「霧中と  の関係」





- SIDE Karen -
会議室への廊下で忍とすれ違った。
私は何も言わなかったし、忍も何も言わなかった。


――会議室――
男性P(以下「P」)「こっちがCM撮影の台本で、こっちが音楽番組の段取り。一気にやるから大変かもしれないが、どうだ、大丈夫か?」
北条加蓮「うん、大丈夫」
P「これから年末に向けてまた忙しくなるからなぁ……。でも、体力がヤバくなったら言ってくれよ?」
加蓮「うん」
P「ついでに定例LIVEの演目も考えとくか。例の新曲披露の予定だけどレッスンの方は――」
加蓮「順調だよ」
P「そうか。よし、大丈夫そうだな。じゃあ、今週もよろしく頼むぞ、加蓮」
加蓮「うん」
P「…………」
加蓮「…………? 何?」
P「いや……ちゃんと聞いてる、よな? 反応が薄いからちょっと不安になってしまって」
加蓮「ん……ごめん、ちょっとぼうっとしてた。あ、違う違う、体調はおかしくないし熱もないから!」
加蓮「それにPさんの話はちゃんと聞いてるから大丈夫だよ? Pさんからもらった仕事だもん。ちゃんとやるよ」
加蓮「何か足りないことがあったら言って。レッスンでも何でもやるから」
P「いや……いや、大丈夫だよ。今はあんまり無茶せずやっていこう。1つ1つ、目の前のことに集中して――」
加蓮「分かってる。ありがとねPさん」
P「…………」
加蓮「他には何かあるの?」
P「……加蓮」
加蓮「何?」
P「お前さ――」
P「いや、……なんだ、最近どうだ?」
加蓮「最近どうって、毎日見てるじゃん。そんなに変わったことないよ」
P「……そっか。じゃあミーティングはこれで終わりだ。今日はもう予定ないんだよな? どうする、送っていこうか?」
加蓮「ううん、いい。藍子を待ってるから」
P「そうか。藍子はもう10分もしたら帰ってくるだろうし……ま、なんかあったら言ってくれ。打ち合わせはあるけど、電話くれたらすぐ戻るから」
加蓮「うん」

加蓮「分かってる」


――事務所――
高森藍子「ただいま戻りましたっ」
加蓮「お帰り、藍子。収録お疲れ様」
藍子「加蓮ちゃん! お疲れ様です。今日はいつもより上手くできたんですよ。NGも1回だけで終わって……」
藍子「収録が予定よりだいぶ早く終わってしまって、スタッフさんみんな驚いちゃってましたっ」
加蓮「そっか。すごいね」
藍子「……加蓮ちゃんは明日からCMの撮影ですよね。私、テレビで見るのを楽しみにしていますね」
加蓮「ありがと」
藍子「…………」
加蓮「……何?」
藍子「いえ。あ、そうだ、加蓮ちゃん何か飲みますか? 私、ついでに用意してきちゃいます」
加蓮「いいよ。っていうか私が用意するよ。藍子は今帰ってきたばっかりなんだから座って待ってて。何がいい?」
藍子「じゃあ、ジュースがあったら。ちょっと疲れちゃったので、甘いのがいいな……」
加蓮「うん」

<スタスタ...

加蓮「はい」つジュース
藍子「ありがとうございます……あれ? 加蓮ちゃんは何も飲まないんですか?」
加蓮「うん。よく考えたら別に喉も乾いてないし」
藍子「はぁ……」ゴクゴク
藍子「ふうっ。今日も1日、お疲れ様でした、私♪ ふふ、なんちゃってっ」
加蓮「お疲れ様」
藍子「今日はどうしようかな……」
加蓮「…………」
藍子「そうだっ。もしPさんがいるなら、晩ご飯を一緒に――」
加蓮「Pさんなら打ち合わせに行ったよ。今日はそのまま帰るんだって」
藍子「あ、そうなんですか……」シュン
藍子「じゃあ……加蓮ちゃん、一緒に行きますか? ほら、前に菜々さんと行ったファミレス。今日は菜々さんがいないから、私だけになっちゃいますけれど……」
加蓮「うん、いいよ。私も予定ないからもう行く?」
藍子「はい、そうしちゃいましょう。あっ、これを飲んでからで……」ゴクゴク
加蓮「…………」
藍子「……あ、あんまりじーって見られると、ちょっと飲み辛いですっ」
加蓮「ああ、ごめん」フイッ
藍子「…………」ゴクゴク
加蓮「あ、そうだ藍子。今日さ、藍子の家に行っていい? ファミレスの帰りに」
藍子「今日、ですか?」
加蓮「うん」
藍子「じゃあ、ちょっとお母さんに電話してみますね」ポチポチ
藍子「あ、もしもし、お母さん? 加蓮ちゃんが泊まりたいって言うんだけれど今日は――うんっ、分かった」ピッ
藍子「大丈夫みたいです、加蓮ちゃん」
加蓮「じゃあお邪魔するね。ごめんね、こんな時間にいきなり言って」
藍子「いえっ。私はいいですけれど……」
藍子「……加蓮ちゃん、確か昨日も菜々さんの家に泊まったって聞きましたけれど……大丈夫なんですか? 加蓮ちゃんのお母さんとか、何も――」
加蓮「連絡してるから平気」
藍子「……そうですか」
加蓮「…………」
藍子「……あの、ゆ…………」
藍子「ファミレス、行きましょうかっ」
加蓮「うん。行こっか」

<バタン


――路上――
藍子「…………」テクテク
加蓮「…………」テクテク
藍子「…………」テクテク
加蓮「…………」テクテク
加蓮「あのファミレスのハンバーグ、美味しいよね」
藍子「え? あ、はいっ、美味しいですよね」
加蓮「藍子が注文したの、一口だけもらった時にさ。次に来た時は絶対これ注文しよって決めてるんだ」
藍子「じゃあ、今度は私が一口もらっちゃいますっ」
加蓮「うん」
加蓮「…………」テクテク
藍子「…………」テクテク
藍子「今日は加蓮ちゃん、あんまりお話しないんですね」
加蓮「そう?」
藍子「はい。いつもは、色々なお話をしてくれて……寝る前に思い出したりするんです。あ、そういえば今日は加蓮ちゃんがあんなことを言ってたな、って」
加蓮「そういう気分の時もあるよ。気になるなら藍子が喋ったら? 私、ちゃんと聞くし」
藍子「……うーん、何か面白いお話でもあればいいんだけれど」
加蓮「いきなり振られても困るよね」
藍子「途中でファミレスについちゃいそうだから……向こうについて、料理を注文してから、待っている間にいっぱいお話ししましょう。あんまり、面白いお話はできないかもしれませんけれど……今日は、加蓮ちゃんの分まで、私が」
加蓮「うん」
藍子「…………」テクテク
加蓮「…………」テクテク
加蓮「いつも通りの1日だったんだ」
藍子「……?」
加蓮「撮影行って、Pさんとミーティングした。年末に向けて忙しくなるからって。で、Pさんが心配してた」
加蓮「明日にはCMの撮影があるし、また今度、藍子と一緒にやるLIVEもある」
加蓮「クリスマスシーズンの予定もだいたい組まれてて……今年も、サンタ役をやることになりそう。子供相手に、いっぱい夢を配らなきゃね」
加蓮「ぜんぶ、いつも通りの1日だったんだ」
加蓮「なんにも変わらない、いつも通りの1日」
藍子「……それなら、どうして加蓮ちゃんはそんなに悲しそうな顔をしているんですか?」
加蓮「さあ……なんでだろうね。でも、何かあったとしても……何があったんだろう、私」
加蓮「……分かんないや」
藍子「加蓮ちゃん――」
加蓮「何?」
藍子「……ううん、なんでもないです。あ、着きましたファミレス! 私は何を注文しよっかなぁ♪」
加蓮「…………」
藍子「加蓮ちゃん?」
加蓮「ん……」ボー
藍子「……食欲がないなら、今日はやめちゃいましょう。家に帰って、今からならサラダくらいは。お野菜なら、食べられますか?」
加蓮「うん……ごめん」
藍子「いいえ。じゃあ、今日は早めにお風呂を済ませて、早めにお布団に入っちゃいましょう。ねっ」
加蓮「そうだね」



掲載日:2015年11月16日

 

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