手がありましたかって顔をやめよう? うん、冗談だから」 藍子「でも、晶葉ちゃんに頼めば――」 加蓮「ドラ◯もんな万能博士にも無理なことはあるって。それに、それって今の私を否定することになるんだよ? 藍子にはそんなことしてほしくないな」 藍子「あ……そうですよねっ」 加蓮「ふふっ」 藍子「じゃあ私は、今の加蓮ちゃんの側にいることにします。加蓮ちゃんが、自分をちゃんと愛せるように」 加蓮「……なかなかこっ恥ずかしいこと言うなあ。一生かかっても無理かもしれないよ?」 藍子「やればできるって、アイドルになってから分かりました。私だってパッショングループですから!」 加蓮「そうだね。ま、私としてはそんな無意味なことするより別のことやったらいいと思うけどね。藍子こそ自分のこと考えて生きていきなよ、私なんていいからさ」 藍子「加蓮ちゃんがちゃんと自分のことを好きだって言えたら、そうします」 加蓮「……手強いなぁ、もう」 ――帰り道―― 加蓮「他にもあるんだ。プロデューサーとかトレーナーとかをやめない訳」 藍子「そうなんですか?」 加蓮「私の為、っていうのがもちろん1番の理由だけどね。自分から提案したことを自分の都合でやめたくない、って意地もあると思う」 藍子「加蓮ちゃんらしいですね」 加蓮「でも……それよりはちょっとウェイト下がるかもだけど、やっぱり気になる」 藍子「それって」 加蓮「柚」 藍子「……」 加蓮「なんだろ。引っかかるっていうかさ、ほっとけないっていうか……あーあ。私の言いがかりだ。柚もきっと迷惑してるだろうな」 藍子「でも、そんな加蓮ちゃんがいたから、柚ちゃんのことを――なんてことになったら、どうですか?」 加蓮「どうって」 藍子「ちゃんと、自分のことを好きになれますか?」 加蓮「こだわるね……。知らないよ、そんなの。やってみないことには」 藍子「じゃあやってみましょう。アイドルですから、何だって挑戦です!」 加蓮「もちろん。ちょっと時間はかかりそうだけど、やれるところまでやってみるよ」 |
掲載日:2015年6月27日