「何度だって何度だって」






――レッスンスタジオ――
北条加蓮「合同レッスン……って言ってたけど、妙に静かだね。もう終わってるのかな、でも時間は――ん?」
工藤忍「とん、とん、とんとんとっ……あ」
加蓮「……」
忍「……」
加蓮「……」
忍「……こ、こんにちは」
加蓮「……えと、こんにちは、忍」
忍「えっと、次のレッスン……だっけ?」
加蓮「ううん。フリルドスクエアの合同レッスンあるって聞いて来たんだけど……忍だけ?」
忍「うん。あ、もしかして見学……?」
加蓮「私が勝手に来ただけだけどね」
忍「穂乃香ちゃんがレッスン中に足を捻っちゃったんだ。それであずきちゃんが大騒ぎしちゃって」
加蓮「早めに切り上げちゃった?」
忍「柚ちゃんはどさくさに紛れてどこかに行っちゃったし」
加蓮「……探してこようか?」
忍「ううん、いい」
加蓮「そう」
忍「……」
加蓮「……」
忍「……加蓮。あの、時間ある?」
加蓮「あるからここに来たんだけど……」
忍「そ、そうだよね」
加蓮「……」
忍「……」
加蓮「……」
忍「……あのさ……その。どうせならダンス見てくれない? 今度、LIVEがあるんだ」
加蓮「LIVE?」
忍「小さい物だけどね。歌も2つだけ」
加蓮「そっか」
忍「それで、その……いい?」
加蓮「いいけど、よりによって私にダンス? 苦手分野だからアドバイスできるか怪しいよ」
忍「あ、そっか……」
加蓮「……」
忍「……」
加蓮「……分かったから、ちょっとやって見せてよ」
忍「いいの?」
加蓮「アドバイスできるかは自信ないけどね」

……。

…………。

忍「たんっ♪ ど、どうかな?」
加蓮「…………」
忍「……あの、加蓮?」
加蓮「んー……遠慮無く言っていい?」
忍「そうしてくれないと、アタシも困るよ」
加蓮「じゃ言わせてもらうけど……何が悪いとかはないけど、なんか荒削りって感じがする」
忍「う゛、や、やっぱり?」
加蓮「ファンはそれでも喜んでくれると思うよ。ああ、頑張ってるな、って。それじゃ満足できない?」
忍「当然だよ! Pさんの為にも、ちょっとでもいいパフォーマンスを見せなきゃ!」
加蓮「貪欲だね」
忍「努力のアイドルだからね! ねえ、どこら辺が良くなかった?」
加蓮「目についたのは……2番の入りかなー。リズムに引っ張られてる気がする」タチアガリ
忍「ふんふん」
加蓮「右手と右足を伸ばすタイミングを少しズラしてみたら、もっと格好良く見えるんじゃないかな」
忍「こうやって……こんな感じ?」
加蓮「その時にもう次の動きを意識してみてさ、体を左に振って、目線は保って――こうっ」
忍「これを、こうっ! できてる?」
加蓮「そうそう。次の入りは左腕の角度を意識して……違う違う、顔を向けるんじゃなくて頭で意識する感じ」
忍「直感的に考えた方がいいのかな?」
加蓮「そうかもね。そこから思いっきり前に出て、サビに入るっと」
忍「右、左、左……うん、うまくできてる気がする!」
加蓮「ちょっと意識するだけでも、見え方ってだいぶ変わるよ」
忍「加蓮、この歌ってやったことある?」
加蓮「少し前にね」
忍「ちょっとやってみせてよ。アタシも合わせてみるから」
加蓮「まあ、いいけど……」

……。

…………。

加蓮「……ぶはっ! ムリ、もうムリ!」
忍「左、右、右、左、ここのターンは大げさなくらいに、後ろにズレたら流すように……ここは顔じゃなくて身体で表現して軽く跳んで、次の動きは――」
加蓮「ストーップ! ぜぇ、ちょ、ちょっと休憩にしよ?」
忍「右と左のタイミングをズラして、立ち位置を変えて……ここで手を振ってみるのもいいかな……」
加蓮「話を聞け! げほごほっ」
忍「わっ。……あ、びっくりした。って、加蓮? なんで座り込んでるの?」
加蓮「なんでって、げほっ。7回も8回も通してやらされたらこうもなるってごほっがほっ! ち、ちょっと休憩、ね?」
忍「じゃあそこで座ってて。アタシはもっとやらなきゃ!」
加蓮「も、もう十分でしょうが……」
忍「ううん、まだまだ足りない。加蓮を見てたら燃えてきたよ。よーし、やるぞー!」
加蓮「……帰りたい……」

……。

…………。

加蓮「……(もう声も出ない)」
忍「よしっと。ねえ加蓮、2曲目の2番の終わりのところだけどこんな風でいいの? アタシ、うまくできてたかな」
加蓮「……(こくこく)」
忍「そっか……でも、2回前の通しでミスっちゃったんだよね。本番ではミスできないし、よしっ、もう1回!」
加蓮「(ぶるぶる)」
高森藍子「あれ? 加蓮ちゃん、こんなところにいた……って、加蓮ちゃん!? ゾンビみたいな顔になってますよ!?」
加蓮「(忍を指さす)」
藍子「え?」
忍「たんたんたたんっ、ワンツースリーフォー、ジャンプして次っ」
藍子「えっと…………」
加蓮「(縋るような目)」
藍子「…………? と、とりあえずお飲み物を持ってきますねっ」パタパタ
加蓮「…………」
忍「よしっ、うまくできた! ……あれ? 加蓮、今、誰かいなかった?」
加蓮「……すぅ。ふぅ、あー……藍子が来てたけど……」
忍「あー……アハハ、えと、ダンスに夢中になってたから」
加蓮「だろうね……」
藍子「お待たせしましたっ」
加蓮「ん、藍子……ありがと」
藍子「もう大丈夫……じゃなさそうですね。もう、また無理をしちゃって」
加蓮「文句は忍に言ってよ……私、付き合わされた方なんだけど」
藍子「ホントですか?」
加蓮「ほ、本当だって」
藍子「じー」
忍「ゴメン、それホントのことなんだ。アタシが付き合わせちゃった」
藍子「え?」
忍「加蓮にお手本をやってもらったら、つい燃えちゃって……あ、そうだ。藍子ちゃんも一緒にやらない? アタシ、次のLIVEでやるダンスの練習しててるんだ。どうしてもうまく決められなくて、だから一緒に練習してくれると嬉しいな♪」
藍子「ダンス、ですか……あまり得意じゃないですけど、いいですか?」
忍「いいよいいよ! 加蓮と一緒にLIVEやってる藍子ちゃん見たことあるんだ。凄いなって思ってたから♪」
藍子「じゃあ、ちょっとだけなら……♪」
加蓮「やめときなさい。藍子でついていける相手じゃないから」
藍子「大丈夫ですよ。ちゃんと、セーブはしますから。ね?」
加蓮「……もう」

……。

…………。

藍子「ふぅっ……す、すごい体力ですね、忍ちゃん」
忍「まだまだいけるよ! 見ててね、もっともっとうまくなりたいから!」
加蓮「……体力どうなってんの、割と真剣に」
藍子「うまく体力を使うコツとか、あるのでしょうか……?」
忍「どうだろ。昔からずっとこうだから、考えたことないよ」
加蓮「ぶつかって砕けろみたいな?」
忍「砕けはしないけど……」
藍子「でも、がんばり屋さんなところは、加蓮ちゃんも一緒ですよね」
加蓮「さすがにこの化け物と一緒にはしないでよ……」
藍子「そういう言い方しちゃ駄目ですよ、もう」
加蓮「はーい」
忍「ワンツースリーフォー、ワンツースリーフォー……ターンっ♪」
加蓮「……うわ、来てからもう4時間くらい経ってる」
藍子「もういい時間ですね。ごめんなさい、私、夕方から用事があるので……」
加蓮「ん。ありがとね、藍子」
藍子「はいっ。無理しないでくださいね、加蓮ちゃん」
(タッタッタ……)
忍「これで……えいっ! ふぅ……加蓮、藍子ちゃん、アタシうまくできてた?」
加蓮「藍子ならもういないけど」
忍「あれ?」
加蓮「……ホント、周りが見えてないんだね」
忍「よ、よく言われる……あ、それで、ダンスどうだった? ちょっとはうまくできてる? そうだ、もう1回だけ一緒にやってよ。そうしたら分かる気がして」
加蓮「……はーい。……あーあ、あとで藍子に叱られるだろーな……」


掲載日:2015年6月21日

 

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