「繰り返し繰り返し」






前回のあらすじ!
工藤忍のレッスンに北条加蓮が付き合ったよ!
加蓮はぐったりしてたよ!


――レッスンスタジオ――
北条加蓮「で、今度はボーカルを教えろって?」
工藤忍「加蓮に教わるならやっぱりこっちかなって。今度のLIVEはダンスがメインだけど、もちろんボーカルも欠かせないから!」
加蓮「いいけど、お願いだからこの前みたいに人をゾンビにしないでね?」
忍「あ、あれはちょっと反省してるよ。でも、やっぱりちょっとくらい無茶はしたいんだ。じゃないとみんなに追いつけないよ!」
加蓮「はぁ……昔の私を見てる気分だよ」
忍「加蓮も無茶すること多いの?」
加蓮「意地でね。忍ほどじゃないよ。遅れを取り戻したいって思ってばっかりだったな」
忍「へぇー……」
加蓮「今はどこかの誰かさんが無茶させてくれないから……いや、どこかの誰かさん"達"が無茶をさせてくれない、かな」
忍「加蓮のプロデューサーさんの過保護っぷりはアタシ達の間でも有名だよ」
加蓮「もうちょっと他の話題にしなさいよ……で? ボーカルレッスンだっけ」
忍「うん。とりあえず歌ってみるから、また足りないところがあったら教えてね」
加蓮「はいはい」

……。

…………。

忍「〜〜〜〜♪ ……どうかなっ!」
加蓮「うまいうまい。ダンスと合わせて体力も問題なさそうだね」
忍「そう? アタシはまだまだって思うけど……」
加蓮「必死になりすぎてない? 頑張るのはいいことだけど、自分は駄目だって思い込むと辛いよ」
忍「どうだろ。頑張ることは好きだから、辛くはないよ」
加蓮「そう……」
忍「?」
加蓮「なんでもない。ただ、私は努力って好きになれないから、そっかー、って思った」
忍「え……? あ、そうなんだ……」
加蓮「頑張らないといけないことは知ってるよ。でもさ、頑張るのって結果を出す為じゃん。結果を出さないとって焦っちゃうことが多いから、努力とか過程とか、あと根性とか? そういうのが特別に好きって訳じゃないね、私は」
忍「…………」
加蓮「……ごめん。忘れて。今はちょっとはっていうか……そ、それよりほら、忍のボーカルの話をしようよ」
忍「そ、そだね。アタシは途中でパワー減ってるって気がしてるけど、どう聞こえた?」
加蓮「そうでもないかなぁ。敢えて言うならパワーの使い方がおかしい気はする」
忍「うぁ」
加蓮「なんていうんだろ。抑揚の付け方がおかしい?」
忍「あー」
加蓮「気合が入りすぎかもね。……私の……話は置いておいて、頑張ることはいいんだけど、頑張るやり方ってあると思うよ」
忍「全部に全開! じゃ、駄目なのかな……」
加蓮「何もかも全開じゃ保たないって」
忍「頑張って歌に慣れて、ダンスにも慣れて、体力つけたら、保つと思うんだ。アタシはそうなりたいな」
加蓮「…………。あくまでさ……今は、忍がなりたいアイドルのことじゃなくて、次のLIVEのボーカルの話だけど」
忍「うん」
加蓮「今の忍だったら、気合いの入れ方を調節して抑揚をつけるか、全部を全開にしようとして後半に力尽きてそれでもファンに頑張ってるってことを示すか」
忍「……」
加蓮「忍。頑張ることは凄いことだけど、今の自分にできないことを努力で誤魔化すのは良くないよ。言ってたじゃん。プロデューサーの為にいいパフォーマンス見せるって。頑張ることじゃなくて頑張った"結果"のステージを見せたいんでしょ? 頑張ってるつもりで途中で腑抜けるのがいいパフォーマンスって言うの?」
忍「…………」
加蓮「……ごめん、言い過ぎた」
忍「ううん。今の加蓮の言葉、ちょっとグサッと来たかも。あ、いい意味でだよ。そっか、やっぱり加蓮に聞いて正解だったよ♪」
加蓮「そう?」
忍「よーしっ、やるぞーっ! ……で、アタシはどうしたらいいんだろ」
加蓮「どこで気合を入れるか考えてみたら? そうだね、どこを一番に見せたいか。アピールポイントって言うの? それを考えてみたら?」
忍「アピールポイントかぁ。ちょっと前からね、可愛く見せたいって思うようにはなったんだよね」
加蓮「ふんふん」
忍「でも今回のダンスはカッコイイ系だから、そうだ、インパクトを見せたい! 頑張るアイドルって姿を!」
加蓮「やっぱりそこに行き着くんだね……。分かった。インパクトなら、やっぱり冒頭かな」
忍「どうしたらいいんだろ。そうだ、加蓮、ちょっとお手本を見せてよ!」
加蓮「……ちょっとだけだからね。フリじゃなくてマジで」

……。

…………。

加蓮「〜〜〜♪ って感じで……説明は難しいけど、お腹に力を入れて、指の先まで伸ばしてってすれば自然と力強く――」
忍「……」パクパク
加蓮「……どしたの?」
忍「いや……加蓮の歌はやっぱりすごいなって。改めて見たらやる気が湧いてきたよ。やっぱり負けたくないなって!」
加蓮「そ、そう……」
忍「お腹に力を入れて指の先まで伸ばす、だね。ちょっとやってみるっ!」スクッ
加蓮「……柚とは違う意味で調子狂うよ、これ」スタッ
忍「〜〜〜〜♪、〜〜〜〜!! 〜〜〜……って感じ?」
加蓮「1番への入りがマズい。力強さに引っ張られてるよ」
忍「〜〜〜!! ーー〜、こう?」
加蓮「今度は繋ぎを意識しすぎ。冒頭が終わった時、ワンテンポだけ止まる感覚を覚えて」
忍「〜〜〜!! 〜、〜〜〜、違う……〜〜〜!! ……〜〜、これくらい?」
加蓮「ごめん、言い方が悪かったね。ワンテンポって言ってもほんのちょっとで、軌道修正するような感じで……ええと」スクッ
忍「うん」
加蓮「〜〜〜!! っ〜〜〜……これくらいがちょうどいいよ」
忍「そういうことっ! 〜〜〜! っ〜〜〜……」
加蓮「タイミングはそんな感じだね。あとはそれを繰り返して体で覚えて。じゃないと直前の力が抜けてる」
忍「〜〜〜!! 〜〜〜……」
加蓮「テンポ早い!」
忍「〜〜〜!! っ〜〜〜」
加蓮「うん、今のがベストかな」
忍「掴めた! じゃあ、体に覚えさせるよっ!」

……。

…………。

加蓮「…………」バタン
忍「〜〜〜!! っ〜〜〜、〜〜〜〜♪ ……あれ? 加蓮?」
加蓮「…………」パクパク
忍「あー……またやっちゃった……」
加蓮「…………すぅ……あー、のみ、飲み物……」
忍「は、はい」
加蓮「ごくごくごくごくごくごくげほげほっ!」
忍「……大丈夫?」
加蓮「うー……なんで冒頭のところだけで2時間も繰り返すかな……」
忍「なかなか体で覚えきれなくて。できるだけ頑張ろうとしてたらまた周りが目に入らなくなって、その……ごめん?」
加蓮「もういいや、私がブレーキになればいっか……」
忍「でもびっくりしたよ。加蓮がこんなにガツガツ言ってくるなんて」
加蓮「柄にもなく熱くなっちゃったね。忍が突っ走りすぎて、影響されたよ」
忍「そっか。ふふっ」
加蓮「……なんで嬉しそうなの?」
忍「ううん。たまにはこうやって頑張るのもいいなって」
加蓮「ふうん」
忍「……フリルドスクエアで頑張るのも楽しいけど、どうしても周りに合わせたくなるから、こうはいかないんだ」
加蓮「合わせないといけないから、じゃなくて?」
忍「それはアタシが決めてることだからね! たまにはこうしてワガママを言うのもいいかも!」
加蓮「そう。強いね、忍は」
忍「そんなことないよ。……周りが見えてないって、Pさんからもよく言われるし」
加蓮「じゃあ忍の代わりに周りを見る人がいればいいんだ」
忍「加蓮がなってくれる?」
加蓮「たまにでいいならね。いつもなんて付き合ってやるもんかっ」
忍「よし、休憩おわり! じゃあ加蓮、次は1番のサビなんだけど――」
加蓮「はいはい」


掲載日:2015年6月22日

 

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