「まずは無事にここに来ること」
――事務所――
アホP(以下「P」)「ほっ」ペタリ P「ほっ」ペタリ P「ほっ」ペタリ <ほら、到着♪ <……本当に、何事もなく……よかったです P「お?」 <ガチャ 相葉夕美「おはようございまーす♪ ほたるちゃん、しっかり連れてきたよっ」 白菊ほたる「あ、あの……おはよう、ございます」ペコッ P「おーおはよう夕美。ほたるちゃん――じゃなかった、ほたるも」 夕美「もうっ。ほたるちゃんは今日からこの事務所の子なんだよ。あれほど熱心にスカウトしたのに、Pさんひどくないかな?」 P「す、すまんすまん」 夕美「ところで何やってるの? テーブルの前にしゃがんで。何か落としちゃった?」 P「ふっふっふ……これを見ろ!」ジャーン ほたる「…………それは?」 P「ちょっと前に流行ったコーナーパッドだ! ほら、赤ちゃんがいる家なんかがテーブルの隅にくっつけるってヤツ」ペタ P「これで膝を角にぶつけても問題なし! 実証済みの信頼できる品だぞ?」ペタ 夕美「実証済みって……もしかしてPさんやっちゃった?」 P「ちょっと触っただけで壊れる物を大事なアイドルがいる場所に使う訳にはいかんからな」ペタ P「よし、貼り終えた。あとは何が考えられるかな……」ウーン ほたる「……?」 夕美「Pさん。ほたるちゃんがよく分からないって顔しちゃってるよっ」 P「うーん……ん? ああ、これはだな。……って本人を前にして言うのハズイんだが」 P「言うならば……そう! 俺は時々こうやって不思議なことをやるからな。この事務所に来たからにはまずそれに慣れてもら、」 夕美「あ、私分かった!」 P「分かるな!」 ほたる「ふ、不思議なことを……?」 夕美「ううん、違う違うっ。まーPさんが時々おかしなことをやるのはホントだけどねっ」 P「オイコラ! ……って自分で言った以上、撤回ができんじゃないか!」 夕美「Pさんね、たぶん全力で対策してると思うよ。今のは、ほたるちゃんが角に足をぶつけちゃわないようにだね♪」 P「しかもなぜ言う! 傷跡に塩を塗りこんで楽しいか夕美イイイ!」 ほたる「私の……ために?」 夕美「うんうんっ。ほたるちゃんのアンラッキーは、対策すれば不幸にならなくて済むって分かったんだもん。Pさんならほっとく筈がないよ」 ほたる「私のために……」 P「だから、だからな夕美! そういうのは言わないうちが華なんだって! カッコ悪いだろそーいうの!」 夕美「ぜんぜんかっこ悪くないと思うけどな。それにPさん、分かりやすすぎて隠しきれてないよ」 P「なあああああ!」 ほたる「あ、あの、ごめんなさい……私が、不幸なばっかりに……」 P「おろ」 夕美「あははっ、ほたるちゃんはすぐ謝っちゃうね」 ほたる「うぅ……」 P「ほたるちゃ、じゃない、ほたる。前にも言っただろ? それは不幸じゃなくて不運だ」 P「バッドラック、イズ、チャンス! よし決めた。ほたるの最初の課題はそれだな! アンラッキーをチャンスと思えること!」 ほたる「不幸……ううん、不運は、チャンス……。そう考えるのは難しいかもしれません。私、昔からずっとこうで……」 夕美「うーんっ。Pさん、それはちょっと時間がかかっちゃうかもね。もうちょっと簡単な課題の方がいいんじゃない?」 P「そうだな。じゃあまず、毎日この事務所に来ること! これがほたるの最初の課題だ!」 ほたる「は、はいっ」 P「そうやって毎日来ることができれば、不運が起きても大丈夫だって思えるだろ?」 P「あ、俺が巻き込まれるのはぜんぜん大丈夫だ。ナイル川の底に沈む未来くらいは想定済みだからな」 ほたる「え……!?」 夕美「……Pさんね、ほたるちゃんをスカウトする前に色々考えたみたいなの。で、どうしてかぜんぶこういうバッドエンドになっちゃうみたい」 ほたる「それは……やっぱり、私が関わってしまうから……?」 P「いや俺の妄想力が逞しすぎるせいだ」 夕美「あ、それ認めたんだね」 P「お陰ですっかり、俺の中でほたるは俺をあの手この手で堕とそうとする概念的な何かになりつつある」 夕美「Pさん失礼だよ! ほたるちゃんは女の子だよ?」 ほたる「あはは……でも、そんなに変わらないかも……」 夕美「違うよーっ。ほら、今日だって事務所に来ることができたもん! 途中で何もなかったのっ」 P「おお、さすが夕美。早くも課題1日目をクリアするとか。しかも俺が言う前なんて分かっているな! さすが俺の嫁!」 夕美「お断りしますっ♪」 ほたる「やっぱり、夕美さんってプロデューサーさんの――」 夕美「Pさんが勝手に言ってるだけだからね? 違うからね? ……Pさん。外堀を埋めたって顔するのやめてください」 P「おおっと」 夕美「今日はホントに何も起きなかったんだ。もしかしたら今日の私ってすっごく運がいいのかもっ」 P「そういえば今日の星座占いは確か、牡羊座が1位だったな」 夕美「あれ、そうなの?」 P「ああ。牡羊座が1位で蟹座が10位。泰葉は大丈夫かなぁ……」 夕美「チェックしてたんだ……」 P「もちろんだとも! 大事な大事なアイドルの星座占いを確認しないプロデューサーがどこにいる!」 夕美「うーん……??」 ほたる「あの……」 P「お、そういえばほたるって何座なんだ? 何座っていうより誕生日は……」 ほたる「私も、牡羊座です……」 夕美「そうなの!? 私と同じなんだ! じゃあ、今日ってホントにラッキーな1日かもっ♪」 ほたる「そうだとしたら……明日以降は、また……!?」 P「おいおい夕美。あんまりほたるが不安になることを言わないでくれ」 夕美「え、これ私が悪いの!?」 P「しかし仮に今日のラッキーが星座占いのお陰だったら……」 夕美「Pさんも言ってるじゃん! それにそもそも星座占いってそんなにスゴイものだっけ!?」 P「夕美に任せたい気持ちはあるが、しかし夕美が心配というのもある。よし決めた! 明日は俺がほたるを迎えに行く!」 ほたる「……え、えええ!?」 P「なーにたかが女子寮からここまでだ。ついでにほたるの引っ越しが無事に済んだかの確認も、」 夕美「そっちは私がやりました。ちゃーんと完了してますっ」 P「…………」 夕美「ガッカリしないでよ……。そういうのはぜんぶ私に任せてね。アイドルのことは……泰葉ちゃんに任せちゃおっかな?」 ほたる「泰葉、ちゃん……?」 夕美「この部署ね、もう1人アイドルがいるの。泰葉ちゃんっていうすごい子! 昨日から泊りがけのロケだから……明日来たら会えるかな?」 P「昨夜と今朝も連絡をしてみたが順調だそうだ。ま、泰葉だから当然だな!」 P「それよりも不安なのはスタッフだ。泰葉は周囲への気遣いも完璧だからな。だがそれはプロのアイドルとしてのこと。まさかコロッとやられる奴がスタッフにいるとは思いたくないが……」 P「いや、スタッフを魅了してこそアイドルか! ……だがそのせいで泰葉に変な気持ちを抱く奴がいたら……ああでも……!」 夕美「うん、今はほたるちゃんのお話だよね?」ジトー ほたる「え、ええと……」 夕美「あははっ、ごめんね? 基本ここはこんな感じっていうか、割と好き勝手にやってるからっ。主にそこの人が」 ほたる「みたい、ですね……?」 P「そこの人て」 夕美「私もだよっ。だから、ほたるちゃんも好きなようにやってね。ふふっ♪」 ほたる「……ええと……」 P「ハッ! 俺ちょっと用事ができたから出かけてく――」 夕美「はいPさん、今日はほたるちゃんのお話だよね? いろんな手続きをしたりトレーナーさんに紹介したり」ムギュ P「そうでした」 ほたる「…………えっと……」オロオロ P「さー、今日もやるか!」 夕美「私も午後まで時間があるから、ほたるちゃんと一緒にいるねっ」 ほたる「は、はい……」オロオロ |
掲載日:2015年11月21日
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