「お母さんと話し込んだんだけどさ」
菜々「その話はやめましょう」
藍子「へ?」 菜々「その話はやめましょう」 加蓮「……菜々さん菜々さん、キャラ壊れてる。キャラが崩壊してるから」 菜々「それだけやめてほしいってことですよ!」 加蓮「たかが家族の話を振っただけなのにさ」 菜々「嫌な物は嫌なんですぅ!」 藍子「ま、まあまあ。加蓮ちゃんも、ほら、お話したくないことみたいですから。ね?」 加蓮「ちぇ」 菜々「……分かりました。とっておきの、身の毛もよだつ話をしましょうか」 藍子「え?」 加蓮「お、なんか始まった」 菜々「ある日のことです。レッスンでクタクタになったナナはいつものように電車で1時間ほど揺られて……ま、まあ電車っていってもウサミン星行きの銀河鉄道なんですけど!」 加蓮「で? 敵対勢力のニャンコ星が侵略してきたの?」 藍子「あ、猫さんの星なら行ってみたいですね♪」 菜々「そうではなくっ! いつものように出迎えてくれたお母さんの様子が、ちょっとおかしかったんです」 加蓮「ついに年か」 菜々「そうなんですよー最近はナナだけじゃなくお母さんも湿布が欠かせまあナナは17歳ですけどっ!」 藍子「もう、加蓮ちゃん。めっ」 加蓮「はーい」 菜々「と、とにかく。神妙な顔つきのお母さんは、3日後は会いてるかって聞いてきたんです。空いていると答えたら、お母さんが……」 藍子「ごくっ」 菜々「……お見合いの話を」 加蓮「うわぁ……」 菜々「しかも写真を見てびっくり! そこに映っていたのはなんと……」 加蓮「な、なに?」 菜々「Pさんだったんですよ!」 加蓮「え」 藍子「わ、わぁ……」 菜々「事情を説明して、丁重にお帰り頂きました……ええ、それ以来、お母さんからの視線が冷たくて冷たくて」 加蓮「ふうん……」 菜々「……」 加蓮「……」 菜々「……その、例えば、例えばの話ですよ? Pさんがその……ぷぷ、プロポーズをしてきたとしますね」 藍子「っ」 加蓮「…………」 菜々「ああっおふたりともそんなコワイ目で見ないでください! その時にはナナは、ちゃんときっぱりお断りしますから!」 藍子「……へ?」 菜々「いえ、ナナ的にもPさんとの……その、ごにょにょ……そういうのはアリですよ、アリアリですけど、でも、ナナはアイドルですから」 加蓮「……」 菜々「トップアイドルになるまでは、普通の女の子に戻るつもりはありませんっ! ナナにとってPさんは、ナナをトップアイドルまで導いてくれる人ですから!」 藍子「わぁ……カッコイイ……」 加蓮「…………どうしよう」 藍子「加蓮ちゃん?」 加蓮「今、菜々さんにキュンってなった。心がキュンってなった。ヤバイこのままだと私エライ道に行きそう」 藍子「加蓮ちゃん!?」 菜々「とやっ、お母さん直伝、斜め45度のウサミンチョップ!」 加蓮「ぶへっ。はっ、私は今まで何を」 菜々「やりました! ナナの貞操とアイドル人生は守られました!」 藍子「おかえりなさい、加蓮ちゃん」 加蓮「た、ただいま。……いかんいかん、私としたことが、Pさん一筋の私としたことが」 菜々「いやアイドルとしてそれはどうなんですか」 加蓮「私がもしPさんに迫られたら2秒で合体だね」 菜々「ぶっ!」 加蓮「大丈夫。嘘をつくのは得意なんだ」 菜々「アイドルとして堂々と裏切り宣言!?」 藍子「でも加蓮ちゃんの嘘は、見抜くのがすごく難しそうですね」 加蓮「ふふっ。病院で培われた表情七変化をナメちゃ駄目だよ」 菜々「加蓮ちゃんの恐ろしさを垣間見た気がします……!」 加蓮「それ一昨日くらいに言ってなかった?」 藍子「身内がアイドルっていうのは、複雑なんでしょうか」 加蓮「あれ、藍子の親ってそんなんじゃなくない?」 藍子「あ、私のお話ではなくて……」 菜々「ナナは隅っこで縮こまってますね〜」 加蓮「……うん。私も身内がウサミン星人とかやってたら他人のフリを決め込むかな」 菜々「ナナの存在を全否定ですか!?」 加蓮「ねえ藍子」 藍子「わ、私に振らないで……!」 菜々「藍子ちゃん! 藍子ちゃんなら分かりますよね! ウサミンの生き様が!」 加蓮「もし菜々さんがお母さんだったら」 菜々「いくらなんでもそこまで年じゃありませんよぉ!」 藍子「それは、ええと、ううんと……ご……ゴメンナサイっ」 菜々「うわあああああああああん藍子ちゃんまでええええええっっっ!」 加蓮「うんうん、自分に素直になるのが一番だよ」 藍子「ちが、違うんです、その、ええと、か、加蓮ちゃん! あんまり、菜々さんをいじめないでください!」 加蓮「いやぁ、つい。大丈夫だって。菜々さんがすごい頑張ってるってことは知ってるから」 藍子「私だって知ってますっ」 加蓮「……でもウサミン星人はキツイ」 菜々「あれほど一緒にお仕事したのにまだ言いますぅ!?」 加蓮「だって……ねえ?」 菜々「…………分かりました。ホントはPさんにしか教えたくないことなんですが、ナナのとっておきの秘密、教えちゃいますね」 加蓮「お?」 菜々「実は……その、永遠の17歳はいわゆる……アレ……ですけど、ウサミン星が出身というのは、本当のことなんです」 加蓮「……は?」 藍子「へ?」 菜々「キャッ、言っちゃった」 加蓮「…………」 藍子「…………え、ええと」 菜々「なんですかその微妙な顔は!」 加蓮「いや……マジトーンで言われても困るなぁ、って」 菜々「あるんですからね! ウサミン星は! 本当に!」 藍子「は、はぁ……」 菜々「ホントは加蓮ちゃんや藍子ちゃんもご招待したいのですが、ウサミン星はセキュリティが厳しくて、簡単に入ることができないんです」 藍子「じゃあ、どうやったら入れるようになるんですか?」 菜々「地球人代表くらいになれないといけませんね。そう、例えばトップアイドルみたいな!」 藍子「トップアイドル……はいっ。じゃあ、ウサミン星を目指して、今日からまた頑張りましょう!」 菜々「その意気ですよ!」 加蓮「……なんだこれ」 藍子「ねっ、加蓮ちゃん」 加蓮「こっちに振って来ないでよ……」 菜々「あれあれ? 加蓮ちゃんはウサミン星に興味がないのかなっ?」 加蓮「…………何キャラだ」 菜々「そんな加蓮ちゃんがウサミン星に行きたいって思えるように、今日はウサミン星のひみつをいっぱい教えちゃいます♪」 藍子「わーっ!」パチパチ 加蓮「うわぁ、なんか始まったよ……」 ――1時間後―― 菜々「――なのでウサミン星に行く時には、地球から1時間かかるのです。はい、これでだいたいのことは教えちゃいましたね」 加蓮「…………zzz」 菜々「こらぁそこっ! 起きてください!」 加蓮「……んー……あ、終わったの?」 藍子「私、すごくウサミン星のことを知ることができました! 菜々さん、ありがとうございます!」 菜々「いえっ! それでは最後にみんなで、魔法の呪文を唱えましょう!」 加蓮「え、何このテンション」 菜々「せーのっ」 藍子「みみみんみみみん、うーさみん♪」 菜々「みみみんみみみん、うーさみん♪ ほら、加蓮ちゃんも!」 加蓮「みみみんみみみんうーさみん……藍子、この前すごく恥ずかしそうにやってたのに」 菜々「またねーっ!」 加蓮「……デパート屋上のリハは終わった?」 菜々「…………」 加蓮「菜々さん?」 菜々「……キャハッ」 加蓮「無意識だったんだ……」 加蓮「ところで藍子の家族ってどんなの?」 藍子「私は……普通の家族ですよ?」 菜々「ああ、なんだか藍子ちゃんって気がします」 藍子「ただ、お母さんとお話していると……その、いつの間にか2時間くらい経っちゃってて」 菜々「ああ……」 加蓮「やっぱ血筋だったか……」 藍子「え? え? あの、おふたりとも? あれ〜……?」 |
掲載日:2015年5月19日