「まずは仲良くなること」





――女子寮・白菊ほたるの部屋――
相葉夕美「いきなりメールで『助けてください』って来るから何かと思っちゃったよ。そっか、晩ご飯がなかったんだね」
白菊ほたる「は、はい……その、ごめんなさい……」
夕美「ううんっ。言ってくれればお弁当を作ってきたのにっ。泰葉ちゃんとスーパーでざっと選んできたんだけど、どう? そのお弁当、美味しい?」
ほたる「すごく美味しいです。……東京は、色々なものがあって。すごいですね」
夕美「あははっ、最初のうちはびっくりしちゃうかもね♪」
岡崎泰葉「…………」モグモグ
夕美「……あの、ところで泰葉ちゃん。おにぎりだけでホントにいいの? お腹、すいちゃわない?」
泰葉「はい、大丈夫です。もともと小食なので……アイドルは長い撮影などもありますし、いつもお腹いっぱい食べられるとも限られませんから」
夕美「そ、そう。今日はもうプライベートタイムだからいいと思うんだけどなー……」
ほたる「アイドルって、やっぱりすごいんですね……! 私も、見習わなきゃ……!」
夕美「あはは……その、できるところからでいいと思うなっ」
泰葉「…………」モグモグゴクン
ほたる「…………」モグ...モグ...
夕美「…………」モグモグ
夕美「……あ、あはは……」
夕美「そ……そうだ! あのねほたるちゃん。この女子寮って確か1階に食堂があるんだ。……あるよね?」
泰葉「……」コクン
夕美「うんっ。それで、もしお腹がすいて部屋に何にもなかったら行くといいよ。美味しいって評判だよっ♪」
夕美「1人が寂しい時はメールしてくれればいいから! 住んでない人もお金を払えば食べれるんだっ。来れる時にはぜったい来るから!」
ほたる「食堂……でもあの、私が使ってもいいんでしょうか……?」
夕美「え? いいと思うけど……?」
ほたる「だって私、まだアイドルになったばかりで……その、先輩の方々とか……それに、私が行ったらどんな不幸が起きるか……」
夕美「うーん……。対策するって言ってもさすがにPさんを女子寮に呼ぶわけにはいかないし、じゃあ今度Pさんに聞いておくね。どうしたらいいかって」
ほたる「はい……すみません」
夕美「謝らなくていいよ、もー」
泰葉「ごちそうさまでした」
夕美「あ、もう食べ終わったんだ」
泰葉「夕方までレッスンをしていたので、思ったよりも体に入りませんでした。1つ余ったので……ほたるさん、どうぞ」
ほたる「え、あ、ありがとうございます……」
夕美「…………」ブスー
泰葉「……?」
夕美「ずるーい。私だって泰葉ちゃんの後輩だよーっ」
泰葉「そんなこと言われても」
ほたる「あの、じゃあ、私がこれ、夕美さんに……私、そんなにお腹空いてる訳じゃありませんから……」
夕美「え? あ、いいっていいって! おにぎりが欲しいんじゃなくて泰葉ちゃんが意地悪だって言いたかったの!」
夕美「私はほら、まだお弁当があるし、食べ過ぎちゃったら体重が……。だからそれは、ほたるちゃんにあげる!」
ほたる「…………」コクッ
夕美「うんうんっ」
泰葉「ふぅ……」
夕美「泰葉ちゃん、お疲れ?」
泰葉「少しだけですけれど……」
夕美「夕方までレッスンなんだったっけ。あ、そうだ! じゃあ今日はみんなでここに泊まっちゃおうよ!」
ほたる「えっ……!?」
夕美「着替えは一度取りに戻ってから! 泰葉ちゃんもどう、いい?」
泰葉「私はいいですよ。明日はオフなので……でも、布団はどうしましょうか」
夕美「それも私が持ってくるよっ」
泰葉「……2人分を?」
夕美「うんっ。大丈夫、ガーデニングをやってると意外と力がついたりするんだよ。泰葉ちゃんも今度やってみないっ?」
泰葉「私は……花の面倒を見るような余裕はありませんから」
夕美「そっかー、残念」
ほたる「えっ、えっ、泊まるって……ここに、ですか……!?」
夕美「? そだよ。あ、もしかしてマズイ?」
ほたる「い、いえっ、でもその……わ……わ……」
ほたる「私といたら……眠ったら、もう二度と起きられなくなるかも……!?」
夕美「い……いやいやいやいやさすがにそこまではっ……起きない、よね?」
ほたる「…………」プルプル
泰葉「夕美さん。あまり急に言うのも、よくないと思います」
泰葉「ほたるさんもお疲れですから……」
夕美「うーん……そっかぁ。じゃあまた今度! ねっ、いい?」
ほたる「は、はい……」
夕美「ごちそうさまっと。急に言っちゃってごめんね」
ほたる「いえ……でも、ありがとうございます……」
ほたる「夕美さんの明るさには、いつも助けてもらってて……その、も、もう少しだけ勇気が出たら……また、誘わせてください……!」
夕美「ほたるちゃん! うんうんっ、楽しみに待ってるよ!」
夕美「もちろん、泰葉ちゃんもねっ♪」
泰葉「はい。楽しみに待っていますね、ほたるさん」
ほたる「泰葉さんも……!」
夕美「あ、そーだ! ねね泰葉ちゃん。今日はうちに泊まっていかない?」
泰葉「私がですか?」
夕美「もう頭が夜の女子会モードになっちゃってて♪ このまま寝てもモヤモヤしちゃいそうだし、ね、お布団並べて一緒にゴロゴロしようよ!」
泰葉「いいですよ。いいですけど……前のように花の話をされても、私、あんまり知りませんよ?」
ほたる「…………」
泰葉「夕美さんは一気に教えてくれますけど、なかなか覚えられなくて……」
夕美「えーっ」
泰葉「ごめんなさい。夕美さんにお話を聞いても、次の日に台本に目を通すと忘れてしまって……。あ、でも、ちゃんと聞きますし、夕美さんの話は面白いですから」
夕美「うーん、ならいっか♪」
ほたる「あ……あのっ!」ビシッ
夕美「おっ、なにかなほたるちゃん♪」
ほたる「あの……その、わ、わ、私……も……」
ほたる「…………私……」プルプル
ほたる「…………」
ほたる「なんでも、ないです…………」
夕美「…………」ミアワセ
泰葉「…………」ミアワセ
夕美「えーっと……その、あんまり焦んなくていいから、ね?」
夕美「あっ、でも寂しい時にはメールしてくれると嬉しいな♪ お泊り会が難しいなら、電話やメールだけでもいいからさっ」
夕美「ほら、ほたるちゃんいきなり1人暮らしになっちゃったし、夜も寂しいと思うから……」
夕美「そういう時は気軽に連絡してね!」
ほたる「……はい。その、すみません、気を遣ってもらって……」
夕美「いいっていいって!」
泰葉「……くすっ」
夕美「ん? どしたの泰葉ちゃんっ」
泰葉「夕美さん、まるでお姉さんみたいですね」
夕美「あははっ。泰葉ちゃん知ってる? ほたるちゃんって、こう見えて13歳なんだよ♪」
ほたる「す、すみませんっ」
泰葉「Pさんが言っていましたね」
夕美「Pさんさー、初めて見た時、私と同じくらいじゃないのかって思ったんだって。失礼だよねっ」
泰葉「Pさんの考えることには、いつも驚かされてしまいますね」
夕美「それそれ! 前も机の前で真剣な顔で悩んでて、何やってるのかなーってこっそり後ろからのぞき見したら私の衣装を選んでたんだって! しかも際どいのばっかり!」
夕美「そういうのはさせないって言ってくれたの、Pさんなのに!」
泰葉「ふふ……。だって、Pさんですから」
夕美「だよね。ほたるちゃんも、苦労させられると思うけど頑張ってね。ノリが分かったらきっと楽しめるから!」
ほたる「ぇ、えぇ!? 今のお話を聞いてると……とても、そんな風には……」
夕美「うーん、きっとそのうちわかると思うよ。ね、泰葉ちゃんっ」
泰葉「はい。慣れれば、楽しめます。……たぶん」
ほたる「たぶん……!?」
夕美「もーっ、ぼそっと付け加えたら不安に思われちゃうよっ」
泰葉「くすっ、ごめんなさい。……大丈夫。アイドルのことをちゃんと想ってくれる、良い方ですから」
夕美「それは間違いないと思うんだけどねー、やり方がこう……正直すぎるっていうかさ。あはは……」
ほたる「はい……。あの、今日はありがとうございました。私、もう眠たくなっちゃって……」
夕美「あ、そうなんだ。……わ、もう9時! ってあれ? 9時? ほたるちゃんって早寝早起きなんだねっ」
ほたる「9時に起きて、5時に起きるようにしていて……そうしたら、少しくらい健康になれるかなって……」
夕美「そっか。私も今日は早く寝ちゃお――あ、でも泰葉ちゃんとお泊り会だから遅くなっちゃうね♪」
泰葉「……私、疲れてるんですけど」
夕美「ちょっとだけだから! じゃあほたるちゃん、お邪魔しました♪ 何かあったらすぐ連絡してね! 飛んでくるから!」
ほたる「ありがとう、ございます……」ペコッ
泰葉「お邪魔しました、ほたるさん」
ほたる「泰葉さんも……ありがとう」ペコッ

<バタ
<お菓子とか買って帰る?
<夜食は、スタイルが崩れてしまうので

ほたる「…………」
ほたる「…………い……いい人たち、です……私のことも、不幸だからって避けたりしないで……!」
ほたる「…………」
ほたる「…………」ムンッ


掲載日:2015年11月23日

 

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