「  と熱血の関係」





- SIDE Shinobu -
レッスンスタジオの出入り口で入り口で加蓮とすれ違った。
アタシは何も言わなかったし、加蓮も何も言わなかった。


――レッスンスタジオ――
工藤忍「はっ、はっ……」タンタン
女性P(以下「P」)「あー忍、やっぱりここにいた」
忍「あ、Pさん……。自主レッスンさせてもらってるよ。今日はオフだけど、部屋にいてもじっとしてられなくて」
P「うんうん、今日も忍はやっぱり忍だ。おねーさん安心……でもちょっと気合入れすぎじゃない?」
忍「そう? アタシはいつも通りのつもりだよ……あ、でも今はいつもより燃えてるかも!」
P「うんうん、よく分かるわぁ。……その……やっぱり気にしてたり? 掲示板の書き込み……」
忍「……………………」コクン
P「だ、だよねぇ。でもおねーさん気にしすぎるのはよくないと思うぞー? ああいうの気にしてたらキリがないっていうか、ほら、どーんと構えてやりなさいっていうか」
忍「何言ってんのPさん。Pさんは少し呑気すぎだよ」
P「え」
忍「あんなこと言われてじっとしてるなんてアタシにはできないよ! そりゃ凹みもしたし、あれだいたいアタシのせいだからって落ち込みもしたけど……」
忍「だけど、それがエネルギーになるんだ。負けるもんか! 次こそびっくりさせてやる! 負けたまんまでいるなんてつまらないもんね!」
P「そ……そっかそっかー、よかった。まだ落ち込んでたらどうしよって思ってたんだけどいい方法がなくてねぇ」
P「元気づける方法とか励ます方法とか、おねーさんなかなか思いつかなくて。はーっ、プロデューサーとして情けないわー」
忍「Pさんに気の利いた言葉なんて期待してないから大丈夫だよ」
P「え、さり気なく酷いことを……これでもおねーさん、友達からよく相談されるんだぞ? 相談マイスターって呼ばれてるんだぞ?」
忍「あ、そういうことじゃなくて、Pさんには私の背中を押してほしいんだ。下手に慰めてくれるより、アタシはその方が嬉しいから!」
P「よーし、それならおねーさんは忍をグイグイ押しちゃうぞっ。でもホントよかった。忍が落ち込んで、もう頑張れない、とか言ったらおねーさんマジでどうしようもなかったから」
忍「Pさん心配性だね……。アタシがそんなこと言う訳ないのに。それにPさんは情けなくなんてないよ。Pさんがいなかったらアタシ、ここでアイドルをやれてないんだもん」
忍「アタシが頑張れるのはPさんのお陰。だから、あんまり自分を責めたりしないでよ」
P「そ、そおかしら? まったくこの子ったらそういうのどこで覚えてくるのかしら、まったくー」
忍「そういう世話焼きおかんみたいなのはちょっとウザいけど……」
P「う、ウザ!? ……ごほんっ、今のは聞かなかったことにするわ」
忍「でも、そんなに心配ばっかりしなくてもアタシは大丈夫だよ」
P「大人になるといろいろと経験豊富になるのよ! しょうがないじゃない!」
忍「じゃあ、アタシの分までPさんが心配してくれるってことで! それならアタシ、余計なことを考えなくて頑張れそうだから……」
忍「くよくよしてたらレッスンにも身が入らなくなるもん。頭をすっきりさせてからやりたいもんね♪」
P「オッケー。めんどくさい部分はおねーさんがぜんぶ背負ってあげる。忍は前だけ向いて、負けん気で頑張ろっか!」
忍「うんっ! 次のLIVE、絶対にあんなこと言わせないようにするから! その……期待しててくださいっ♪」
P「頑張れ、努力の子!」グッ
忍「頑張るぞー!」オ-
P「さって、今日はおねーさんもう帰るけど、忍はまだいる? いるなら電気とかお願いするけど……あ、でも一緒に帰る人がいないっか」
忍「? アタシは1人でも大丈夫だよ?」
P「いやいやそんな訳にいかないわよ。女の子でしょー? しかもアイドル。女子寮まではすぐだけどさすがにねー。都会の夜は物騒だもん。誰かいるといいんだけどなー」
P「あそうだ、確かアイツ今日は残業するって言ってたっけ。自主レッスン終わったらアイツんとこに行ってよ、ほら、アイツんとこ」
忍「……? 誰?」
P「ほらー、だから、加蓮ちゃんとか藍子ちゃんのプロデューサー」
忍「うん、分かった。よーしっ、もう一頑張りするぞーっ!」
P「おー!」
忍「〜〜♪ 〜〜〜〜♪」
忍「……………………」
忍「〜〜〜〜〜〜♪」


――翌日・レッスンスタジオ――
喜多見柚「す、ストーップ! 忍チャン気合入れすぎ! ちょっと休憩しよっ、ね、ね!」
忍「柚ちゃんは先に休んでていいよ。アタシはもうちょっとやるから」
柚「それ4回目! 忍チャンがやってたら、なんかアタシまでやらないといけないってなっちゃうじゃん!」
忍「気にしなくていいんだけど……それにまだまだ休憩なんていらないよ。もっともっとやりたいんだ!」
柚「ずっとやってたらクタクタになっちゃうぞーっ!」
忍「じゃああとワンセット! ワンセットだけ! そしたら休憩するから……」
柚「絶対だよ?」

……。

…………。

柚「休憩するって言ったじゃん!」
忍「え? ……あ、そうだっけ」
柚「アタシまでつられてやっちゃったよ! も、もうへろへろ……。休憩! 休憩ったら休憩!」
忍「柚ちゃん。うるさい」
柚「なにおー!?」
忍「ううん、やっぱりダンスの自主練は時間がかかっちゃうな……でもま、できるまでやる! 今日はそう決めたからっ」
柚「アタシの体力を考えろーっ!」
忍「いや、だから柚ちゃんは休んでていいんだってば」
柚「だって忍チャン見てたら体が勝手に動くし! うう、明日絶対に遅刻だ。朝起きられなくて学校に遅刻しちゃうっ」
忍「柚ちゃんって朝弱かったっけ? 今度、アタシと一緒にジョギングしてみる?」
柚「この上まだ疲れさせようとするかー! も、もうアタシっ忍チャンにはついていけません!」
忍「だからついてこなくていいんだって」
柚「体が勝手についてくの! どうしようもないじゃん!」
忍「ワガママだなアンタ……」
柚「……ハッ! 忍チャンはきっと何かに取り憑かれてるんだ! こう……何かに!」
忍「はあ?」
柚「そして忍チャンが過労死するまでずっと暴れ続けるんだ! 忍チャンに取り憑く何かよー、出て行くがよいー、さもなくばー」
忍「…………さもなくば?」
柚「なんか悪いことが起きるっ」
忍「…………いや、アタシは正常だから」
柚「どうみても異常! もうこれで何時間くらい自主練してんの!? アタシお昼から来たけど朝からやってるんだよね!? おやつに抜けて遊んでから帰って来てもまだやってるし!」
忍「アタシの自主練ってだいたいこんな感じだよ? Pさんからもやり過ぎって言われることあるけど……」
柚「ほら!」
忍「でもこれくらいやらなきゃトップアイドルになんてなれないよ! Pさんだって応援してくれてるし……アタシより頑張ってる人だっていると思うし、それに今は……とにかく、続き続きっ」
柚「あ、ありえない。だってもう夕方だしっ……アタシ先に帰るからね! 帰って晩ご飯!」
忍「お疲れ。さて、もう1回最初から――」

……。

…………。

柚「はっ! ついアタシまで踊っちゃっ」バタッ
忍「……? どしたの柚ちゃん?」
柚「もー無理。動けない。歩けない。Pサン呼んで。運んでもらう」
忍「そう……。じゃあちょっと呼んでくるね」

……。

…………。

忍「さて、うるさい柚ちゃんは帰ったし……ちょっとだけスポドリをっと」ゴクゴウ
忍「ふうっ……よし、もっかい!」
忍「〜〜〜♪ 〜〜〜〜♪」タッタッ
忍「……ううん、まだまだ! これができたくらいで浮かれてたら駄目! もっと頑張らなきゃ!」
忍「〜〜〜〜〜♪」


掲載日:2015年11月17日

 

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