「こいつら面倒くせえ!」
いつも思う。もうちょっとやり方はない物かと。もうちょっと上手くできない物かと。
……正直に言って、昨日よりずっと強く思う。 ――事務所の食堂(夜)―― 女性P(フリルドスクエア担当)「柚ったら、あの子ったら、ううっ、もう私なんていらないって顔でぇ……!」ゴクゴク 安部菜々「そーですよそーですよまーた加蓮ちゃんですかまああああた加蓮ちゃんですか!」ゴクゴク 北条加蓮「……………………」 どうしてこうなった。 ――回想―― 菜々『加蓮ちゃん加蓮ちゃん。今晩って空いてます?』 加蓮『今日? うん、空いてるけど、どしたの?』 菜々『あー……その……(小声)久々に飲みたくなったって言いますか、いろいろと吐き出したくなったと言いますか……どうしてもって時にはいいよって言ってくれたの加蓮ちゃんじゃないですか! Pさんには聞かれたくない話だってあるんです〜!』 加蓮『ふふっ。分かった分かった。食堂でいい?』 ――回想終了―― 加蓮「……断れない誘い方で騙すのって本気で反則だと思うんだよね私」 菜々「ダマすだなんてぇ! ナナはですね、ナナは、これでも加蓮ちゃんのことを……ひくっ」 加蓮「あー駄目だこれ……うわぁ、もう4缶も空けてるし……。3缶以降は駄目になるんでしょ?」 菜々「うう゛〜〜〜〜!」ダキツキ 加蓮「抱きついてむせび泣かないでよ……何言えばいいか分かんなくなるじゃん……」 まあウサミンは放っといていい。来るなり一気飲みしてこの有様だ。ストレスでも解消したかったのだろう、たぶん。 問題はこっちの―― 女性P「くっそぉ……くっそぉぉぉぉ! 加蓮ぢゃあん! 柚を私に返してぇぇぇ!」 加蓮「…………」 本気で面倒くさいほう。当たり前だがこの人の酒の席なんて見たことがない。対処方法なんて知る由もない。くっそぉってなんだ。帰りたい。帰って柚とじゃれあってぐーすか寝こけたい。 女性P「柚、柚ね、私の最初のアイドルだったの。アイドルになれるって思ってスカウトしてねぇ、はじめのうちは不安がってて、こう、くいって、くいって服の袖をね」 菜々「あー分かります分かりますぅ! ナナも最初そうだったですからね! ううっ、あの時のナナは若かった……!」 女性P「やーね菜々ちゃんは今でも若いでしょー? 私みたいなおばさんはいらないのね。もう用済みでぽいっなのね。いつか柚にババアなんて呼ばれるのかしら……」 女性P「そうなったら死んでやるわぁ! 死んでやるから! 加蓮ちゃんと一緒に!」 加蓮「私を巻き込むな……」 悪いことをしたとは思っている。以前の柚の問題に私が関わったのはあくまで柚を回復させる為だし、次はお願いとプロデューサーにバトンタッチしたこともよーく覚えている。そして今の私は、確かに柚を奪っている状態だ。 だがその仕打ちとしてこれはあんまりじゃないだろうか。同じ酔っ払ってひっつかれるなら菜々さんとか柚担当プロデューサーさんとかじゃなくてPさげふんげふん 菜々「ババア!? だーれがババアですか、ひくっ、ナナはまだ2(ピーッ)歳ですよぉ!」 女性P「私なんてもう(バキュン)よぉ! なーにが永遠の17歳よ! 余裕じゃない。余裕でアイドルやれる年じゃない!」 この会話って録音したらどれくらいで売れるかな。 菜々「ナナはこれでも一生懸命に……ごくごく……ぷはーっ! やってるんですよ! なのにPさんがいつもいつもニタニタした悪い顔で! ナナだってねえ、ナナだってねえ!」 女性P「そうよね、そうよね! 私だってねぇ、女の子をね、アイドルにね、なのに部長だの課長だのこれだから女はこれだから若いのはァ! ×ね! まとめて×ね!」 菜々「加蓮ちゃんだってナナをいつも笑って、これでも、これでもナナは、ナナは!」 加蓮「……いや笑ってないし……」 菜々「笑ってるぅ!」 加蓮「笑ってな」 菜々「笑ってまーすー!」 加蓮「……ああもうなんでもいいよ……」 女性P「給料上げろー! 柚ちゃん返せー! アイドルをもっと大切にしろー! 有給休暇くらい取らせろー! 女プロデューサーだからって嫌味を言うなー! ×ねー! (ピーッ)スタジオとか(ピーッ)プロダクションとかみんな×んでまえー!」 お前が×……いけない。つい子供みたいな返しをしてしまいそうになった。とりあえずそこの愚痴に柚を混ぜないでください。 女性P「加蓮ぢゃん!」ドンッ 加蓮「ひっ……な、なに?」 女性P「私、いらないの? もうプロデューサーいらないの? 柚は私をいらない子?」 言葉をちゃんと繋げて喋れ。でも言いたいことは分かったし言ってほしいことも分かる。 加蓮「いらない訳ないでしょ……柚にとってプロデューサーさんは大切な人だよ。いっつもPサンPサン言ってるし」 女性P「そんな訳ないわぁ!」ドンッ 加蓮「ひゃ……っ」 女性P「どーせ心の底ではお前もう用なしとか思ってるんでしょー! いーわよいーわよ若いのだけでつるんでれば。いつかおねーさんの有り難みを知るといいわぁ」グビグビ あ、ヤバイ。思ったより遥かに面倒くさい。 菜々「最近の若い子は飽きたらすぐに次だ次の物だと、少しは耐え忍ぶ精神をですねぇ!」 加蓮「え、何それ私に言ってんの?」 菜々「いーえっ加蓮ちゃんはずっとアイドルやってるじゃないですか! 今のは、加蓮ちゃんと比べて今の若い子はって話だったんですよ、実は!」 加蓮「……褒められてる、んだよね? ありがと……」 女性P「ああああああ! 今、今頭ん中で柚ちゃんがもうPサン飽きたってにっこり笑って言った! うわああああああああ!!」 加蓮「……………………」 帰らせてください。 女性P「うぅ……柚ちゃん……柚ちゃぁん…………」 菜々「ぷはっ。いやーホント加蓮ちゃんは……加蓮ちゃんは……オイコラー!」 加蓮「え」 菜々「今日という今日は! まーたナナをほったらかしにして!」 加蓮「あ、今度は自分の方なのね……別にほったらかしにしてないでしょ、ちゃんとレッスンやってるしこの前のお休みだって、」 菜々「そーいう話をしてるんじゃありませんっ!」ドンッ 女性P「そうだそうだー!」ドンッ 加蓮「…………」 帰らせてください……。 ――翌日 事務所の仕事部屋(朝)―― 加蓮「おはようございまーす」 菜々「おはうっさ……うぷっ……」 高森藍子「ああっ、菜々さん。大丈夫ですか……?」サスリサスリ 藍子「あ、おはようございます加蓮ちゃん。その、菜々さんが酔っ……え、ええと、すごいことになっているんですけれど、その、どうしたらいいか分かんなくて……」 加蓮「おはよ、藍子。仮眠室で寝かしておいたら? こんな姿、柚とか忍には見せらんないし……私も運ぶの手伝うから」 藍子「そうですね! じゃあ私こっちを運びますので、せーのっ」 加蓮「よいしょ、っと」 菜々「ウサミン星人は……17さい……」 (運び終えた) 加蓮「はーっ……」 藍子「ありがとうございます、加蓮ちゃん。私1人じゃどうにもならなかったから……すっごく助かりました!」 加蓮「ううん。……あ、柚のプロデューサーさんってもう来てる?」 藍子「柚ちゃんのプロデューサーさん、ですか? それならさっき……えっと、10分くらい前かな? に来て、すぐにお手洗いに……すごく顔色が悪そうだったので、ちょっと心配だったんです」 加蓮「そっか。ところで藍子さ、今日もラジオの収録なんだっけ」 藍子「はいっ。それと、ドラマの撮影の方も」 加蓮「相変わらずハードスケジュールだね。ならさ、現場で配ってほしい物があってねー」ハイコレ 藍子「どれどれ………………え゛っ」 それからしばらくの間、ウサミン星人は現場のスタッフから飲みに誘われていたそうな。 |
掲載日:2015年10月21日