「聞くから、ちゃんと答えてね。」





柚の一件が片付いてからも、Pさんは私の送迎を続けてくれていた。
それほど大きな仕事もなく、ミーティングは現場へ移動する時の車内だけで終わらせられる。
だからもう、ずっと事務所には行っていない。

……Pさんなりに気遣ってくれているのかもしれない。私達の問題だって啖呵を切っちゃったから、せめて自分にできることを、なんて。
私はどこまで行っても馬鹿だ。いつも後から悔やむ。
もっと素直になればいいのに、って。

――車内――
P「お疲れ加蓮。今日もバッチリだったな」
北条加蓮「当然だよ、ふふっ……って言えればよかったんだけどね。いっぱいいっぱいだよ、もう」
P「そうか? カメラマンさんずっと恐縮してたぞ。最後には私なんかが撮っていいのでしょうかってうわ言みたいに言ってたらしいし」
加蓮「様子が変だったけどそういうことだったんだね……。変なの」
P「まあ、課題を見つけて成長していくことは大切だけど、考え過ぎると頭がパンクするぞ?」
加蓮「分かってまーす。今日はもう帰るだけなんだよね。ねね、Pさん、どっか寄ろうよ。デートしようデートっ♪」
P「はいはい、お前の帰りを待ってるお姫様がいるんだろ? さっさと送っていくから横になって休んでろ」
加蓮「……Pさんのケチ!」

加蓮「ねー、お腹すいたー」
P「そういえば現場の人から差し入れもらってたな。ほら」つ飴玉
加蓮「……Pさん、今のは遠回しにデート行こーって誘いなんだよ。ちゃんと分かってあげないと女の子から呆れられるよ?」
P「うっせえよ。デートに行きたいなら直接言えっての。男は分かんねえんだそういうの」
加蓮「じゃあ寄り道してくれる?」
P「俺はこの後も仕事だ」
加蓮「ケチー! Pさんなんて書類の山に瞑れてしまえっ」
P「おい微妙に想像できること言うのやめろ」
加蓮「それを見下ろして私が高笑いしてやるんだ。えー、なになに、助けてほしいのー? どうしよっかなー?」
P「だからリアルに有り得そうなこと言うのやめろって」
加蓮「……ちょっと待って、私が高笑いして悪役っぽいセリフを言うことをリアルに有り得そうって言うのやめてくれない?」
P「お前ならやる、絶対に躊躇いなくやる」
加蓮「嫌な信頼だなぁ! もう、Pさんにそんなことしないって」
P「どーだか……」

加蓮「ねー、ヒマ」
P「渋滞してんだからしょうがないだろ……」
加蓮「何か話しようよ。次のお仕事のこととかないの?」
P「ない。というか、段取りはもう話しあったし台本だって渡してるだろ」
加蓮「うん。柚が主演ごっこやろーって言い出して鬱陶しい」
P「……一応、社外秘なんだけどな。柚ちゃん、どんな感じだ? 元気にしてるか?」
加蓮「元気元気。フリルドスクエアでも元気にやってるみたい」
P「そうか。加蓮としちゃ寂しいんじゃないか?」ハハッ
加蓮「べっつにー。ずっとうちにいてくれてるし、ぜんぜん寂しくなんてないしー?」
P「そーかそーか」
加蓮「むぅ」
P「加蓮もフリルドスクエアに混ぜてもらったらどうだ?」
加蓮「Pさん、それPさんが言うと冗談じゃなくなるんだけど」
P「俺は割と本気だぞ? 加蓮ならどこでだってやっていけるだろ」
加蓮「……やめとく。みんなの邪魔はしたくないよ」
P「そか」
加蓮「ゲストLIVEくらいなら」
P「考えとくかな」

加蓮「ねーPさーん」
P「んー?」
加蓮「ちょっとはっきりさせときたいんだけどさ。正直に言ってね。気を遣うとか媚びるとかナシで」
P「おう? 何だ改まって」
加蓮「Pさん、私のこと迷惑に思ってるってことある?」
P「…………」
加蓮「ほら、私ってただでさえ体力アレだし……スケジュールの調節とか大変でしょ? それに最近はPさん、私に気遣って長期ロケとか入れてこないし……聞いたよ? 『アイドルまったりカメラ』の旅番組の企画、しばらくは出せないって言ったんでしょ?」
P「……どっから聞いたんだよ、そういうの」
加蓮「現場の人から。っていうか新企画の立ち上げに私をって言ったっきりご無沙汰なんだもん。気づかない訳ないよ」
P「…………」
加蓮「だからPさん、どう思ってるのかなーって。……ちょっと不安になったっていうか」
P「…………」
加蓮「…………どうなの?」
P「加蓮」
加蓮「ん」
P「迷惑をかけられるのがプロデューサーで、俺はその方が嬉しい。本音をぶつけてくれてる気がしてさ」
P「それだけだ」
加蓮「そっか。……嘘じゃ、ないんだよね」
P「はは、人の嘘は見抜けるんじゃなかったのか?」
加蓮「あはは、Pさん手強くなっちゃったから」
P「そっか」
加蓮「…………」
加蓮「…………よかった」
P「ん?」
加蓮「変に誤魔化される方が辛いもん。正直に言ってくれた方が、私は嬉しいよ」
P「……そっか」
P「…………やっぱり不安か? 藍子と菜々のこと」
加蓮「!」
加蓮「も、もー、ホントにPさんデリカシーないなぁ。そういうの分かって言う? 普通」
P「気遣いとか建前とか無しって言ったのお前だろ? で……実際どうなんだよ」
加蓮「……思ってるよ。当たり前じゃん」
P「…………」
加蓮「私さ。……思い上がってるかもしれないけど、私がいない間、藍子や菜々さんはどうしてるだろってずっと思ってる」
加蓮「私がちゃんとした答えを出すのを、2人ともずっと待ってるのかなって……」
加蓮「それとも、やっぱり私のこと身勝手な子供だって怒ってるのかな、なんて」
加蓮「……私のことなんてどーでもいいって思ってるのかな、とも」
P「…………」
加蓮「分かんないことが、ちょっと怖いんだ」
加蓮「私、昔から周りの人の考えはだいたい分かってたから」
P「……そっか」
P「それ、俺が教えちゃ駄目なんだろうなぁ……」
加蓮「駄目だと思うよ。たぶん、菜々さんが許してくれない」
P「菜々が?」
加蓮「菜々さんと1度話したんだ。藍子はどうしてる? って聞いたら、ヒントをあげる訳にはいかないって言われちゃった」
P「はは……そういえば菜々、この件に関しては17歳って設定は捨てるって言ってたぞ」
加蓮「あ、それ私も言われたっ。あはは、設定だってさ!」
P「ははっ。それに――」
加蓮「それに?」
P「……そうか、俺が言っちゃ駄目なんだよな」
加蓮「…………」
P「……ああもう……くそっ、菜々には内緒にしててくれよ?」
P「自分の番になると辛いって言ってたぞ。加蓮が歌鈴に対してやったようなこと、自分がやると胃に痛いって」
加蓮「うん……? 私が歌鈴に…………、……あー」
P「ほら、そろそろ家が見えて来たぞ。降りて柚ちゃんに飛びかかられる準備でもしてろっ」
加蓮「……あ、はーい。って、なんで柚が飛びかかってくることPさんが知ってるの」
P「柚ちゃんが楽しそうにべらべら喋りまくってるからな。他には、例えば加蓮が寝る前に――」
加蓮「わーっ! わーっ!? ま、待って、ちょっと待っ……あんのぉ……! わ、忘れて! 柚が言ったことぜんぶ忘れること! 忘れなさい!」ゲシゲシゲシ
P「ははっ、こら、車を蹴るな。ほら、ついたぞ加蓮。文句は柚ちゃんに言ってこいっ」
加蓮「言われなくてもそーする! またねPさん!」
P「ああ、またな。暖かくして寝ろよ?」
加蓮「うっさい! ……それと」
P「ん?」
加蓮「……ありがとね」
P「はいはい。ユニットでのLIVEが持ってこれる日を楽しみにしてるからな」
加蓮「…………うん。待ってて」

<ブロロロロ....

加蓮「…………」
加蓮「……さあてと」

<ガチャ
<あ、加蓮サンおかえりいいいいいいいいいいいいいい!!??
<たっだいまァ!
<ぎ、ぎぶ、ぎぶぎぶ! しまってるしまってる! いきなり何ー! いきなり何ー!?


掲載日:2015年10月7日

 

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