「同じところに立ちたかった」
前回のあらすじ! 工藤忍のレッスンに北条加蓮が付き合ったよ! 加蓮はぐったりしてたよ! ――収録帰りの車内―― P「そうだ加蓮。前に言ってた企画なんだけどさ」 北条加蓮「企画?」 P「ああ。ほら、加蓮がアイドルをプロデュースするって奴。残念だが、今回は見送りってことになった」 加蓮「えー、残念」 P「掛けあってみたんだがな。それよりはやっぱり、アイドルとして売り出す方を優先したいとさ」 加蓮「そっか。それって、アイドルとしての私を買ってくれてるってことだよね?」 P「もちろん。そこは何回も念押ししたからな」 加蓮「念押し?」 P「つまりうちの加蓮はアイドルとして魅力的ってことだよな! って。気付いたら1時間くらい語ってたなー」 加蓮「……何してんのさ、Pさん。このアイドルバカ」 P「悪い悪い。ま……そういう訳で、すまんな加蓮。せっかく新しいチャンスになりそうだったんだが……」 加蓮「いいよ。Pさんといたら、いろんな物が見られるし。また新しい仕事を見つけて来てね、Pさん」 P「おし。任せろ」 加蓮「ねえ。企画は通らなかったけど、私が個人的にいろいろ教えるのはアリなんだよね?」 P「それはむしろどんどん促進してほしいくらいだがな。上の方も、いずれはアイドルがプロデュースしていくのもアリだって言ってた」 加蓮「アイドルチャレンジみたいに?」 P「そうだな。やっぱりCDデビューしたアイドルに教えてもらえるってなれば、デビューしてない子も触発される」 加蓮「嫉妬されたり恨まれたり、とは考えないんだ」 P「うちの事務所じゃ気持ちいいくらい聞かないなぁ。ぶっちゃけ、ちょっと怖いところもあったんだが」 加蓮「みんないい子だもんね」 P「プロデュースみたいなこと、早速やってたりするのか?」 加蓮「んー……やってるっていうか、私が振り回されてるっていうか」 P「おい加蓮、あんまり無茶は――」 加蓮「分かってまーす。最近は忍にいろいろ教えてるんだよ。ほら、フリルドスクエアの」 P「あー……アイツんところか」 加蓮「アイツ?」 P「フリルドスクエアの担当とは、ちょっと縁があってな」 加蓮「ふぅーん……」 P「……あのな、別に男女のどうこうって話じゃねえぞ?」 加蓮「Pさんはモテるから、怪しいなぁ〜?」 P「冗談はよせっての。俺は仕事が恋人の人間だ」 加蓮「ハァ……この際だから教えとくけど、そういう男子って女子からけっこう人気出るんだよ?」 P「マジか」 加蓮「隠れファンがついたりとか――こら、顔を輝かせるなっ」 P「おっと。いや、いやいや、加蓮こそ分かっていないな。そういうのは仕事の付き合いっていうんだ」 加蓮「うっさい鈍感。浮気して刺されちゃえ。入院したところに私がツテとコネを使いまくってPさんを籠絡しちゃるっ」 P「冗談に聞こえねえからやめろよ……。しっかし、加蓮も成長したなぁ」 加蓮「え?」 P「いや、プロデュースしてみたいって言ったり、実際にそれっぽいことをやってみたりさ。昔の加蓮からは考えられないよ」 加蓮「……昔の話はやめてよ、恥ずかしいんだから」 P「最初の頃はいちばん手のかかる子だったからなー」 加蓮「やめてってば」 P「娘が育っていく父親ってのはこういう心境なのかもな」 加蓮「まだ子供扱いなんだ」 P「俺からすりゃ、加蓮もみんなも子供みたいなもんだ」 加蓮「菜々さんも?」 P「…………あれは例外」 加蓮「ふふっ」 加蓮「……ねえねPさん。私、プロデューサーに向いてるって思う?」 P「向いてると思うぞ」 加蓮「即答っ。でも私、口で教えるたり指示するのすごい苦手なんだよ? レッスンの時なんていっつも実演ばっかりでさ、しかもうまく伝えられてないし」 P「それでも向いてると思うぞ、俺は。ってかさ、うまく教えられる人がプロデューサーってのはちょっと違うだろ。そんなこと言ったら学校の先生とかみんなプロデューサーだぞ」 加蓮「え、それは何か違わない……?」 P「おう、違うな」 加蓮「なんなの」 P「それにさ加蓮。学校の先生がみんな教え上手か? 教えるのがちょっと下手な奴が好かれるってことはないか?」 加蓮「……言われてみれば」 P「プロデューサーだって同じだろ。教えるのがちょっと下手な奴でも、アイドルから信頼されてるってケースはよく見る」 加蓮「Pさんとか?」 P「俺の話はいいんだよっ」 加蓮「あ、照れてる〜」 P「うっせえ」 加蓮「じゃあさ、好かれるプロデューサーの条件って、Pさんは何だと思う?」 P「それが分かったら苦労しねえよ」 加蓮「まあまあ、ほら、軽い気持ちで名言を作っちゃおうよ、名プロデューサーさん♪」 P「余計にプレッシャーだな、ってこらスマホを構えるな動画を撮ろうとするな!」 加蓮「ほらPさん、前を向いてよ。運転中でしょ?」 P「……録音とか撮影とかはやめろよ?」 加蓮「はーい」 P「まあ、月並みにはなるけど……アイドルを信頼することとか、想うこととか、あ、そうだ、アイドルを知るってことかもしれんな」 加蓮「知る?」 P「俺が担当した……加蓮と、藍子と、菜々と、あと歌鈴も。まあ、お前らが揃いも揃ってややこしいからそう思うだけかもしれないが」 加蓮「あ、ひどーい」 P「筆頭が何を言うか。ただ、いくら相手がややこしくても、突っぱねた態度を取ってきても、まずは相手のことを知る……いや、知ろうとするのが重要だと、俺は思うぞ」 加蓮「ふーん」 P「そうして初めて、どうやって売り出すか、どう魅力的にするかが分かるようになるんだ」 加蓮「でもそんなの、基本中の基本じゃない?」 P「あのな加蓮。それすらできてない奴なんていくらでもいるぞ」 加蓮「それもそっか」 P「その点じゃ、加蓮はプロデューサーに向いてると思う。相手のことを理解するの得意だろ、お前」 加蓮「得意っていうか……見えちゃうのかな。ほら、私っていろいろな人を見てきたから」 P「そうかもな」 加蓮「ふふっ。私も名プロデューサーになれるかな?」 P「なれるさ。でも今は、」 加蓮「うん。アイドルの方が、楽しいよ」 P「ははっ。アイドルに飽きたら、また声をかけてくれ」 加蓮「え〜? 何十年後になるか分からないよ? あ、そっか、今のってPさんなりのプロポーズかな?」 P「ばっ、……お前はまたそうやって!」 加蓮「ふふっ。…………あのね、Pさん。ホントのこと言うと、私、プロデューサーをやりたかったのとは、ちょっと違うんだ」 P「ほう?」 加蓮「よくあるじゃん。恋に恋するって。それに近い物かもしれない」 P「どういうことだ?」 加蓮「私ね、Pさんと同じ目になりたかった。そしたらPさんの隣に並べるかなって思った。プロデューサーをやりたかったんじゃなくて、Pさんがやってることをやりたかったんだよ」 P「……」 加蓮「だってPさん、いつまで経っても私を子供扱いだもん。ううん、気持ちは分かるけど……これでもそれなりの人生を送ってきてるんだよ? やっぱり納得いかないな、私は」 P「……スマン」 加蓮「いいってば。企画が通らなかったってことは、まだまだ私には早いってことだね。しょーがないっ、もうしばらくはPさんに子供扱いされてあげよっか♪」 P「は、はは……サンキュ、加蓮」 加蓮「いーえっ。ねえPさん、私、お腹が空いたな〜?」 P「奢れってか」 加蓮「子供扱いされるなら、子供の特権は使わなきゃ♪」 P「へいへい。確かあそこのサービスエリアが特集されてたか。そこでいいか?」 加蓮「お、さすがPさん。分かってんじゃん♪」 P「これでもプロデューサーな物でね」 加蓮「アイドルからの好意には鈍感なのに?」 P「うっせえっ」 |
掲載日:2015年6月24日