「まずは前を向くこと」





――レッスンスタジオ――
トレーナー「……はい、ストップ! 思ったよりも基礎はできていますね。これなら、すぐにLIVEに出られますよ!」
白菊ほたる「あっ、ありがとうございます……」
トレ「以前は別の場所に所属していたんですよね? もしかしてけっこう長く?」
ほたる「いえ……あっ、はい。最初のところは1年くらいで……それからは、半年くらいで倒産しちゃいましたけど」
トレ「ま、前にも聞きましたけどやっぱりすごいですね……」
ほたる「あっ……く、暗い話ですみません」
トレ「いえいえ。トレーナーやってるといろんなアイドルを見ますからね〜」
トレ「とにかく、基本的なところはだいぶんできてますよ。次回にやる予定だったレッスン、前倒しにしてしまいましょうか!」
ほたる「は、はいっ、お願いします!」

<ガチャ

ほたる「?」チラッ
岡崎泰葉「あ、どうも……。Pさんに様子を見て来てほしいと言われたので。私も、見ていっていいでしょうか?」
トレ「岡崎さん。はいっ、どうぞ。なんなら一緒にやりますか?」
泰葉「いえ。今日は準備してきていませんし、私まで一緒にやってしまうとPさんの頼みを聞けなくなってしまいますから」
ほたる「…………」オドオド
泰葉「……?」
ほたる「い、いえっ……あの……先ほどは、どうも……」
泰葉「え、ええ。どうも……」
トレ「白菊さんすごいんですよ? もうだいたいのことはできていて。プロデューサーさんにも、これなら安心できる! って伝えておいてください!」
泰葉「はい。Pさんもきっと安心できます。あ、でもやっぱり少し見ていっていいですか?」
泰葉「私も……その、後輩ができたので、少し気になっているんです。実は」
ほたる「そ、そんな。私なんてまだ入ったばっかりの候補生ですから……」
泰葉「候補生でも、アイドルはアイドルです。私に何か教えられることがあれば、教えておきたいです」
トレ「ふふ、もちろん歓迎ですよ。じゃあ白菊さん、もう1度やりましょうか」
ほたる「はいっ……!」


――5分後――
トレ「うーん……さっきまではもっと上手にできていたはずなのに。緊張しちゃってます?」
ほたる「す、すみませんっすみませんっ……」
トレ「岡崎さんが見てるから、緊張しちゃってるのかな……?」
ほたる「それは……はい。先輩の方に見られてしまうと、どうしても身が竦んでしまって……」
ほたる「あ、でも、アイドルって見られることがお仕事ですよね。見られるのが……お仕事……」
ほたる「……わ、私なんて見てても、面白くないかもしれないですけど……!」
トレ「あらら……」
泰葉「…………」フム
泰葉「じゃあ……こうしてみましょう」スタスタ
トレ「岡崎さん?」
泰葉「私も、トレーナーさんの隣に。これで、トレーナーさんが2人になったって思ってください」
泰葉「お客さんではなくて、トレーナー。それなら、少しは楽になれますか?」
ほたる「…………」
トレ「お……岡崎さんに並ばれると私まで緊張を……」
泰葉「え」
トレ「ごほんっ! で、では白菊さん。もう1度やってみましょう!」
ほたる「は、はい!」


――5分後――
トレ「さっきよりはよくなった……のかな? どうですか岡崎さん。白菊さん、いい感じだと思いません?」
ほたる「…………っ」ビクビク
泰葉「…………」フム
泰葉「所属したばかりとしては、すごいと思います。色々と、教えがいがありそう……なんて、思ってみたりしました」
トレ「よかったですね! 白菊さん。先輩アイドルのお墨付きをもらえましたよ!」
ほたる「は、はい! ありがとうございます……!」
泰葉「ふふっ」
トレ「どうですか? 岡崎さん。何か教えられそうなこととかは?」
泰葉「そう……ですね。技術的な話はトレーナーさんが教えた方がいいとは思います。ただ、私から1つだけ」
ほたる「……っ」
泰葉「…………?」
泰葉「……アイドルは、いつでも胸を張りましょう。失敗してしまった時も、上手くいかない時も」
泰葉「ほたるさんのことは……まだ、よく分かりませんが」
泰葉「ずっと下を向いてしまっているよりは……前を向いた方が、いいと思います。いつか来るLIVEの時も、握手会のようなイベントの時も」
ほたる「前を、向く……」
泰葉「前を向いて、ファンの顔が目に入った時……アイドルが何かということが、おのずと分かると思います」
泰葉「私は、この世界でそれを教えてもらいました。だから、ほたるさんにも知ってもらいたいです」
ほたる「…………」
泰葉「……ちょっと偉そうになっちゃいましたか……?」
ほたる「いえ、そんな……」
トレ「いやいや、さすが岡崎さんですよ! 白菊さんも。まずは前を向きましょう。大丈夫、失敗したらまたやればいいだけです!」
ほたる「は、はいっ」
ほたる「……私、昔からずっと後ろ向きで、失敗して怒られてばっかりで……その、すぐには難しいかもしれません」
ほたる「でもやってみます! そのっ……はい、頑張ってみます!」
泰葉「頑張ってください、ほたるさん。一緒に舞台に立てる日、楽しみにしてますね」
ほたる「えっ……!?」
泰葉「……あれ?」
トレ「ふふ。白菊さんはまだ入ったばっかりですから。すぐには想像できないかもしれませんね」
泰葉「あっ……ふふ。すぐに分かりますよ。きっと……」
泰葉「私、戻ってPさんに知らせてきますね」
トレ「はい。しっかり伝えておいてくださいね!」
泰葉「ふふっ、もちろんです」
泰葉「それから、私もレッスンスケジュールも確認しなきゃ」
泰葉「先輩として……後輩には、負けられませんから」
ほたる「あ! ……あのっ、……ご、ごめんなさい、こんな私の為に時間を……!」
泰葉「……? いえ、Pさんの頼みですし……私にとってもいい時間でしたよ」
トレ「白菊さんは自信をつけるところからですね」
ほたる「はいっ……!」


――事務所――
アホP(以下「P」)「お帰り泰葉! すまないなぁ俺が行ければよかったんだが急に電話が来て!」
泰葉「いいえ。電話は大切です。それに、私も見に行けてよかったと思います」
P「そうか! どうだった、ほたるは? 泰葉的にはどうだ。俺はまずほたるに自信をつけてもらってそれからいろんなことをやらせてみたいんだが……」
泰葉「トレーナーさんも、同じことを言っていました」
P「そっかー。どうしたら自信をつけてもらえるだろうか。もっとガンガン行った方がいいのか? こう、夕美相手みたいに遠慮なくいった方が……ああでもまだそこまでは勇気が!」
泰葉「……。それは、もう少し後の方がいいと思います。ほたるさんが、もうちょっとここに慣れてからで」
P「そうか、じゃあそうしよう!」
泰葉「…………」
泰葉「あの、Pさん」
P「おう?」
泰葉「私って……そんなに恐いですか?」
P「……はい?」
泰葉「いえ。ほたるさんからやけに怯えられてしまって……私はただ、真剣にやった方がいいかと思って話していただけですが」
泰葉「もしかして私、恐がらせてしまったかと……」
P「あー、どうだろ。いや俺も何かにつけて謝られるし……泰葉だけって訳じゃないと思うけど……」
P「……あ! い、いやいや泰葉。そんなことないぞ! 泰葉はいつだって真剣だからな! でもほたるはまだ来たばっかりで、しかもほら、こっち暮らしも始めたばかりだからさ! だから今はちょっとだけ不安になってるんだ。泰葉が悪いんじゃない、そう、時間が解決するんだ!」
泰葉「そうですか。それならいいのですが」
泰葉「……でも、もう少し安心してもらえた方がいいのでしょうか。こう……ええと……こんな、風にっ?」ニコッ
P「」ズキューン
泰葉「それとも……こんな感じ?」ニパッ
P「」ズキューン!
P「」バタッ
泰葉「……あれ? Pさん?」
泰葉「…………」
泰葉「…………???」


掲載日:2015年11月22日

 

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