「負けた方が出迎えるってことで」






――事務所――
北条加蓮「菜々さん」
安部菜々「はいっ」
加蓮「ん」スマホミセル
菜々「…………」
加蓮「…………」

加蓮「じゃーんけーん」
菜々「ぽんっ!」

加蓮:チョキ 菜々:パー

……。

…………。


――事務所――
高森藍子「ただいま戻りました……」
藍子「……」
藍子「……誰もいない……」
藍子「……」
藍子「……はぁ」
菜々「ふぅ……おおっと藍子ちゃん! 戻ってきてたんですね!」
藍子「あ、菜々さん」
菜々「おかえうっさみ〜ん☆」
藍子「ただいま戻りました……」
菜々「……キャハッ☆」
藍子「……」
菜々「あー、えー、き、今日はどうしたんですか? いつもの藍子ちゃんスマイルがないですよ?」
藍子「……Pさんと一緒に、オーディションに参加してきたんですけど、落ちちゃって」
菜々「そ、そーでしたかー、ナナ気づきませんでした!」
藍子「私、浮かれてたのかな……最近は、調子がよかったから」
菜々「いえいえそんな。藍子ちゃんが浮かれてるって言うならナナはどうなりますか」
藍子「……」
菜々「長い人生ですから、たまには失敗だってしますよ! ナナだって何度やらかしたことか……まあまだ17年しか生きてませんが!」
藍子「……お飲み物、何かいりますか?」
菜々「わ、わぉ……。今日はナナに任せてください。ねねっ、藍子ちゃんはほら、ここに座って待っててくださいね」
藍子「うん」
菜々「すぐ戻ってきますからねーっ!」ピューッ

藍子「…………」
菜々「戻りました! ほら、藍子ちゃん。藍子ちゃんの好きな牛乳ですよ〜」
藍子「牛乳……」
菜々「あっ、ヤバっ」
藍子「…………最初は、ぜんぜん気にしてなかったんです」
菜々「は、はあ」
藍子「自分がアイドルに向いていないってことは知っていました。だけど、ゆっくり、私なりに頑張ろうって」
菜々「い、いいと思いますよ! ナナそういうのいいと思いますよ?」
藍子「加蓮ちゃんと出会って、菜々さんと出会って、もうちょっと頑張ってみようって思ったら、急に、自分がアイドルなんて似合わないこと、すごく気になっちゃって」
菜々「え、ええと……」
藍子「だめですよね。だめなものは、だめですから」
菜々「…………あああっ! ナナにはもう限界ですぅ!」
藍子「え?」
菜々「ちょっとこっち来てください!」
藍子「え、わっ、菜々さんっ」


――レッスンスタジオ――
加蓮「ワンツースリーフォー、ワンツー……あれ、藍子」
藍子「加蓮ちゃん……?」
加蓮「……菜々さん、早いよ」
菜々「ナナにはもう無理……っ!」
加蓮「もう」テクテク
藍子「……」
加蓮「どうしたの、藍子。そんな暗い顔して」
藍子「……」
加蓮「……なんてね。ごめんね藍子。知ってるんだ、何があったか」
藍子「……え?」
菜々「女の子の情報網ってコワイですよねぇ」
加蓮「オーディション、落ちたんでしょ」
藍子「っ」
加蓮「らしくないな。確かに倍率は高いって聞いたけど今の藍子なら、」
菜々「ストップ、ストップです加蓮ちゃん。ちょっと藍子ちゃん思ったよりダメージ受けてるっ」
加蓮「そうなんだ。そうなの?」
藍子「…………」
加蓮「ねえ藍子。ちょっと私に付き合ってくれる?」
藍子「……加蓮ちゃんに……ですか?」
加蓮「うん。ソロの舞台が近いから自主レッスンしてたんだけど、どうせなら一緒にやりたくてね」
菜々「加蓮ちゃんはしょうがないですねえ。藍子ちゃんも、ほら、一緒にやりましょう!」
藍子「……でも、私」
加蓮「私がやりたいの。手伝ってよ、ね?」
藍子「…………はい」
菜々「藍子ちゃん、その服じゃ踊りにくいですね! ナナがついていってあげますから着替えましょう!」スタスタ
藍子「……」テクテク
加蓮「ふぅ。……ワンツースリーフォー、ワンツースリーフォー」タタンッ

菜々「お待たせしましたぁ!」
藍子「……」
加蓮「お待ちしました。『お願い! シンデレラ』でいい?」
菜々「オッケーですよ! じゃあナナがバックダンサーをやりますので……こっちでいいですか?」
加蓮「うん。藍子はこっちね」
藍子「……はい」
加蓮「藍子」
藍子「……」
加蓮「……私に嫌われることなんて、今さら怖くないでしょ?」
藍子「……はいっ」
加蓮「じゃあ始めよっか。せーのっ」

……。

…………。

菜々「ふーっ……ナナもうクタクタですぅ」
加蓮「ハァ、ハァ……つっかれたぁ……ごくごく」
菜々「相変わらず加蓮ちゃんは、ぜぇ、ナナよりも体力ないですねえ」
加蓮「ハァ、ゼェ、う、うっさい、気にしてるんだから」
藍子「……ふぅ」
加蓮「うっわ、1人だけ平気そうな顔してるよ」
菜々「ナナも茜ちゃんや未央ちゃんについていけば体力が……!」
加蓮「若者エネルギーに燃やされるオチしか見えない」
菜々「ナナだって若者なんですけど!?」
藍子「あ、あの、おふたりとも……」
加蓮「ん?」
菜々「みんっ」
藍子「ええと……その…………」
加蓮「前から思っていたんだけど、菜々さんのその声ってなんか忍者っぽいよね」
菜々「ナナはウサミン星人ですよ」
加蓮「"み"と"に"って似てるじゃん」
菜々「そんなこと言われましても」
加蓮「我らが忍ドルと張り合ってみる?」
菜々「ナナ、話したことないですね……どんな子なんですか?」
加蓮「さあ。私も知らない」
藍子「あのっ!」
加蓮「ん」
菜々「藍子ちゃん、ゆっくりでいいですよ、ゆっくりで」
藍子「…………あの、私……やっぱり、おふたりと踊っていて、すごく楽しいですっ」
加蓮「やった」
菜々「やりましたね!」
藍子「加蓮ちゃん」
加蓮「ん」
藍子「うまく演技ができなくて、オーディション、落ちてしまいました。……また、私にいろいろ教えてください。アイドルのこと」
加蓮「はーいっ」
菜々「ナナも手伝いますよ!」
加蓮「菜々さんはむしろ藍子から演技力を学べば?」
菜々「……それ以外の分野で!」
加蓮「ふふっ、頼りになるね。……ねえ、藍子」
藍子「は、はいっ」
加蓮「藍子は藍子だけど、あんまり後ろ向きにならないでね」
菜々「藍子ちゃんの暗い顔を見てると、ナナまで悲しくなっちゃいますから」
藍子「おふたりとも……で、でも、私はその」
加蓮「まあ藍子には難しい話だよね。しょうがない、私が背中を押そっか」
菜々「笑って済ませたい時にはナナが張り切っちゃいますよ!」
藍子「あはっ……また、お願いします、加蓮ちゃん、菜々さん」
加蓮「そういえば今回は泣かないんだね、藍子」
藍子「大丈夫、今はもっと頑張ろうって気持ちでいっぱいですっ!」
加蓮「そっか。泣きつかれるの嫌いじゃないんだけどなー」
菜々「加蓮ちゃんは今日もお姉さんですねぇ」
藍子「あのっ、ダンス、もう1回いいですか? ううん、あと2回……3回っ!」
加蓮「やめて。死ぬ」
菜々「ナナもあと1回が限界です……!」
藍子「……一緒にやってくれるっていったのに」
加蓮「しょうがない、たまには死のうか」
菜々「ナナ、今のうちにPさんに送ってもらえるよう頼んでおきますね」
加蓮「じゃ、やろっか。今度は藍子がセンターで」
菜々「ナナもたまにはボーカルやらせてくださいね!」
藍子「……じゃあ、おふたりとも……お願いします!」




掲載日:2015年6月4日

 

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