「パッション藍子とクール加蓮」





藍子「ここです。このお店」
加蓮「これは……なんだろ、藍子に似合ってない? いや、似合ってるのかな、むしろ」
藍子「そうですか?」
加蓮「藍子のオススメって言うから、なんかもうちょっとファンシーなお店を想像してた」
藍子「そういうところもよく行きますよ」
加蓮「前に持ってきてた猫柄の櫛とかも、そこで買ったんだっけ」
藍子「一目惚れでしたねっ」
加蓮「あーあるある。今月ピンチなのについ買っちゃったり」
藍子「アイドルをやってても、使えるお金には限りがありますからね」
加蓮「や、うちの場合はむしろ金使えってせがまれるな」
藍子「そうなんですか?」
加蓮「ワガママを言われることが楽しいんだって。変わってるよね」
藍子「うーん……私はなんだか、分かる気がする」
加蓮「……アンタも私に振り回されて楽しそうにしてるよね、なんかいつも」
藍子「だから今日は、私が加蓮ちゃんを振り回しちゃいます!」
加蓮「ん。期待しとく」
藍子「私も、たまにはパッションだってところを見せなきゃ」
加蓮「……えー」

――店内――
藍子「それで、加蓮ちゃんに似合うなって思った時計が……ええと、確かこの辺に……」
加蓮「いろんなのがあるんだね。アパレルっていっても、ここまでバリエーション豊富なのは見たことないかも」
藍子「あ、あれ?」
加蓮「で、藍子は忘れちゃった、と。うん、そうだね、パッションだね」
藍子「ぱ、パッションを頭の弱い子って言うのやめてくださいよっ」
加蓮「あはは、ごめんごめん」
藍子「確かに覚えてるんだけど……ここにあった筈なのに」
加蓮「どれどれ。あー、藍子、これ」
藍子「え? 『毎週月曜日は模様替えの日! セール品・復刻品も大量放出!』……」
加蓮「今日は火曜日だね」
藍子「あうぅ……」
加蓮「なんというタイミングの悪さ」
藍子「ご、ごめんなさい。私、まだこのお店にそんなに来たことがなくて」
加蓮「まあ行き慣れてるって感じはしなかったし、いいじゃん、一緒に探そうよ」
藍子「……はいっ!」
加蓮「その私に似合うって思った腕時計ってさ、どんな感じの?」
藍子「ええと、なんというんでしょうか……黒系のシックな感じで、加蓮ちゃんに似合いそうなカッコイイやつでした」
加蓮「黒系かー。私の着る服ってそういうの多いから、統一しないと難しいんだよね」
藍子「そういえば加蓮ちゃんは、いつも落ち着いた感じの服を着ていますね」
加蓮「この後に夏物でも見に行く?」
藍子「それもいいですねっ」
加蓮「……薄着してるからって、うるさく言うのはやめてよね」
藍子「そ、そこまでは言いませんよ」

加蓮「お……この辺なんか腕時計のコーナーじゃない?」
藍子「ホントですね。あ、加蓮ちゃん、これなんてどうですか! ふわもこアニマルシリーズ!」
加蓮「……シック系が似合う話じゃなかったの?」
藍子「一晩考えて、やっぱり加蓮ちゃんには可愛いのがいいなぁって」
加蓮「そういうのは未央にでも押し付けときなさいよ」
藍子「未央ちゃん、最近は凛ちゃんや加蓮ちゃんを参考にしているって言ってましたよ」
加蓮「……じゃあ卯月」
藍子「卯月ちゃんは、Pさんとコーディネートについて勉強するのがマイブームだって」
加蓮「……茜」
藍子「動きにくいのは嫌だー! って叫んでいました」
加蓮「……………………歌鈴」
藍子「な、なんですごく嫌そうな顔して言うんですか?」
加蓮「いやあ、だって、ねえ?」
藍子「いつも仲良しそうじゃないですか。加蓮ちゃんと歌鈴ちゃん」
加蓮「だって気を抜くとすぐに藍子を持って行こうとするし、あの子」
藍子「歌鈴ちゃんはすごいんですよ。前に私服を見せてもらったんですけど、すごくカラフルでびっくりしました」
加蓮「またそうやって立ち位置を奪っていく。藍子にオシャレを教えるのは私だー」
藍子「そんなこと言わないで、一緒に教えてくださいよ」
加蓮「あっちだって私のこと泥棒猫扱いしてるから無理だね。歌鈴に言って」
藍子「うーん……いつも楽しそうにしてるように見えるけどな……」
加蓮「で、この腕時計か。もういっそ歌鈴でいいから私にグイグイ押し付けてこないでよっ」
藍子「たまにはいいじゃないですか。ねっ?」
加蓮「アンタがたまにはって言わなかった覚えがない」
藍子「もうっ。だったら私が勝手に買っておきますから」
加蓮「はぁ。たまに、だからね」
藍子「やったっ」

加蓮「私はあくまでミステリアスアイドルとして通ってるんだから」
藍子「……?」
加蓮「きょとんとすなっ!」
藍子「私と公園をお散歩していたら、ちっちゃい子たちが加蓮ちゃんだー加蓮ちゃんだーって集まってくるのに?」
加蓮「……あー、うん、まぁ」
藍子「サンタクロースの衣装を着て、子どもたちに笑顔でプレゼントを配っているのに?」
加蓮「あれは例外でしょ。いやあの例外があったからちびっこが寄ってくるんだけどさ」
藍子「そうしたら加蓮ちゃん、いつもちっちゃい子たちのために歌を歌ってあげてるじゃないですか」
加蓮「……別に悪いとは言ってないし」
藍子「クリスマスの時の加蓮ちゃん、ほんと、楽しそうだったなぁ……」
加蓮「藍子には負けるって。たった2時間の話で、別れ際に子供達が泣き出すってどうなのよ」
藍子「加蓮ちゃんだって、後半の1時間はみんなのお姉さんみたいになってたじゃないですか」
加蓮「……自分の子供時代がアレすぎて、なんか誰も彼も問題を一言で解決できそうだったから、つい」
藍子「たまには自分を褒めてあげましょうよ」
加蓮「キツイね。それに、菜々さんには負ける」
藍子「……あれはすごかったですよね」
加蓮「最後には子供達みーんなウサミミつけてたもんね」
藍子「菜々さんのコール、みんなでやってましたよね」
加蓮「みみみんみみみんうーさみん」
藍子「みみみん、みみみん、うーさみんっ♪」
加蓮「永遠の17歳ネタを封印したあたりに菜々さんの本気を見た」
藍子「あ、これなんてどうでしょうか。ちょっと派手ですけど、加蓮ちゃんなら似合うと思いますよ」
加蓮「ネックレスかー。あんまりつけないなぁ」
藍子「あと、これと、それからこれもっ。ええとなんて言うんでしたっけ……パンクファッション?」
加蓮「そこまでいったら私の領域じゃない気がするけどね。でもたまにはいいのかも」
藍子「凛ちゃんと合わせると、すっごくかっこよくなりそうです……♪」
加蓮「藍子こそ、たまにはゆるふわから脱却してみれば?」
藍子「私、ですか? ううん、加蓮ちゃんほど着こなす自信はないです」
加蓮「ちょっとくらい冒険をさ。こういう帽子1つでもだいぶ印象変わるよ?」
藍子「わぷっ」
加蓮「あーでもそうなると服ごと変えないといけなくなるか。とりあえず帽子だけ買って後で合わせてみるかな」
藍子「も、もうっ、だめです。今日は私が加蓮ちゃんを振り回すんですから!」
加蓮「残念ながら夢叶わず」
藍子「やればできるんですっ! ほら、次のコーナー、見に行きましょう!」
加蓮「はいはい」
藍子「ほらほら!」
加蓮「わ、ちょ、押さないでよっ」

――店外――
藍子「はーっ、なんだかとっても疲れちゃいました」
加蓮「気付いたら3時間くらい経過してたねー。結局、例の腕時計は見つからなかったし」
藍子「あうぅ……。また見つかったら教えますね」
加蓮「楽しみに待っとくね。それにしても、はー、お腹すいた」
藍子「近くにパンケーキがおいしい喫茶店があるんですよ。行ってみますか?」
加蓮「んー……ごめん、もうちょっとガッツリ行きたい」
藍子「それなら、近くに低カロリーの定食屋があるんです」
加蓮「そこにしよっか。ってか藍子、この辺にはよく来るの?」
藍子「最近、たまに来るようになったくらいかな……」
加蓮「にしてはなんか詳しいように見えたし。店はそんなに来ないって言ったのに」
藍子「いつか加蓮ちゃんと一緒に来れたらいいなぁって思ってたから、加蓮ちゃんが好きそうなお店はぜんぶ覚えたんです」
加蓮「そ、そう……」
藍子「……? どうかしましたか?」
加蓮「別に……。相変わらず藍子は天然だなぁって」
藍子「あ、ひどいっ」
加蓮「ふふっ。じゃあ行こっか」
藍子「はいっ。よいしょ」
加蓮「たくさん買っちゃったね」
藍子「今月はもう喫茶店めぐりができそうにないです……あはっ」
加蓮「ふふっ。ねえ藍子」
藍子「はい、なんですか?」
加蓮「アイドルって楽しいね」
藍子「はい。本当に、楽しいですねっ」




掲載日:2015年5月17日

 

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