「俺のパターンは64までしかないぞ」





――事務所――
アホP(以下「P」)「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜む」

俺はP。先日、夕美のLIVEの為に北海道を訪れ、そこである少女と出会った。
一目惚――もといアイドルとして売り出したいと思って俺は早速スカウト。向こうもアイドルに興味があったっぽいし、これは来た!
と思ったが……結果は失敗。
アイドルをやる楽しさを伝えきれなかった。許されない失敗だ。これで退く訳にはいかない。
だが、いい方法があるかと聞かれると――

P「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っむ」

<ガチャ

相葉夕美「おはよーっ♪ あ、Pさん! 早いんだねっ」
夕美「私、今日は早起きしちゃったから花の世話をやってから来たんだけど、それでもけっこう早かったから誰もいないかもって思ってたのに」
夕美「なんだかんだPさんはさすがだよっ。今日も、よろしくお願いしますっ」
P「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜む」
夕美「……き、聞いてない……」
夕美「おーい、Pさーん? おーい」ユサユサ
P「う〜〜〜〜〜〜〜む」ユサブラレ
夕美「うっそぉ、これでも気付いてないや……。あっ、そうだ♪」ガサゴソ

……。

…………シャクッ

ん? なんだろうか。何か甘い物をかじったような、

夕美「あ、気付いた?」
P「のわあっ!?」ガターン!
夕美「わっ!? び、びっくりした……」
P「ふみ(夕美)っ、おまへ(お前)なぁ……ん?」
P「なんじゃこら? ……ポッキー?」
夕美「そう。11月11日、ポッキーの日ですっ♪ Pさんぜんぜん気付いてくれないから、もしかしたらポッキー出したら食べてくれるかなって思ったんだけど」
夕美「ひっくり返るくらいポッキーが食べたかったの? ふふっ、そこまでとは思わなかったなっ♪」
P「いやひっくり返ったのはいきなり夕美が現れたからで――」
P「…………」
P「ポッキーゲーム!?」
夕美「誰がいつそんな話をしたの!?」
P「だ、駄目だぞ夕美、そういうのはその、あの、ほ、ほら、夕美はアイドルだろ!?」
夕美「誰もやるって言ってないよ!? 私はただ普通にポッキーを食べようってPさんの口元に持っていただけで、」
P「夕美のあ〜ん!?」
夕美「今度はそっち!?」
P「な……なぜだ、なぜ俺はそんな大切な時に意識を飛ばしてしまっていたんだ〜〜〜〜〜っ!」
夕美「知らないよ……。Pさん何か悩んでたみたいだけど……もしかして、ほたるちゃんのこと?」
P「そう、そうほたるちゃんだ。どうやったらアイドルに誘えるか考えたんだけどな……」
夕美「思いつかなかった?」
P「思いつくことは思いついた。今さっきちょうど63パターン目をシミュレーションしてみた」
夕美「そんなに!? そ、それでどう? 上手くいきそうっ?」
P「結果、なぜか俺が北極送りにされていた」
夕美「…………なんで?」
P「分からん。1つ言えることはヤツは強敵だということだ。強敵……だが、それを倒してこそ男ってものだ! 強敵と書いてライバルとルビを振ろうぜ、夕美!」
夕美「ごめん、私女の子だからその辺はちょっと分かんないや」
P「夕美が冷たい」
夕美「……そういえば私はいつも通りにレッスンしてていいの?」
P「ん? 何か問題か?」
夕美「ううんっ、問題はないけど……ほら、Pさん、あのLIVEの後に失敗だって言ったじゃん。この失敗は許されない、って」
夕美「でも私、あれから普通にレッスンするようにってしかPさんに言われてないけど……いいのかな、って」
P「いいんだよ。まだ今は俺が悩む時期だ。方針を決定してからが夕美の仕事だぜ」
夕美「そっか……。じゃあ、Pさんにお任せするよっ♪ でも悩みすぎは駄目だよ? 体を壊しちゃったら元も子もないんだからっ!」
P「おう、夕美に鍛えられた鋼の肉体は簡単にやられないから安心しろ!」
夕美「そ、そうだね」
P「ん? ……夕美?」
夕美「なにかな?」
P「……夕美が来てる?」
夕美「え、え? うん、そうだけど……」
P「待て、今何時?」
夕美「今? えっと、私が家を出た時はだいたい7時くらいだったから……」チラッ
夕美「今は7時30分だね。もしかして予定? 朝早くからなんだねっ」
P「………………しちじ、はん?」
夕美「え……もしかして、遅刻になっちゃうとか?」
P「待て……俺、最後に時計を見た時は0時半くらいだったんだが……え、7時半……? え……?」
夕美「へ?」
夕美「……じゃあまさかPさん徹夜!? だっ、駄目だよそれ! 体を壊しちゃうよ!? 寝なきゃ!」
P「あーいや、別に徹夜は平気なんだが」
夕美「ええ!?」
P「ははは大丈夫大丈夫、ちょっとびっくりしただけさ。さあ今日も仕事を頑張ろうかー」
夕美「目がぜんぜん大丈夫そうに見えないんだけど!?」
P「ん? なんだ夕美、今日はやけに甘えてくるじゃないか、ははは、プロデューサー困っちゃうなー」
夕美「架空の私とお話しないで!? も、もうっ、仮眠室……は女の子が使う部屋だから、えっと、とりあえずどこか寝るところ!」
P「どうした夕美、なに、一緒に寝たい? い、いやあ誘いは嬉しいんだがなーどうしようか一線超えちゃおっかなー」
夕美「話をアレな方向に進めないっ!!」

<ごちーん!

P「オハヨウゴザイマス」
夕美「ぜーっ、ぜーっ、お、おはようPさん……!」ニッゴリ
P「あの、わたしはなにかしたのでしょうか。どうしてゆみさんはそんなおそろしいかおをされてるのでしょうか」
夕美「なんでも、ない、です、よっ!」ゼーゼー
P「ヒィ」
夕美「もう……。私レッスンに行ってくるね。Pさんは寝ててくださいっ。間違ってもそんな状態で泰葉ちゃんと会ったりしないでね!」
P「はい」
夕美「大丈夫かなぁ……。じゃ、行ってくるね」バタン
P「いってらっしゃいませ」
P「…………」
P「…………」
P「…………う〜〜〜〜〜む」
P「パターン64……いったんアイドルを忘れさせてとりあえず一緒に歌う……駄目だこれだとパターン7と同じだ、俺が桜の精霊に魅入られて骨になってしまう」
P「いや……歌ではなく、ダンス? おおそうだ、ダンスだよダンス! 一緒に踊れば楽しい! ほたるちゃんも笑顔に! そしてアイドルに! 俺大勝利!」
P「ダンスかー。やっぱ俺も踊らないといけないよなー。夕美は大丈夫だけど俺はなー」
P「ちょっと体を動かしてみるか……よっ、ほっ、やっ」
P「うーむ……やっぱり駄目だ、これでは楽しさを伝えられない!」
P「そうだ。ガチなダンスは夕美に任せて俺はネタに走ろう。何がいいだろうか……変顔、いやありきたりか。パン一……手錠をかけられる未来しか見えん」
P「常に豚の鼻で踊る……常に猿のポーズで踊る……お? 猿のポーズはいけるんじゃないだろうか。うきー、うきーっ」
P「ん? これちょっと楽しいぞ。いいな猿真似! うきっ、うききっ、うきっ……おお、新しい扉が開けていく……!」
P「うきーっ! うききっ、きーっ! はは、幼稚園の頃のお遊戯会を思い出す。こうやってモノマネをして競ってたっけ――」

<ガチャ おはようございます

P「うきーっ!」サルノポーズ
岡崎泰葉「ぶっ!!」
P「……………………」タラタラ
泰葉「……………………」タラタラ

<ガチャ 失礼しましっうくくっ失礼しまくくくっ失っあはははっ……
<待って! 違うの! 違うの泰葉! 帰らないで! 入ってきて! 今のはどんなダンスをしたらよりよくなるか考えただけで! 違……せ、せめて笑うなら思いっきり笑ってくれ〜〜〜!
<いえ、そんな、笑うだなん…………ヒクヒク…………
<泰葉あああああああああああ――っ!!


掲載日:2015年11月11日

 

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