「口よりも身体、でも口は災いの元」






――レッスンスタジオ――
高森藍子「えっと……たん、たたんっ、たんっ! ……こうですか?」
北条加蓮「んー、いや、そうじゃなくて……こう、足をこの辺まで伸ばしてターンをね?」
藍子「え、えいっ、わあっ!?」ズルッ
加蓮「藍子! ……いっつ、だ、大丈夫!?」
藍子「わ、私は大丈夫ですけど、加蓮ちゃんの方が痛そうです……!」
加蓮「大丈夫大丈夫。ん、立てる? 変なひねり方してない?」
藍子「は、はいっ。……あの、もう1回お願いします……!」
加蓮「ちょっとお手本をやった方がいいのかな。ここで……こう!」
藍子「わ、だいぶ足を伸ばしているんですね」
加蓮「私はこうした方が次の動きに繋げられるからね。足が出せないようなら、こう、こんな感じ……で、体を前に出した方がいいかも」
藍子「こ、こう、ですか?」
加蓮「……あー、ごめん、藍子の場合はもうちょっと身を引いた方がいいかも」
藍子「え?」
加蓮「や、その、ほら……アピールポイントが、ね? 強調したら逆効果っていうか、その」
藍子「あ……あはは、そうですよね、ゴメンナサイ」
加蓮「違う違う! あのね、人によって違うでしょ、こうやって見せた方がいいっていうのは!」
藍子「は、はいっ」
加蓮「さ、もっかい」
藍子「たん、たたんっ、たんっ! ……あ、今の、うまくいったかも……?」
加蓮「いいじゃん! じゃあ次のパートだけど――」

藍子「ふぅっ。……うん、これならうまくできそうです!」
加蓮「そ、そっか、それならよかった……ぜぇ、ぜぇ」
藍子「わっ……加蓮ちゃん、大丈夫ですか……? ゴメンナサイ、ぜんぜん気付きませんでした」
加蓮「ん、大丈夫だけど、ちょっと横に……ううん、膝枕とかはいいから……」
藍子「あうぅ……」
安部菜々「あれ? 加蓮ちゃんに藍子ちゃんも、ここにいたんですか」
加蓮「菜々さんだ」
菜々「ナナですよー。うっさみーん♪」
藍子「うっさみーん♪ 今日は……あれ? 菜々さん、レッスンでしたっけ?」
菜々「いえ、加蓮ちゃんと藍子ちゃんが戻ってこないから、何かあったのかなぁと」
加蓮「そうなんだ」
藍子「トレーナーさんとのレッスンが終わって、もう30分くらい経ってますね……」
菜々「自主レッスンですか?」
加蓮「どうせスタジオは空いてるって言ってたし、藍子がダンスで分からないところがあるって言うからねー」
菜々「ほうほう」
藍子「加蓮ちゃんの教え方、すっごく上手なんです♪」
菜々「ほー」
加蓮「いやいや……お手本ならまだしも、口で教えるのはちょっと」
菜々「あー、分かります分かります。実際にやってみせた方がやりやすいですよね。ナナもそんな感じです!」
加蓮「お手本になるっていうのも、それはそれで恥ずかしいけどね」
菜々「そうですか?」
藍子「未央ちゃんや茜ちゃんにも教えてあげようと思ったのに……」
加蓮「やめて。未央はまだしも茜はホントにやめて。私が死ぬから」
藍子「えー」
菜々「でもウェディングの撮影の時は一緒だったんですよね?」
加蓮「もう途中から奏に丸投げしてたけど?」
菜々「わーお」
藍子「あ、だから茜ちゃん、奏さんとよくお話しているんですね」
加蓮「似合わない2人だと思った?」
藍子「……ちょっとだけ」アハハ

菜々「ナナも加蓮ちゃんに教えてもらっちゃいましょうか」
加蓮「何か分からないことでもあるの?」
菜々「加蓮ちゃんの歌のうまさはいつも羨ましいと思ってましたからね! 何かコツでもあるんですか?」
加蓮「どうだろ。歌うのは好きだけど、そんな特別な練習とかは……。そういうの、やっぱりあんまり好きじゃないし」
菜々「またまた〜、そんなこと言ってホントはコッソリやってたんじゃ?」
加蓮「そういうのは昔だけだよ」
藍子「昔?」
加蓮「ここに来たばかりの時にね。努力とか根性とか嫌いって言ってたから、Pさんの前で堂々とレッスンするのもちょっと嫌だった頃」
藍子「昔から素直じゃなかったんですね、加蓮ちゃん……」
加蓮「むしろ昔の方が酷かったけど? だからバレないように夜遅くに自主レッスンを……って、あれ? この話、2人にしてないっけ」
藍子「え?」
菜々「ナナは聞いた覚えがありませんねえ。……ボケとかじゃないですよ!? まだナナは17歳ですからね!? 」
加蓮「まだ何も言ってないよ。……なんか、いつか病院で藍子に話したような……」
菜々「病院? そうなんですか、藍子ちゃん」
藍子「え、いえ、本当に覚えは……加蓮ちゃんのお話で忘れていることなんて、ない筈なのに」
菜々「それはそれでスゴイですねえ」
加蓮「……あ、思い出した。あれ夢の話だ」
菜々「がくっ」
藍子「ゆ、夢……?」
加蓮「うん、ごめんごめん、忘れて」
菜々「ま、まあじゃあ忘れるってことで。ナナもよくありますからね、実際にあったことなのかナナが考えたことが分からなくなることって」
加蓮「ウサミン星の設定とか?」
菜々「だから設定じゃないんですってば!」
加蓮「そろそろ銀河鉄道に乗せてよ」
菜々「そ、それは……そのぉ……ま、まだ無理です!」
加蓮「あはは」
藍子「もう、加蓮ちゃん。めっ」
加蓮「はーい」

加蓮「えっと、とにかく私はそんな特別なことやってないよ。だから教えるのも苦手」
菜々「加蓮ちゃんの歌って、うまいとか慣れているとかじゃなくて、なんだか不思議な魅力があるんですよねぇ」
加蓮「そう?」
菜々「才能ってこのことを言うんでしょうか。でもナナは負けませんからね!」
加蓮「ふふっ、私だって負けるつもりはないよ」
藍子「加蓮ちゃんは、他の皆さんにも教えたりしたことがあるんですか?」
加蓮「教えたことはないけど……あ、教えてほしいって言われたことはあるな」
菜々「ナナのことですか?」
加蓮「ううん。柚」
藍子「柚ちゃん……?」
加蓮「あれ、ちょっと違うかも。いや柚は柚なんだけど、教えてほしいじゃなくて、お手本になってほしいだったかな……ううん違う、お手本になったらいいって、オススメされるみたいに言われた気がする」
菜々「柚ちゃんが教えてほしいんじゃなくて、加蓮ちゃんは先生に向いているとかそういうお話ですかね」
加蓮「かもね」
菜々「いいと思いますよ! いつかウサミン星の学校にも来てほしいですね!」
加蓮「いや、だからそれなら銀河鉄道ウサミン星行きに乗せてよ」
藍子「あ、あはは……」
菜々「さて、せっかく来たことですしナナもちょっと練習していきますか」
加蓮「今日はロケじゃなかったっけ?」
菜々「それがですねえ、向こうの都合で延期になっちゃったんですよ」
加蓮「あちゃー」
藍子「それは大変ですね……」
菜々「だから良ければ加蓮ちゃん達も付き合ってほしいなー、とか」
藍子「もちろんですっ。加蓮ちゃんも、いいですよね?」
加蓮「え? 私、この後に藍子オススメの喫茶店に行くつもりだったんだけど」
藍子「えぇ!?」
菜々「うう、加蓮ちゃんはナナよりも藍子ちゃんの方が大切なんですねぇ……よよよ」
加蓮「……」
菜々「……え? なんでそこで黙るんですか?」
加蓮「喋ってもいいけど、残酷なこと言っていい?」
菜々「よし! じゃあナナはレッスン着に着替えてくるので2人も準備をお願いしますね!」タッタッタ
加蓮「あ、行っちゃった」
藍子「加蓮ちゃん? だめですよ、そういうこと言っちゃ」
加蓮「ん、さすがに反省してる」
藍子「そういうこと言われても、私も嬉しくありませんから」
加蓮「だよね。……つい、いつもの癖が出ちゃったな」
藍子「もう」
加蓮「ごめんってば。さて、菜々さんが戻ってくるまで柔軟でもやっていよっか」
藍子「はいっ♪」


掲載日:2015年6月13日

 

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